アンダーワークスの齋藤です。今回はアメリカのラスベガスで2024年3月26日〜28日の3日間に渡り開催されたAdobe Summit 2024へ参加しました。
 
前編では、Adobe Summitのメインテーマについてご紹介しました。今回は後編として、メンバーが参加して印象深かったキーノートやセッションをご紹介します。
 
前編をまだ読んでいない方はぜひ合わせてご覧ください。
 

Inspiration Keynote > Major League Baseball

ドジャースに移籍した大谷選手をはじめ、多くの日本人選手が活躍しているMLBですが、150年以上の歴史を持つこのリーグは、時代に合わせたマーケティング活動を展開しています。
 

MLBは現在、MLBアプリやBallparkアプリ、tickets.comを通じたチケット販売、MLB.tvなどの広範なデジタル製品ポートフォリオを展開しています。これは、顧客との密接な関係を築くことがイノベーションには不可欠であると考えているためです。
 
数年にわたるデジタル化の結果、2017年のデジタル比率が約14%だったのに比べ、2023年にはほぼ100%を達成しました。これにより、顧客1人1人のチケット購入から来場データ、応援しているチームや選手の情報を活用し、顧客が求める情報を適切なタイミングで提供することに成功しています。
 
さらに今シーズン(2024年)には、新たにBallparkアプリとStatcastシステムを統合し、顧客とのコミュニケーション機会をさらに強化する予定です。
 
(対象のKeynoteの動画はこちらの50:00ごろからご視聴いただけます。※日本語字幕あり)

Maximizing Marketing Performance and ROI

マーケティング予算が毎年大幅に増加するわけではなく、昨年と同程度か、むしろ削減される中で、昨年対比で120%、130%の成果を求められる担当者の方も多いのではないでしょうか。また、企業の約80%が顧客に対して優れた顧客体験を提供していると認識している一方で、顧客視点では満足している人は10%に満たず、企業と顧客の間に大きな認識のギャップが存在しています。
 
こうした状況下で、どのようにマーケティング成果やROIを最大化することができるかについて、AAA Northeastが実際に実行した事例を紹介します。
 

AAA Northeastとは、アメリカとカナダの合同自動車クラブであり、6,400万人以上の会員にサービスを提供している企業です。同社はデジタル化を推進し成功させるために、短期的ではなく長期的な視点で物事を考え、適切なスキルとマインドを持った人材を確保しています。さらに、顧客データの取得と分析を行い、チームでの議論を通じて施策をアップグレードしています。
 
効果が発揮できていない場合は、他の施策の検討を迅速に実施することで、効果を最大化しました。また、新規会員やリードの獲得コストを削減し、得た余剰資金を新たなマーケティングに再投資することも成功の要因です。このようなアプローチにより、AAA Northeastはマーケティング成果とROIを最大化しています。
 
(対象のKeynoteの動画はこちらからご視聴いただけます。※日本語字幕あり)

Inspiration Keynote > TSB Bank

TSB Bankはヨーロッパの金融サービス会社で初めてAdobe Experience Platformを導入した企業です。

昨今の企業のマーケティング活動において、マーケティングテクノロジー(以下、マーテク)は不可欠な要素となっていますが、それはあくまでも手段に過ぎません。重要なのは、マーテクを駆使して仕事そのものをどのように進めるかという点です。ここでは、TSB BankのCMOであるEmma Springhamが大切にしている3つの言葉(勇気、信頼、成長)を用いて、実践していることを紹介します。 
 

Emma Springhamは「勇気」をマーケティングの中核に据えています。彼女は、マーケティング戦略が十分に大胆であるかを常に問い、自分のチームに対しても外部からのイノベーションを求めるよう奨励しています。TSB Bankのブランド再構築の際、Emmaは自社のマスコットキャラクターであるピンクの象を活用して「話しづらいお金の問題」に対し、顧客に対して率直に相談する勇気を促しています。このキャンペーンは大成功を収め、2023年末にはMarketing WeekのCampaign of the AwardでもGuinnessの”singing pints of stout”を破り1位となったキャンペーンを展開しています。TBS Bankは確かに最新のマーテクを活用し、融資サービスにおけるモバイルチャネルの売り上げを300%増加することに成功しています。
 
「信頼」はEmmaが構築したいもう一つの重要な価値です。彼女は、同僚や上司、顧客からの信頼を得ることを重視し、チームメンバーにもその価値を植え付けています。TSB Bankでは、顧客のデータとインサイトを積極的に活用し、ビジネス戦略を形成しています。たとえば、Adobe Experience Platformを使用して1対1のパーソナライズドコンテンツを提供することで、顧客の信頼を築き、顧客が感じる価値を高めています。また、顧客にとって重要なライフイベントを支援することで、深い信頼関係を構築しています。
 
Emmaは「成長」に対する姿勢も非常に重要視しています。これは個人的な成長、チームの成長、そして企業全体の成長を含みます。彼女は、心理的に安全な環境を作り出すことで、チームがイノベーションと卓越性を発揮できるようにしています。また、データとテクノロジーを駆使して、持続可能な成長を追求しています。たとえば、顧客の行動データを活用して、ギャンブル依存症の兆候を早期に発見し、適切な支援を提供することで、顧客の健全な成長をサポートしています。
 
Emma Springhamのリーダーシップの下、TSB Bankは勇気、信頼、成長という3つの言葉を中心に、テクノロジーを活用した革新的なマーケティング活動を展開しています。これにより、顧客との深い関係を築き、持続可能なビジネス成長を実現しています。
 
(対象のKeynoteの動画はこちらの33:56ごろからご視聴いただけます。※日本語字幕あり)

最後に

今回紹介したセッションを含め、イベント全体を通じて感じたことは、真のone to oneマーケティングを実現するためには、生成AIの活用や、即時性を持って顧客とのコミュニケーションを行うためのマーテクの利用が不可欠だということです。これらの技術が実現したとき、無限の可能性が秘められていると私自身強く感じました。
 
マーテクはより効果的なマーケティング活動を効率的に生み出す手助けをしてくれますが、単にそれを導入しただけでは成功は保証されません。それを活用するためには、目先の物事だけでなく、中長期的な視点で何を大切にしていくのか、顧客に何を伝えたいのか、顧客にどうなって欲しいのかを考える必要があります。そのために、どのような人材が必要で、どのように成長していってもらう必要があるのか、そしてどのように育成していくのか、企業体質としてどのように変化するべきかを検討しなければなりません。
 
その上で、どのようにマーテクを活用するのが最適かを考え、多くのTry & Errorを繰り返し、根気強く実行していく必要があると思いました。このようなアプローチが、真のone to oneマーケティングの実現と、持続可能な成功に繋がると感じました。
 
文字にすると困難なことも多く、ためらってしまうほど果てしない道のりかもしれません。しかし、大小に関わらず、マーケティング活動の中で常に挑戦し続けることが大事だと改めて感じました。挑戦を続けることで、新たな発見や改善点が見つかり、最終的には大きな成功へと繋がるのだと思います。

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