群衆集まる中で指名手配犯を逮捕する。中国最先端顔認証技術の実態。
「2018年の間にあるコンサート会場にて、顔認証技術を利用し、少なくとも55名の指名手配犯を捕まえた。」
これは2018年、中国のテクノロジー関連ニュースにおいて、最も人々を驚かせたニュースのひとつです。
中国政府は「2018年4月から10月までの半年で、ミュージシャンの張 学友(ジャッキー・チュン)のコンサートにおいて顔認証技術を利用し、少なくとも55名の手配犯を捕まえた。」と公表しました。
「張 学友」は日本での認知は低いかもしれませんね。wikipediaの記事はこちら。
本記事では、この中国での話題となった顔認証技術のニュースに関連する情報を紹介します。
なぜ張 学友のコンサートで55名もの指名手配犯を捕まえられた??
情報を集めていくと、おおよそ以下の内容だったと推測できます。
まず、今回の顔認証技術を用いた逮捕劇の背景として、中国ではいくつかの前提条件が整っていました。
1. 中国公安局が現在オンラインで公開している指名手配犯の人数はおよそ1,400名。
その中の少なくとも半分以上は30~50歳の中年男性であった。
2. 張 学友は中国大陸の中年層、中でも特に男性から人気のあるミュージシャンであった。
3. 張 学友のコンサートの会場は指名手配犯の出没場所と重なる、二級、三級都市に集中していた。
4. 現在の中国の顔認証技術は、特に中年男性の判定に長けている。そのため、指名手配犯がコンサート会場に入る時に、自動で人物の目、鼻、口で識別を行うという、高度な顔認証ができた。
これらの状況から、公安局は張 学友のコンサートにおいて顔認証技術を使用した指名手配犯を捕獲する構想を発案したと考えられます。そしてこの構想を実行した結果、たった半年間で少なくとも55名の指名手配犯を張 学友のコンサートという人が密集する場で捕まえることが出来たのです。
これまでの取締方法は、指名手配犯のデータをデータベースに保存しておき、警察が犯人と思しき人物と接触することで、データと比較し、判定するというものでした。当然この方法では多くの時間を費やし、尚且つ犯人を捕まえるタイミングを逃してしまう、そもそも接触すらできないという事が多くありました。
現在では、顔認証技術の実用化に伴い、指名手配犯のリストをロード・比較・データ分析及び顔模型の確立させる事で、短時間内に顔の100以上に及ぶポイント(描かれた顔の輪郭)に対してリアルタイムで対比・分析を行うことが可能となり、リアルタイムの監視が実現しているのです。
スーパーにおける顔認証技術の実用例
顔認証技術が監視に使われると少々怖い話ですが、商品設計や営業予測といった活用もされ始めています。 実際、中国では、すでに多くの企業が顔認証技術の製品化を開始しています。
例えば、女の子がスーパーでカートを押して支払いをするまでの間、その子の思考がどの様に変化をしてきたのかを、別の人が理解する事はそう簡単には出来ません。
しかし、顔認証技術を用いることで、その女の子の行動が浮き彫りになります。
「長く留まった棚はどの棚か?」「異なる商品を選択するのにかかった時間はどれくらいか?」「ポテトチップスを選ぼうとしているのか?」「ポテトチップスの袋の色は緑か?そもそも商品名は?」と言った、カートに入れるまでの一連の流れを把握する事ができます。そしてこの女の子の特徴に対して記録と分析を行う事で、今後の商品設計において情報面で大いに貢献をする事ができるのです。
この女の子はポテトチップスを購入するまでに何を思っていたのでしょう?
この女の子にはどのようなプロモーションをすれば、購入までの顧客体験に影響を与えられるのでしょう?
私たちは顔認証を使用する事で、購入までの顧客体験において発生した全ての事象を把握することができます(もちろん、購入しなかった場合すらも把握することが出来るのです)。
顔認証技術が誕生してからそれが実現されるまで、そこにはまだ大きな空間とポテンシャルが残されています。そして、顔認証には私達が今後もずっと深掘りを続けていくだけの価値と可能性を秘められているのです。
屋外広告における顔認証技術の採用事例
海外の屋外広告の事例を紹介しましょう。
一般的な屋外広告では、その広告が見られたかどうかは、人手を使って計測するしか出来ません。しかも計測すると言ってもその前を通った人数まで位のものでした。
この例では、屋外広告を設置する時に、同時にカメラを設置したそうです。
カメラを設置する事で、この広告の前をどの様な人が通ったのかを記録することができました。 「通った人はこの広告に注目したのか?」「その場に留まったのか?」「この広告に対して肯定的もしくは否定的な表情をしたのか?」人手で計測するよりも確実により多くのデータを入手することができます。このデータは広告出稿クライアントに対してより良い情報を提供する事ができます。
この実例が示すことは、顧客のオフラインの行動・反応データを活用することで、よりすぐれた予算の分配と配置を可能になるということです。これまでの一面的な判断ではなく、全経路における予算の分配に対して、より科学的で、より優れた意思決定を手助けすることができのです。
なお、この日本においても顔認証技術を搭載した自動販売機のデータを広告利用したとして、かつて社会問題化したことがあります。個人情報保護法の改正のきっかけにもなっており、プライバシーとの兼ね合いは当然抑えておくべき事実です。
「顔認証技術」における中国の競争力とは
アメリカの国家標準と技術研究院(NIST)の2018年グローバル顔認証技術ベンチマークテスト(FRVT)の最新の結果によると、今年は実に全世界から39の企業と機構が今回のテストに参加しています。そして最新のランキングにおいて、トップ5は中国の企業が占めており、この点からも顔認証技術において中国の強大な競争力が伺えます。
ではなぜ顔認証技術が中国でここまで発展したのでしょうか?
その背景には計り知れないビッグデータの恩恵があると考えます。
中国のビッグデータの蓄積は、一方では科学技術企業及び技術開発者に広く経験を積むプラットフォームを提供。そしてもう一方では、企業にマネタイズの道を提供しています。
恐らく中国の顔認証技術は今後更なる発展を遂げるものと考えます。
遠くない将来、顔認証技術は、私達のもっと身近な生活に大きな影響を与える事になると考えます。
少しでも早く顔認証技術の良い点と悪い点を理解しておくことが、利用する側としても、利用される側としても、重要なことになるのではないでしょうか。
参考記事:
「顔認証技術トップ11社」
「中国における顔認証技術の発展」