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購買活動において、消費者やユーザーがより優れた体験を望む中で、顧客データを元にニーズを把握し、体験価値向上につながるコンテンツを最適なタイミング・チャネルで発信する必要があります。多くの企業が顧客体験の向上を目指して「データマネジメント」やマーケティングテクノロジー活用を試みる今、その実現にあたって必要なツールをどのように選ぶべきか、悩む担当者の方も多いのではないでしょうか。
 
2022年4月20日に開催された 株式会社Sprocketのセミナー「マーケティングテクノロジーの最新動向からみた顧客体験向上のカギ」のレポートを元に、国内外のマーケティングツールの最新動向や「マーケティングテクノロジーカオスマップ」からみるツール活用、より良い顧客体験に向けたツール選定の極意を解説します。
 

登壇・解説

アンダーワークス田島

アンダーワークス株式会社 代表取締役社長 田島 学
 
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)等を経て、2006年にアンダーワークスを創業。大手企業のデジタルマーケティング戦略、マーケティングツール/プラットフォーム構築支援などを専門とし「マーケティングオーケストレーション」の重要性を提唱。海外の最先端マーケティングテクノロジーに精通しており、国内への紹介、導入支援、販売を推進する。

Sprocket深田氏

株式会社Sprocket 代表取締役 深田 浩嗣
 
2000年 株式会社ゆめみ 創業、2014年 株式会社Sprocket 創業。15年に渡りモバイル領域でのデジタルマーケティングを提供しECを中心に200社以上の立ち上げ・改善を実施。日本古来のおもてなしにおける企業・顧客の関係性に感銘、未来はここにあると確信。テクノロジーを使って現代流にするべく日々試行錯誤。著書「いちばんやさしいコンバージョン最適化の教本」、他。

マーケティングテクノロジーカオスマップに見るツールの多様性

深田:Sprocketは、CRO(Conversion Rate Optimization)プラットフォーム「Sprocket」の開発・提供および導入サイトのコンサルティングを行い、企業のWeb接客における課題解決の支援をしています。今回は、企業のデジタルマーケティングのコンサルティングを行うアンダーワークス代表の田島さんと、顧客体験向上に向けたマーケティングテクノロジーの最新動向や、ツールの選定などについてお話しできればと思います。

早速ですが、アンダーワークスといえば「マーケティングテクノロジーカオスマップ」を毎年発行されています。これはいつ頃から取り組んでいるのでしょうか。
 

田島:カオスマップは、2017年から毎年発行しています。下図は2021年の最新版です。アンダーワークスでは「マーケティングオーケストレーション」の実現というミッションのもと、データや組織や戦略・施策など、分断されたあらゆるマーケティング活動が繋がっていく世界観を目指して、企業のデジタルマーケティングを支援しています。顧客体験の向上を担うマーケティングツールにしても、各企業の課題に応じたツールを組み合わせて導入し、施策に繋げていくような活動の支援をしています。
 
実際にこのマップは、企業にマーケティングツール選定・導入を提案するコンペの際に活用したり、クライアントや社内のコンサルタントがツールのジャンルや分類の知見を学ぶために活用しています。
 

マーケティングテクノロジーカオスマップ JAPAN 2021

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深田:最新の2021年版では、1300を超えるテクノロジーが掲載されているとのことですが、これだけ数が多いと制作も結構大変そうですね。
 

田島:毎年、各テクノロジーを分類するカテゴリなどを整理しているので、結構な労力を使いますね(笑)もともとは、アメリカの「MarTech Conference」というイベントで、主催のスコット・ブリンカー氏がグローバル版のマーケティングテクノロジーカオスマップを紹介していたんです。毎年イベントに参加しながら、掲載されるテクノロジーがどんどん増えるのを見ている中で感化され、私たちも日本版のカオスマップを制作し始めました。
 
アメリカのマーケティングテクノロジー系のイベントというと、ベンダー主催で華やかなものが多いですが、MarTechは特定のテクノロジーに傾倒しない、非常に中立的かつ地道なイベントで、企業がどのようにテクノロジーを組み合わせるかなどを横断的に考える場として開催されています。コロナ禍ではオンライン開催が続いていましたが、今年はオフラインで開催されることを期待しています。

オールインワン VS スタック 〜マーケティングツールの選び方

オールインワンのツールか、テクノロジースタックをつくるか

田島:MarTechで毎年議論されるテーマの一つに、オールインワンかスタックか、といったものがあります。顧客接点が広がり、マーケティングテクノロジーにもいろんな機能が必要となる中で、あらゆる機能を抱合した「オールインワン」のツールを活用すべきか、多様なメーカーのテクノロジーを自社で組み合わせてつくる基盤=「スタック」であるべきか、といった議論です。
 
現時点で、MarTechの中ではスタックをつくる形がより良いとされていますが、世の中ではオールインワンのツールを活用する流れがあると思います。大手のベンダーがさまざまなマーケティングツールを買収する流れもあり、このまま進むとベンダー数社があらゆるテクノロジーを抱合して収斂されていくような気もしますね。
 

深田:当社も、いちベンダーとして、思想としてはスタックの基盤をつくる方向性です。田島さんはどちらの考えが近いのでしょうか。
 

田島:私自身も、各企業がスタックをつくる方向性に利があると思います。マーケティングの世界では差別化が大事になります。顧客体験をより良くするには、決まったものに向かっていくよりも、他者とは違うことを強みにするために、自社に合ったツールを組み合わせてオリジナルの基盤をつくったほうが差別化されていく、という見方もあると思います。
 

深田:競争力強化という意味でも、コストや機能差分に加えて、他社との差別化といった点もツール選定の観点のひとつになりそうですね。
 

田島:大手ベンダーが買収した後も、そのツール同士が連携できていないことは意外とあります。今はAPIエコノミーと呼ばれるように、他社のツールともAPIで繋げられるので、必ずしも同じメーカーのものかどうかは関係ないという見方もできますよね。
 
異なるアプリやサービスを連携できるZapier(ザピアー)のようなテクノロジーもあるので、多様なツールを組み合わせることのハードルも下がっているように感じます。
 

マーケティングテクノロジースタックとは

田島:スタックですが、MarTechのイベント内で開催される「Stackie Award」を見るといろんな企業の事例がわかります。このアワードは、社内でどのようなテクノロジーを組み合わせてマーケティング活動を行っているかを、各企業が図やイラストに落とし込み、一枚の画像にして参加するものです。アンダーワークスは去年、国内企業として初めて参加しました。
 
たとえば、毎年参加しているシスコシステムズは、下図のように自社ならではのマーケティング基盤を構築している様子がわかります。シスコのCMTO(Chief Marketing Technology Officer)に話を聞いたことがありますが、社内にマーケティングテクノロジー専門の役職を置き、結構な予算を持った上で、マーケティングテクノロジーを選定する委員会も立ち上げ、常にトライアンドエラーを繰り返しているそうです。委員会のメンバーには若手社員も入れるなどの決まりもあるとか。そうして、成果が出るテクノロジーは残し、そうでなかったらすぐに外して、自社のスタックを進化させてきたそうです。
 

深田:この図を見たときは衝撃を受けました。分析系のテクノロジーだけでも、さまざまなベンダーの製品を入れていることがわかりますが、そこまで試しているんですね。ツールのカバー範囲が被っても良いから、自社にとってより良いテクノロジーを見つけるために試し続けるという気概も感じます。
 

マーケティングテクノロジースタック(シスコの例)

マーケティングツール選定の主導を握るのはマーケティング部門

田島:全領域で最新のテクノロジーを試して良し悪しを判断するには時間も費用もかかるので、シスコがしっかりと専門の役職とメンバーを置いていることは非常に参考になりますよね。CMTOがCMOとCIOの橋渡しをしながら、マーケティングテクノロジーの基盤構築のミッションを負っている。実際に、米国ではCMTOを置いている企業が80%という調査結果もあります。母数は不明ですが、たとえ半数であったとしても大きなトレンドだと思います。
 
また、これも米国の調査ですが、マーケティングテクノロジー選定導入の8割はマーケティング部門だけで完結しているか、マーケティング部門主導で進められているそうです。顧客接点に近いテクノロジーほど、選定がマーケティング部門で完結していると思いますが、一方でCRMやインフラに関わるものはIT部門が見ていることも多くあります。部門ごとにセクショナリズムになっていることもあり、私たちが普段のプロジェクトで見ているケースでも、部門をまたぐと導入の許可が降りなかったりと、課題を抱える企業も少なくはありません。マーケティング部門でないにしろ、誰が主導でテクノロジー導入や選定を進めるかは、企業全体のガバナンスとして整理していく必要があると思います。
 

マーケティングテクノロジー選定導入の8割がマーケティング部門だけで完結あるいは主導で進められている

深田:マーケティングテクノロジー活用に責任を持つ「CMTO」という職は、国内ではまだ馴染みがないように感じます。実際には、どのような職務を担うのでしょうか?
 

田島:下図はMarTech参加者へのアンケート内容ですが、CMTOやCMTの役割や責任範囲についての回答がわかります。9割近くが、新たなテクノロジーの発掘や社内での利用推奨を担っていることがわかります。意外に感じたのは、データに関するプライバシーやマーケティングツールのセキュリティチェックといった項目は数値が低く、まだそこまで重視はされていないのかもしれません。ビジネスインパクトが大きそうな項目が上位に集まっていて、そうでないところは別部門が舵を取っている場合もあるのでしょう。
 

CMTO、CMTの役割・責任

深田:これを見ると、CMTOとは新しいテクノロジーをどんどん見つけて試していくような立場に見えますが、逆に日本だとそれが受け入れられない感覚があるかもしれませんよね。いつもテクノロジーで遊んでいると思われたり(笑) こういう専門職が要求されたり、活躍できること自体が、マーケティングテクノロジー活用の発展につながると思います。近いうちに、日本もこういった役割がより求められていくかもしれませんね。

日本とアメリカに見る、ツール選定基準の違い

田島:私たちが携わるプロジェクトでも、ツール選定というテーマは非常に多く、どのように選定すべきかという質問もよくいただきます。ツールの種類によって、マトリクスを使ったりと色々な方法がありますが、最近は選定の新たな評価軸として、口コミサイトも活用できます。「G2Crouwd」などは、テクノロジーの口コミが利用者の実名で紹介され、市場での認知度と利用企業の満足度などもマトリクスで判別できるようになっています。
 

深田:国内でも「ITreview」を参考にするなど、口コミサイトの利用は広がっている気がします。掲載されているデータを見ると、比較すべきツールがわかってくるのも便利ですよね。ここにある口コミや掲載されているデータは、真のユーザーニーズであるとも思うので、まずはこういった情報を活用するのも手だと思います。
 

田島:実際にツールを選ぶ際の基準ですが、アメリカの企業は、ベンダー企業のビジョンや思想でテクノロジーを選ぶ傾向が強いと言われています。一方、日本企業は、具体的な課題をベースにツール選定をしている傾向があるように感じます。実際は、他社事例を参考に選ぶケースも多いのかもしれませんが。現場の意見が強いからこそ、具体的な現場の課題感をもってボトムアップで選んでいけるのだと考えると、そこにKPIなどの視点を入れることでROIを高めていける可能性もあると思います。
 

深田:Sprocketは選ばれる側の立場ですが、ビジョンを重視するお客様も一定数はいるように感じます。あとは、具体的な課題をベースにツールを選定し始めても、実は課題自体がぼんやりしているために選定の軸がぶれてしまうことも、往々にしてありますよね。
 

田島:特に、ツールのリプレイスの際などは「なぜ替えるのか?」が明確でないことも多いですよね。ツールは、単に導入しただけでは成果が出ないからこそ、他社が真似できない事例を生むことができるので、PDCAをどこまで粘り強くやっていくかを考えることも重要です。
 

深田:それで言うと、課題の明確化もそうですが、社内でツールをどう使うかも考えないといけません。最近、僕たちはベンダー側がそこの責任も持つべきという思想を持っていますが、アメリカだとそのあたりの責任範囲はどうなんでしょうか。
 

田島:肌感ですが、武器は提供したのであとはよろしく、というスタンスが多い気がします(笑)日本のツールベンダーのほうが、導入後も一緒に走るという思考性が強い気がします。カスタマーサクセスという役割も、ある種コンサルタントのような役割ですよね。そういったサポート体制の充実度も、自社で必要であれば、ツール選定の基準になるはずです。
 

マーケティングテクノロジー選定の重要ポイント

田島:マーケティングは差別化が重要となり、ツール同士を繋げることも容易になってきた今、どれだけオールインワンのツールを活用すると決めても、違うメーカーのツールも使う場面は発生すると思います。その中で、自社ではどのようにツールを選んでいくのか、というのが、これからのマーケティング担当者の課題になっていくでしょう。
 
日本企業の多くは具体的な課題やメリットをもとに選んでいくと思いますが、単なる機能比較だけでは、成果に繋がりにくいことも少なくありません。自分たちの組織体制やリテラシー、ケイパビリティ、KPIなどと照らし合わせ、サポート体制の充実度やセキュリティ面、口コミサイトでの実際の評価など、多面的にテクノロジーを判断していくことが重要です。

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