Z世代は新しい価値観を持つ世代として注目されており、昨今はZ世代を専門とするマーケティング機関などの設立も相次いでいます。なぜ今、企業はZ世代に対して熱い視線を送り続けるのでしょうか。デジタルマーケティング活動を行う企業が、Z世代を理解すべき本質的な理由とその可能性を考察します。

Z世代を取り巻く企業活動の今

マーケティング対象として、長きにわたり注目される「Z世代(※)」。これまでも傾向の特色によって世代に名称がつけられることはありましたが、その中でもZ世代に対する言及は多いように感じます。
(※)……一般的に1996~2010年頃に生まれた世代を指す。ミレニアル世代に次ぐ世代のため、ポストミレニアル世代と呼ばれることもある。
 
Z世代がトレンドワードとしてメディアで頻出するようになってからしばらく時が経ち、昨今は「Z世代専門」、「Z世代に特化した」と称する機関や横断型組織などの存在感が増しています。
 
2018年、商業施設「SHIBUYA109」を運営する株式会社SHIBUYA109エンターテインメントは、Z世代に特化したマーケティング機関「SHIBUYA109 lab.」を新設しました。渋谷のランドマークでもあるSHIBUYA109は、若者のトレンドを発信するアイコンとして長年機能してきました。その集客力とターゲティング力を活かし、来場客に対して定性・定量双方の意識調査を行ったり、テストマーケティングを行ったりするのが同機関の主な役割です。同機関の調査結果は、各メディアにおけるZ世代に言及した記事や、さまざまな業界の商品開発などに役立てられています。

主事業から切り出す形でZ世代特化のマーケティング機関を設けるケースは、マーケティング業界でもいくつか生まれています。2021年に株式会社サイバー・コミュニケーションズによって設立された「Z世代研究会」や、2022年5月に誕生して間もないテテマーチ株式会社の「LOUPE」は、いずれもZ世代に特化したマーケティング機関です。両者はZ世代向けの意識調査をもとにしたマーケティング・ナレッジを蓄積し、企業に提供することを目的としています。

こうした流れが加速することで、Z世代は引き続き注目されると共に、Z世代を対象としたマーケティングナレッジの体系化がさらに進んでいくでしょう。

Z世代が注目される理由

一方で、視点を変えて日本の人口ピラミッドを見てみると、Z世代が人口全体に占める割合は極めて低いことがわかります。もはや歯止めの利かない少子高齢化の渦中で、取り組む優先順位が高いテーマは人材不足問題、期待が高まっているのは高齢者向けのビジネス……。このような時代背景を眺めると、Z世代に注力する必要性をと訝しがる企業も少なくないのではないでしょうか。
 
その中で、なぜZ世代は今もなお注目され、主力テーマとしてピックアップされるのでしょうか。その理由を考察してみます。
 

マーケティング戦略において攻略が難しいZ世代

Z世代の特徴はあらゆる視点から考察されていますが、そのひとつとして独特な価値基準と、それに紐づく消費行動が挙げられます。
 
Z世代は現実的な感覚が強く、節約を前提とした慎重な消費行動が特徴と言われています。一方で、自身が価値を認めた対象であれば惜しみなく投資するという一面も。Z世代に響くマーケティング施策には、細やかなパーソナライズと、商品にまつわるストーリーやコンテクストも含めた価値訴求が必要不可欠です。
 
また、Z世代はマスメディア離れが浸透している世代でもあります。主な情報源がSNSで、自身もまた発信者であるのが特徴です。パーソナライズされた情報が前提にあり、広告に対する感度が高く、信頼できるソース(=人)からの情報に重きを置く傾向があります。また、自身が商品やサービスの口コミ役を担っていることも自覚しているので、それらの評価が急速に拡散されるケースも珍しくありません。
 
こうした特徴を併せ持つZ世代は、企業にとって良くも悪くも無視できない存在です。彼らに対して前時代的な広告を届けることは、効果がないだけではなく、リスクを負う可能性もあるのです。
 
さらに、Z世代はデジタルネイティブで、ネットリテラシーの標準値が高いのも特徴です。個人情報漏洩に対する自衛力が高く、いわゆる“炎上”などのリスクも理解しているので、周囲にふるまいを合わせる所作に長けており、本音をネット上には出さない傾向があると言われています。これらの傾向をマーケティング的な視点で考えるならば、データを通じたパーソナリティが読みづらい世代とも言い換えられるでしょう。
 
総じて、Z世代はマーケティング的難易度の高い対象であることがわかると思います。各社が意図的にターゲティングして意識調査を実施するのは、そうしなければ実態を把握しづらいからです。したがって、SHIBUYA109のようにZ世代との接点が強い事業を展開している企業は、Z世代との接点自体に市場価値があるということを事業戦略のヒントと捉えても良いかもしれません。
 

未来のマーケットを担う存在

今でこそZ世代はマイノリティにも思えますが、これから10年後、社会に出ていくZ世代が経済活動に与えるインパクトは極めて大きくなるでしょう。高度経済成長期から受け継がれてきた日本独自の商慣習や、マスメディアを前提としたマーケティング、エンドユーザーや社員など、さまざまな価値基準がデジタル化やグローバル化に伴い形を変えてきました。その変化の終盤に生まれ、新しい価値基準を標準と認識しているのがZ世代です。
 
したがって、Z世代は「商品やサービスの潜在顧客」という短期的な目線だけではなく、より俯瞰的に、「新たな価値基準」の中で生きる世代として注目されるべきだと思います。今からZ世代の価値観を取り入れたマーケティング施策や、Z世代との関係性構築に取り組むことで、企業は新時代に対応する経営戦略を立てることが容易になるはずです。
 
冒頭で紹介したようなZ世代に特化したマーケティング専門機関は、Z世代と従来の企業活動を結ぶ役割も果たしています。意識の差が大きいことで分断されかねない世代間に橋を架け、Z世代の人材が今後どのようなビジネスを重要視するかを知る機会を設ける点でも、同機関の存在意義は大きいと考えられます。

Z世代こそが企業の持続性を高める鍵

先に述べた理由から、より広く、多くの企業がZ世代に対して理解を深め、それに基づいた経営戦略やマーケティング施策を再考することを筆者は期待しています。Z世代のための商品開発や広告活動を進めるというよりも、Z世代を考慮した商品や広告の在り方を追求していくイメージのほうが適切かもしれません。
 
最後に、SX(サステナビリティ・トランスフォーメーション)の観点からZ世代の重要性を考えます。誰もが疎外されないダイバーシティの重要性が語られて久しく、貧困、セクシャリティ、障害といったテーマが顕在化するようになってきました。しかし、現代の若者が生まれながらにして人口統計上はマイノリティであるということは、そこまで大きな問題として語られていないように感じます。深刻化する人材不足問題の解決策として、企業のDX推進が急務であることは間違いありません。ですが、その他にも取り組むべきテーマはあります。そのひとつが、数少ない労働の担い手たる若者に対する理解と、彼らの視点に立った社会や企業の在り方を再考することです。
 
マーケティング業界のトレンドとして扱われがちなZ世代の傾向は、実は社会や企業の持続性を高めるためのヒントとなるのかもしれません。
 
マーケティング活動においても、世代間での感覚、価値観の違いを理解し、個々の施策を一人ひとりに対しパーソナライズさせていくことが重要視されています。それに伴うデータやテクノロジー活用はもちろん、施策の先にいるユーザーの価値観をも調和させていくことが、「マーケティングオーケストレーション(戦略立案から施策実行、システムやデータ、業務や組織など、マーケティングに関わるものすべてを調和させること)」の実現に繋がっていくと考えます。
 
Z世代に”刺さる”広告施策を考えるだけでなく、Z世代が暮らしやすく、かつ働きやすい社会についても思いを馳せる企業が増えていくことを願っています。

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