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  • デジタル人材育成に欠ける「実践」、経営幹部や環境面の打ち手を

 
「バズワードに斬り込む」連載2回目で取り上げるのは「デジタル人材」。その本質的な意味を考え見極めていきます。

結論から言うと、デジタル人材の「実践」にも目を向け、現場層への座学研修を増やすだけでなく、経営幹部層の意思決定や戦略立案能力を開発し、実践機会創造にも取り組むべきと提言します。本記事では、主に下記のポイントについて、前・後編に分けて解説していきます。

・デジタル人材の育成は、現場社員のプログラミング言語やAIアルゴリズムなど、ハード面のテクノロジー知識の向上に偏って語られること多すぎるのではないか
・デジタル人材は「デジタルを活用して事業貢献に取り組める人材」と捉え実践を重視すべきではないか
・実践、挑戦し続ける環境が大事であり、経営層やリーダー層がデジタル領域の意思決定や挑戦奨励をすることが必要なのではないか
・ハード面だけでなく、事業視点=ソフト面の育成が重要ではないか、座学研修を増やすだけでなくトライアルするプロジェクトを増やすことを打ち手に含めるべきではないか

前編では、デジタル人材の定義について考えてみます。

(話:アンダーワークス代表取締役 田島 学)

バズワード化してきた「デジタル人材育成」

2021年末、政府は「デジタル田園都市国家構想」の実現に向け、今後5年間でデジタル人材を230万人確保するなど施策の全体像を取りまとめました。ここでは、5Gやビッグデータなどのデジタル基盤の整備や、地方の地域課題をデジタルで解決するデジタル実装などと並び、「デジタル人材の育成・確保」が主要施策に掲げられています。

具体的には、企業のデジタル人材育成に向けた基盤構築支援、大学や職業訓練施設との連携などを行い、2026年度までに230万人のデジタル人材確保を進めるとされています。それを受け、年明けから今日まで、多くの企業が「デジタル人材◯◯万人育成」といった年頭所感を発表するなど、各報道に「デジタル人材」の言葉が並び続けています。

こうしたトレンドは、デジタルマーケティング業界に従事する者としても大変喜ばしいことだと思います。素晴らしい戦略やテクノロジーがあっても、デジタルリテラシーが低いとその成果は非常に低くなってしまうという課題意識を日々感じているからです。

同時に、この「デジタル人材教育」が一過性の表層的な、形骸化された取り組みで終わってほしくないという危惧も抱いています。特に、デジタル人材育成のために「座学研修を増やした」だけで終わってはいけないと考えています。
 
参考:デジタル田園都市国家構想関連施策の全体像(内閣官房)
参考:2020年度の国内デジタル人材関連サービス市場は前年比6.5%増の9678億円(矢野経済研究所)

「先進テクノロジー」が強調されすぎている現在のデジタル人材の定義

まず、世間では「デジタル人材」がどう定義されているのかを確認してみましょう。

経済産業省とみずほ情報総研による「第1回 デジタル時代の人材政策に関する検討会」(2021年2月開催)をまとめた、デジタル人材に関する論点を参照してみます。こちらでは、デジタル人材の明確な定義はありませんが、検討対象の人材として① 足下で必要な「DXの加速化」を担う人材、② 今後のデジタル社会を担うデジタルネイティブ人材を挙げています。また、デジタル人材の定義に関しては「その定義が難しい」「画一的ではない」「単なるエンジニアではない」などの議論が交わされています。すなわち、経済産業省のデジタル人材の政策検討においても明確に定義されていない状態です。

では、政府・官公庁以外は「デジタル人材」をどのように定義しているのでしょうか。

”「デジタル人材」とは、「最先端のテクノロジーを活用して、自社や顧客に価値提供できる人材」と定義
デジキャリア(株式会社MOCHI )

”最新のデジタル技術を活用して、企業に新たな価値を生み出す人材”
エンジニアラボ(株式会社パソナテック)

”最先端のテクノロジーの知識を用い、自社、あるいは顧客に価値を提供できる人材”
デジタル時代を勝ち抜くための人材戦略(株式会社ベイカレント・コンサルティング)

多くの企業で似たような定義がされており、現在は上記が一般的な「デジタル人材」の定義として受け入れやすいものになっていると考えます。ここでは「最先端・先進テクノロジー」「価値」「顧客」などがキーワードとなっていることもわかります。私自身も定義として納得できる内容だと考えますが、デジタルマーケティングの専門家として、この定義をもう少し具体化してみたいと思います。

デジタル人材の定義には「実践」も重視すべき

そこで、デジタル人材を下記のように定義したいと思います。

先進的なテクノロジーや新たな顧客接点、多くのデータを活用し、大幅な利益向上、コスト削減、新たな収益機会の実現に取り組むことができる人材

ポイントは3つです。
 

1. デジタル人材は、テクノロジーだけでなく「新たな顧客接点」「多くのデータ」を活用

デジタル人材は、先進的なテクノロジーを活用するだけではなく、新しい顧客接点(これはメディアやアプリやあるいはコミュニティのようなものを含みます)も活用できる人材であると考えます。

例えば、「音声SNSのClubhouseを利用した新しいデジタル広報や採用活用」を行ったり「スマートスピーカーを活用して、自宅から家事をしながら旅行先を提案するデジタルな旅行代理店ビジネスを企画」したりすることを考えてみます。

その場合、VOIP(Voice Over IP)のような音声伝達技術や、アプリ開発のプログラミング言語に精通していることも大事です。しかし、それ以上にどんな顧客接点にニーズがあるのか、どんなメディアとして存在すべきか、コミュニティにどのくらい人が集まっているのかなど、新しい顧客接点の場にも精通していることが重要です。

「データ」は「テクノロジー」に含まれるものだと思われがちですが、今はあえてそれを含めてテクノロジーを考えたいと思います。先進的なテクノロジーを使わずとも、データ活用によって劇的な顧客体験や収益の向上が実現できるためです。
 

2. デジタル人材は、デジタルを「事業に活かせる」という視点

次に、「利益向上」「コスト削減」「収益機会の創造」という部分です。「顧客、市場への価値提供」と同義ですが、具体的に事業上のメリットとなる身近な言葉で表現していることがポイントです。

顧客や市場への価値提供を定量的に計測する際には、事業会社であれば収益へのインパクトを見るはずです。したがって、デジタル人材は「単にテクノロジーに強い人材」ではなく、「事業変革を担う人材であるべき」という視点を強調しています。
 

3. デジタル人材は「実践することが大事」という視点

これが、最も重要なポイントです。デジタルに関して「詳しい」「スキルがある」ことを超えて、それを「活用し、事業貢献のために実践できる人材」という視点を強調したいと思います。

本来、知見とは何かを実践し、成功や失敗を繰り返すことで培われるはずです。頭でっかちな知識依存やスキル依存型の人材を輩出することは、デジタル人材育成の本質ではありません。そこで、実現に向けて「取り組むことができる人材」と定義し、実際に事業に活かすべきであるという視点を明確にしました。

また、本人の意欲や知見のみならず、環境面が大事であることも指摘したいと思います。どんなに企業がデジタルリテラシーの高い人材を育成しても、企業自体が実際にデジタルを活用した取り組みの意思決定をしなかったり、トライ&エラーを許容しない環境であっては何の変化も生まれないでしょう。

つまり、現場社員をプログラミング言語やAIアルゴリズムなどに精通させ、そのために教育研修を増やすといった考え方だけではなく、経営層、リーダー層のデジタルリテラシーを高め、実践できる環境を創るという部分にも目を向けるべきだと考えます。それを提言すべく、前述したようにデジタル人材を定義しました。この観点については、後編で詳しく触れていきたいと思います。

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