昨年、国内ではデジタル庁が発足したことで、日本の電子政府化への動きが注目されてきました。行政に関するあらゆる手続きのデジタル化やシステムづくりは、デジタル庁が掲げる施策の柱の一つです。発足から半年以上が経った2022年現在、周辺ではどのような取り組みが進んでいるのか、その課題や展望に関するトピックとともに解説します。
デジタル庁が今取り組んでいること
2021年9月、日本のDX化を目指してデジタル庁が発足しました。デジタル庁は「デジタル社会に必要な機能の整備と普及」を第一に掲げ、それを実現するための横断的な組織体制を整えています。発足時には、DMJは世界各国の行政デジタル化の取り組みについてまとめています。
>> デジタル庁発足にあたり、改めて世界の電子政府を考える
この中でも取り上げた電子政府先進国には、いくつかの共通項があります。個人を特定し得るIDが普及・浸透していること、そのIDと福祉サービスが連動しており、公共交通機関の利用や納税などのフローが簡易化されていることなどです。
日本も同様の構想を描き、国民へのマイナンバーカードの普及を急いでいます。しかし、マイナンバーと各サービスとの連携についても同時進行中のため、国民がマイナンバーカードを発行する意義が曖昧になり、普及が遅れているのが現状です。
こうした課題を踏まえつつ、デジタル庁は各省庁や自治体を横断した改革に着手しています。国民に提供するさまざまなサービスの手続きや業務を見直し、デジタル化の足かせとなる慣習にメスを入れているのです。また、改革を推し進める人材や外部の力を取り入れることにも積極的に取り組んでいる印象です。
企業においても「DXを実現するならば組織の見直しから」という話はよく耳にしますが、デジタル庁はまさに国のDXを推進するため、組織改革をリードする省庁とも言えるでしょう。
行政サービスのデジタル化の現状と課題
デジタル庁が一歩ずつ電子政府化の準備を整えていることに期待できる一方、実際にシステムとして普及するまでの道のりは、まだ険しいものとなりそうです。実際にどのような構想が描かれているのか、行政サービスのデジタル化に関わるトピックを紹介します。
マイナンバーカードを軸としたデータ一元化
国が発行するIDにより生活に関わる諸データを紐づけられるシステムは、電子政府化を支える柱になります。日本においてはその役割を果たすのがマイナンバーカードになりますが、実際は約4割の普及率で伸び悩んでいます。ユーザー=国民の利用が拡大しない最大の原因は、おそらく利用価値の不明瞭さではないでしょうか。
マイナンバーカードを健康保険証として利用できる「マイナ保険証」は、処方歴や診断結果を一元管理できること、診療時の顔認証機能などがメリットとして注目されていました。しかし、2022年4月以降、マイナ保険証利用者の医療費負担が他と比べて大きくなることが話題に。マイナ保険証を使うと経済的には損になるという結果が、大きな落胆につながりました。
一方で、マイナンバーカードを免許証として利用できる制度については、ユーザー視点に立った試行が始まっています。2022年2月、警察庁はゴールド免許保持者を対象とした免許更新時のオンライン講習を試験的に開始しました。運転者の事務的負担を軽減するだけでなく、免許センターの混雑を防ぐ効果などが期待されています。
マイナンバーカードによる各サービスの一元化は、各所の窓口対応を軽減したり、都道府県や施設によって煩雑化していたデータを統合したりと、さまざまなメリットがあります。しかし、ユーザーの使いやすさや、導入する現場の負担に寄り添った機能や制度がなければ、そもそも普及自体が叶いません。デジタル庁は、こうした課題を解決する役割としても期待されています。
金融機関×行政機関による業務自動化
これまで行政事務のために必要な税務・資産の調査には、金融機関を介した書類送付や郵送などの人手作業が必要でした。加えて、その文書の様式が機関ごとに異なることや、個人特定のための情報の粒度がそろわないことなどが、事務手続きの煩雑化を招いていました。
こうした課題を解決すべく、行政機関による預貯金データの照会を実現するシステムの検討が進んでいます。個人口座に行政機関がアクセスすることへの懸念も広がっていますが、こうしたデジタル化の先に納税自動化などを期待する声も高まっています。
ここで併せて注目しておきたいのが、デジタル庁の政策の一部である「公金受取口座登録制度」です。マイナンバーと紐づけて任意の口座を指定・登録し、給付金の受給などに関わる申請手続きを簡略化を図るという本制度は、コロナ禍における経済変動や緊急性などを鑑みれば、普及率はある程度高くなることが予想されます。金融と行政のデジタル連携は、意外と早い段階で実現するかもしれません。
地方自治体のデジタル化
こうしたデジタル化の波は、地方自治体にも及んでいます。事務作業の効率化や窓口対応の負担軽減などが期待されていますが、必ずしもデジタル化が現場の課題解決に結びつくとは言い切れません。
例えば、行政に関わる申請手続き業務の自動化を図り、タブレットなどを導入したとしても、その利用者である市民がタブレッド入力に戸惑う場合にはサポートが必要です。個人特定のための顔認証技術なども、一日あたりの利用者数によっては窓口対応のほうが費用対効果が良い場合があります。
また、地方における行政機関や施設は、高齢者の相談窓口や、住人たちの憩いの場といった役割を果たす側面もあります。窓口業務をデジタル化することで、そういったコミュニケーションの場が少なくなってしまうことは、実はメインユーザーにとってはデメリットになってしまうかもしれません。
一方で、全都道府県の行政施設が同様のフローやシステムを利用して国民のデータを一元的に管理できるようにすることで、ユーザーである私たちの手続きも一層便利になります。今後、電子政府の実現にあたっては、全体の最適化と現場事情とのすり合わせも大きな課題となってきそうです。
ユーザーファーストの行政デジタル化と展望
このように、電子政府化を目指す試みはさまざまな観点から同時並行で進んでおり、中には実現可能性の高いものもあります。国民と行政機関、双方にとってメリットのある確かなシステムが確立されるまでには長い時間がかかるかもしれませんが、実現に向けて大きな期待が集まっています。
行政デジタル化の成功を左右する最大のカギは「ユーザーファーストな視点」です。利用者たる国民が利益を感じられないものであれば、新しいシステムは浸透しません。この壁を乗り越えるためには、サービスのUI/UXデザインの追求や、データに基づいた国民のニーズ調査などを継続していく必要があります。
デジタル庁は、これらを横断的に実現できるデジタル人材が集う場として、今後もさらなる活躍が期待されます。今後もさまざまなサービスのデジタル化について、DMJでも注目し続けていきたいと思います。