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  • デジタル庁発足にあたり、改めて世界の電子政府を考える

 
2021年9月1日、「デジタル改革関連法」により内閣府の組織としてデジタル庁が設立されます。「デジタル社会の形成に関する行政事務の迅速かつ重点的な遂行を図ること」を任務としており、官民問わず適材適所の人材が配置される予定の組織です。

昨年、国連が発表した電子政府ランキング(国連加盟193カ国が対象)では、2年前より順位を下げて14位となった日本。これまでにも各省庁がデジタル化の政策をそれぞれ実施してきた中で、コロナ禍における給付金対応では、縦割り行政により必要情報の連携が滞ったことで、国民への支給に遅れが生じたことが問題視されました。

デジタル庁設立後の取り組み内容としては、各省庁のシステムの一元化やデータ連携が挙がっています。それにより、行政の縦割の弊害を解消し、各省庁間の業務効率化や、国民に対する行政サービスが迅速化されることが期待されています。

デジタル庁の今後の動きに注目が集まる国内ですが、世界の電子政府先進国ではどのようなデジタル行政が執り行われてきたのでしょうか。コロナ禍により行政サービスのデジタル化推進が一層問われる今、ランキング上位国の施策から、今後のデジタル庁への期待を考えてみました。
 

デンマーク

ユーザーファーストなシステム

隔年で発表される電子政府ランキングにおいて、2018年に引き続き1位として評価されているのがデンマークです。

デンマークでは、1968年の時点で既に「CPR番号」(日本でいうマイナンバー)が導入されていました。これは生活におけるデジタル基盤であり、生年月日や性別などの個人情報をはじめ、行政、医療、教育、税務などに関する全ての個人データが保管され、該当機関は必要に応じてデータにアクセスできるようになっています。

その他の基盤として、市民ポータルサイト「Borger.dk」や、国民はCPR番号に紐づいた電子私書箱「e-boks」、インターネット口座「NemKonto」を持つことが義務づけられています。国や市によるお知らせはメールでe-boksに届き、給与の受け取りや納税はNemKontoを通じて行われるなど、各手続きや情報を受け取る手段がわかりやすく決められています。

これらの行政サービスには、CPR番号をオンラインで使用するために必要となる共通の電子署名・電子認証システム「NemID」が使われます。デンマークでは行政の手続きをはじめ、オンラインショッピングやインターネット銀行など、生活のあらゆる場面でNemIDが使えるほか、アプリを通じてスマートフォン上で認証を完結できるなど利便性の高いシステムです。(2021年には新たな電子認証サービス「MitID」の提供が開始予定)

どのオンラインサービスでも共通のCPR番号と認証システムを利用してさまざまな手続きができるため、国民にとっては非常にシンプルで分かりやすいデジタル化政策となっています。システムだけではなく、簡単に使えるようなUI/UXにも定評があるなど、デンマークでデジタル化が進んだ理由のひとつには「ユーザーファースト」の考え方があると言えるでしょう。

韓国

政府24とIT人材育成

韓国は、デンマークに次ぐ世界有数の電子政府先進国です。2000年代初頭から本格的に電子政府に取り組んでおり、前述のランキングでは2010年から2014年まで3回連続で1位と評価され、それ以降も上位を保ち続けています。

韓国における代表的な電子政府の取り組みは、ワンストップの市民ポータルサービス「政府24」です。政府24では、IDとパスワードを入力するだけで、住所変更や証明書発行など約3,000種類以上の行政手続きをオンラインで完結できます。ほとんどの手数料は無料で、国民によるサービス利用率は87.6%と高い数値を誇っています。

ポータルサービスの基盤となるのが、個人番号である「住民登録番号」です。生まれた時に全国民に割り当てられ、17歳になると役所で指紋登録を行い住民登録証の交付を受けることが義務付けられています。この番号は、行政サービス以外にも医療や福祉、出入国管理、クレジットカードの利用歴などの記録と紐づいており、生活に欠かせないものとなっています。

韓国における行政のデジタル化は、行政の透明化、コスト削減も目指していることもポイントです。2001年に制定された電子政府法では、行政業務や行政文書の原則電子化、行政情報の共同利用等を定めています。税金の使い道や行政文書などをデータ化しオンラインで公表することで行政情報をオープンにし、行政情報についても共通システムで統一運用されているため、行政コストの削減にも繋がっています。

また、インフラの整備だけではなく、IT人材育成にも重点が置かれています。高度専門人材の育成や受け皿の整備だけではなく、国民のデジタル能力開発や情報格差の解消にも注力しており、サービス利用者である国民のデジタルリテラシー育成を重要視していることがわかります。

エストニア

最先端電子国家のX-Roadやe-Residency

2018年から大きく順位を上げ、3位となったのがエストニアです。1991年に旧ソ連から独立回復したエストニアはデジタル化政策を一気に進め、現在では行政サービスの99%が電子化されています。起業も盛んで「Skype」や「TransferWise」、「Pipedrive」などのユニコーン企業が誕生している他、世界からIT企業・人材が多く集まるなど、最先端の電子国家として注目を浴びています。

エストニアでは全国民にID番号が割り振られ、15歳以上の国民は身分証明書となる電子カード「eIDカード」の保持が義務付けられています。eIDカード一枚で、運転免許証、保険証、交通系ICカード、銀行カードの機能を包括しています。

eIDカードの利用基盤となるのが、あらゆる機関のデータを連携するプラットフォーム「X-Road」です。官民が持つそれぞれの情報が一元化され、行政サービスだけではなく引越しや出生の手続き、医療手続きなど、それまで紙面で複数の作業を必要としていたものが、ワンストップに、オンラインで簡単に完結できるようになりました。

さらに、エストニアは2014年に「e-Residency」という電子居住制度を開始しました。これにより、外国人でもエストニアのIDを取得して電子居住者になることができ、一部の電子政府機能を使用して国外にいながらも法人の設立や銀行口座の開設などが可能になります。2020年の時点では、世界中で約7万人が電子居住者として登録されており、日本でも3,000を超える人が登録し、約230社の法人を設立しています。

デジタル庁の取り組みに向けて

上記に挙げた電子政府先進国の取り組みは、今後日本がデジタル庁設立後に注力する内容と近いものもあります。国をはじめデジタル基盤の整備が進むことで、官民のデジタル化も一層推進される流れが予想できます。

一方で、情報のデータ化、サービスのオンライン化に伴い、セキュリティや個人情報保護の観点、利用者のデジタルリテラシー、情報格差といった観点も見過ごせないでしょう。どのように安全と安心を担保しながら運用を図っていくのか。今後、実際に行政サービスを利用する=ユーザーとなる私たちは、そのような点でも日本のデジタル行政に注目し続けていくべきではないでしょうか。

デジタル庁が、トップダウンで国全体のデジタル化における共通の仕組みづくりやガイドラインの整備等を進めることで、たとえば現在は各省庁・自治体単位で展開している電子行政サービスが、コロナ禍のような緊急時も含め、生活の中で積極的に利用したいサービスになっていくことを期待しています。

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