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  • シンガポールの入出国や交通に見る、スマートシティの今 〜コロナ禍の…


2022年5月25日、シンガポールのデジタルコンサルティング会社 Clickr Media社の買収を発表したアンダーワークス。コロナ禍の状況もあり、買収完了に至るまでの全作業をリモートで実施したが、買収発表直前には入国規制が緩和され、初めての顔合わせはシンガポール現地で行ったという。
 
シンガポールのスマート都市、スマート国家政策は、世界初のデジタルツインシティ「バーチャル・シンガポール」や、国内統⼀のQRコードでキャッシュレス決済を加速させるなど、先進的な取り組みとして話題になってきた。国際経営開発研究所とシンガポール工科デザイン大学が発表する世界のスマートシティランキング「IMD Smart City Index 2021」では、シンガポールは3年連続で1位となっているのだ。(日本・東京は2019年から62位→79位→84位と、3年間で低迷していることも窺える。)
 
そんな世界No.1のスマートシティ・シンガポールに、約3年ぶりの海外出張で向かったアンダーワークスの田島代表取締役。数日間の滞在で、どのようなデジタル体験と出会ったのだろうか。今回は、旅行客目線でのシンガポールのデジタルトレンドを紹介する。

上空でのパーソナライズド・コンテンツ

国内空港にて出国手続きを済ませた田島氏は、シンガポール航空の機内シートに座ってすぐに驚いたと話す。
「目の前にあるパネルで使える機内のエンターテイメントサービスが進化していました。ログインすると、自分におすすめのコンテンツが選別されて表示されるんです。この『デジタル・コンテント・ポータル』は手持ちのスマホやタブレットからでも接続でき、ゲームやSpotifyを通じた音楽体験などのエンタメが充実しています。マイレージ番号などと紐づけることで、個々人に向けたコンテンツ配信がもっと進んでいく分野だろうとも思います。」(田島氏)
 

シンガポール航空の機内座席に設置されたタッチパネル。パーソナライズされたコンテンツが表示される(2022年5月、田島氏撮影)

ここ数年で拡充してきた機内でのインターネット利用可能に伴い、デジタルコンテンツのパーソナライゼーションが実現していくことで、空の上で過ごす時間が一層快適に、充実したものになるのだろう。

入出国時に体感する”スマート国家”

チャンギ国際空港に着陸した田島氏は、入国から滞在にかけてのデジタルサービスによる利便性を体感したという。2022年4月1日から、ワクチンを2回以上摂取した人の短期滞在が可能になったシンガポール。出入国に際しては、紙での申請が廃止となった代わりに「SGAC電子サービス(SGアライバルカード)」というデジタルサービスでの到着・出発情報の提出が必要となっている。

SGアライバルカードは入国の3日前から申請が可能で、申請が許可されるとメールで発行される。個人情報やワクチン摂取状況、滞在期間も記載されるため、空港でのパスポート押印などの手続きが実質不要となる。「申請してからメールでパスが届くまで、30分もかかりませんでした。実は申請が必要なことに気が付いたのは出国直前で、空港に着いてからスマホで申請したんです。この迅速さに助けられ、無事にチェックインできました。」(田島氏)

「現地での入国手続きは、ワクチン証明などの書類を直接手渡す必要もなく、SGアライバルカードを見せるだけで終了しました。夜中で空いていたのもありますが、体感1〜2分です。このカードは入出国時だけではなく、たとえばマリーナベイ・サンズのカジノに入る際にもIDチェックの証明書として使うなどもしました。」
 

チャンギ国際空港内。まだ閑散としている様子が窺える。(2022年5月、田島氏撮影)

交通手段に見るシンガポールのMaaS情勢

「シンガポール市内では、配車アプリのGrabを使って移動することがほとんどです。」と田島氏は話す。Grabは、2012年にマレーシアでの創業後にシンガポールに本社を移し、現在は東南アジア8カ国における配車サービス市場で最大のシェアを誇る。もちろん市内には電車やバス、タクシーなどの手段もあるが、Grabのアプリが一つあれば、事前に行き先や金額を確認して支払いまで完結できるため、旅行客にとっても利便性が高い。

Grabにはシンガポール政府系のVCも出資しているが、他にも政府は交通系のスタートアップを積極的に支援し、MaaSの実現を後押ししている。オンデマンド相乗りサービスを展開するSWAT Mobilityや経路検索サービスを展開するMobilityXなど、シンガポール発のMaaS事業は数多い。東京23区とほぼ同じ大きさほどの国土において、自動車の渋滞解決や、自動車だけに依存しない交通エコシステムをもったスマート都市を目指しているのだ。
 

その目的もあり、国民が車を購入、所有するハードルは非常に高いという。シンガポールで車を所有するには「COE(Certificate of Entitlement)」という所有者証明書の購入が必須となっている。COEの価格は政府管轄のもとに決定され、車体の価格に上乗せされる。「COEは車体の価格よりも高いことがほとんどですが、最近は車を買う人が増えてきたので、COEの価格自体も高騰していると聞きます。」(田島氏)

事実、2022年6月8日時点でのCOEの価格は、1600cc以上の車を購入する場合には日本円で約1,000万円に及ぶ(参照:SGCharts: COE)。政府はCOEの発行数を調整することで、国内の自動車台数や交通量を調整しており、データに基づく交通インフラのコントロールが窺える。

数日間の滞在でも感じるデジタル政策の本気度

田島氏がシンガポール滞在で感じたことは、デジタル変革に対する政府の本気度だという。「渡航のきっかけとなったのはM&Aですが、その手続きにしても、シンガポール側で必要な作業は全てオンラインで完結できました。株式購入時には、ACRAと呼ばれる会計企業規制庁のサイト上で名義を書き換えられたりと、日本だと行政書士に書面での作業を頼まないといけない部分もデジタル化されていて、リモートでも何ら支障がなかったんです。現地に行く前からスマート国家としての印象が強くありました。」

入国手続き一つにしても、スマホ操作だけで迅速かつ簡潔に行えるなど、ユーザーファーストなサービスとエコな業務体制が両立していると言えるだろう。一方で、日本に到着後、帰国の手続きをする際にはデジタル化の余地を感じたと田島氏は話す。「帰国前に必要なPCR検査結果は、紙面での提出が”原則”となっていたり、入国手続きには色々な書面の記入が必須です。紙を持って移動してを繰り返すと1〜2時間は要するので、変革への期待が大きい部分です。」

実はデジタル化されている手続きもある。現在は「税関申告アプリ」や、検疫・入国審査・税関申告などが一括でできる「Visit Japan Web」といったアプリでの入国手続きが可能となっている。しかし、実際のオペレーションを見ると、日本に向かう機内では「携帯品・別送品申告書」の紙が配られ続けるなど、活用の徹底にまでは至っていないのが現状だ。6月10日から外国人観光客の受け入れも再開されるが、数年ぶりの海外渡航で日本に訪れる、または帰国する人々が、”スマート”な体験で快適に過ごせる環境であってほしいと切に願う。

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