BtoBのデジタルマーケティング業界で期待が高まっている「ABM(アカウントベースドマーケティング)」の実践を考える本連載。前回の記事では、ABMにどのように取り組むべきかを判断するためのベンチマークになる自社のデジタルマーケティングの成熟度の見極め方についてレベル1(初級)からレベル4(エキスパート)の各段階における達成事項やABM施策の取り組み内容について概要を解説しました。今回からは各レベルで取り組むべきABM施策について詳細をご紹介します。
(スピーカー:アンダーワークス エグゼクティブディレクター 田口裕、編集:西塔穂波)
デジタルマーケティングの取り組み成熟度のおさらい
顧客データマネジメントの成熟度を軸にすると、以下のようなデジタルマーケティングの取り組み成熟度のレベル設定が可能になります。
・レベル1(初級):A1〜A2
初歩的な自社のリード管理状況、フォロー状況の評価ができている
・レベル2(中級):A3〜B2
Web経由で集まったマーケティングリードに対してフォローをかけ、セグメントやスコアで振り分けるところまで達成できている
・レベル3(上級):B3〜C2
既にレベル1〜2のABM施策を運用しており、ABM戦略に基づきマーケティングと営業の連携が進み始めている
・レベル4(エキスパート):C3
ファーストパーティーデータ、サードパーティーデータ、社内のその他データの統合管理が実現している
レベル1(初歩的なリード管理、フォロー状況の評価ができている場合)のABM施策
Webサイトやソーシャルメディアといったデジタルな顧客接点の利用は、一般的にペルソナと呼ばれるユーザーの人物像、課題やニーズ、カスタマージャーニーと呼ばれるWeb上の行動やコンバージョンと呼ばれる自社との関わりの中で取って欲しいアクションを想定し、Webサイトやソーシャルメディアページを立ち上げ、コンテンツをユーザーに発信するところから始まります。
やがて、これらのデジタルの顧客接点で、コンテンツの閲覧、動画の視聴、資料ドキュメントのダウンロード、セミナーへの申し込み、問い合わせやデモンストレーションの依頼といったユーザーによる「Web行動」が発生します。これらのWeb行動は個々のユーザーによるものであり、Google Analyticsに代表されるWebサイト分析プラットフォームはユーザー単位の行動を追跡します。
しかし、本連載の第1回でも解説した通り、コンテンツに対するユーザーの行動をスコアリングして、スコアが高い人をホットリードと仮定してマーケティングを行う既存のマーケティング手法では、スコアが個人単位(ユーザー単位)となり、BtoBマーケティングにおいて大事な「企業ターゲット」とは連携できないという課題がありました。
デジタルマーケティングの成熟度がレベル1の企業では、マーケティングオートメーションプラットフォーム(MA)の導入に向けてマーケティングリードの定義を始めたばかりか、MAを導入してリードのステータス管理を行い始めたという状況かと思います。
このレベルからABM施策にも着手する場合、MAを利用した初歩的な自社のリード管理状況、フォロー状況の評価に加えて、個別のリードに対して企業軸でも評価するために、Webサイトへのアクセスを企業単位で把握することに着手すると良いでしょう。
ABM分析による企業情報の把握
では、具体的にどういった手段をとるのが良いのでしょうか。フォームの記入やE-mailアドレスの提供が無い限り、ユーザーそれぞれの詳しい個人情報は不明であり、分析上は匿名ユーザーとして取り扱うことになります。しかし各ユーザーが企業のネットワークからインターネットを通じてWebサイトにアクセスした場合、どの企業に属するユーザーが訪問したのかは企業のIPアドレスから判別することが可能です。
このような分析を可能にするABM分析ツールの仕組みとしては、Webサイトアクセスがあった際に、各企業が持つ固定IPアドレスを含む企業情報を統合した「企業情報データベース」を参照し、企業を割り出します。それをユーザーのWeb行動に結びつけ、Webサイトに対するアクセス、コンテンツの消費状況といったWeb行動を企業単位で集計します。
ABM分析ツールの導入により、前述の「自社の製品・サービスを購入する可能性がある企業」のWeb行動をモニタリングできるようになったら、そこから得られた分析結果をSEO、広告、コンテンツマーケティングといったWebサイト施策がターゲットとなる企業に対する訴求に貢献したのかどうかを見極めるために活用することで、自社のビジネスにインパクトを与えるターゲット企業に対してより効果的にアプローチすることが可能になります。
このような企業単位のWeb行動分析の仕組みを利用した分析の価値は、データから「競合・ターゲット外企業」をフィルタリングすることにより、「自社の製品・サービスを購入する可能性がある企業」というターゲットにフォーカスし、Webサイトに公開しているコンテンツの閲覧回数、ニュースレターへの登録数といった数値の単純な増減に一喜一憂しなくてもよい、より深い分析が可能になることです。
ABM分析ツール
このようなABM分析ツールは、クラウドベースで比較的安価な料金で提供されており、Webサイトへの導入も短いスクリプトを埋め込むだけという場合が多く、導入のハードルは低いため、ABM施策の最初の一歩として着手しやすい施策でしょう。以下は日本でも利用が可能な代表的な分析ツールです。
概ねどのツールも匿名のWeb訪問ユーザーの企業を特定し、Google Analyticsと連携して企業名や業種などの企業情報を表示することができます。IPアドレスで企業情報を判別していますが、各ツール毎に付加情報も付与しており、単なる企業名以上の情報を閲覧することも可能です。
・アカウントベーストアナリティクス(ABA)
ランドスケイプ社の法人企業データベース情報を参照。
・どこどこJP
自社調査に基づく法人企業データベースを参照。
・VisitorQueue
カナダのABMツールベンダー。3rdパーティーの法人企業データベース情報を参照。公開情報から企業に属するメンバーの情報も提供可能。
・Zoominfo
アメリカのABMツールベンダー。3rdパーティーの法人企業データベース情報を参照。公開情報から企業に属するメンバーの情報も提供可能。
まとめ
ABM施策の基本は「アカウント(企業)軸」という視点を一気通貫して持つことです。ABM分析は、この視点を身につけ、より高度なABM施策の実行に備える練習段階にもなります。また、どんな施策もまずは現状を正しく知ることからスタートすることが定石です。自社のWebサイトに対するアクセスを企業単位で把握することは、ABM施策でフォーカスすべきターゲット企業を特定するためにもぜひ取り組んで欲しい活動です。
解説者
アンダーワークス株式会社
執行役員・営業統括・グローバルテクノロジーアライアンス統括
田口 裕(Yutaka Taguchi)
日系産業機器メーカーの駐在員としてアメリカで勤務後、ベンチャー企業にて、海外事業パートナー開拓、市場調査、現地法人の設立や新規事業企画・開発に従事。海外在住経験や海外の事業パートナーとのビジネスを通じて培ったグローバルビジネスや異文化コミュニケーションへの深い理解を活かし、グローバルエンタープライズのデジタルガバナンス戦略策定・実装、大規模Webサイト開発、コンテンツ運用基盤(CMS)導入、顧客データマネジメント戦略、国内外のプライバシー保護規制対策プロジェクトの支援を得意とする。