近年、多くの企業がDX(デジタルトランスフォーメーション)に取り組んでいます。その目的はさまざまですが、中でも重要なものの一つが「CX(顧客体験)の向上」です。顧客体験を向上させることで顧客満足度を高め、ロイヤルカスタマーの育成、ひいては売上増加や企業の成長へと繋げることが期待できます。本記事では、DXとCXの関係性について詳しく解説し、DX推進によってCXがどのように変わるのか、具体的な事例を交えながらご紹介します。
CX(顧客体験)とは?
CXとは、Customer Experienceの略称で、日本語では「顧客体験」と訳されます。顧客が商品やサービスの認知から購入、利用、アフターサービスに至るまで、企業とのあらゆる接点を通じて感じる総合的な体験のことを指します。
顧客体験の概念を提唱した人物として知られるバーンド・H・シュミットは、CXを以下のように定義しています。
つまり、CXは単に商品やサービスの質だけでなく、顧客が企業と接するあらゆる場面での印象、感情、行動などを含めた包括的な概念と言えます。
CXの重要性
現代社会において、CXは企業の競争力を左右する重要な要素となっています。その理由は、顧客を取り巻く環境が大きく変化しているからです。インターネットやスマートフォンの普及により、顧客はいつでもどこでも膨大な情報にアクセスできるようになりました。
豊富な選択肢の中から、顧客は自身のニーズや価値観に合致した商品やサービスを比較検討し、最適なものを選択します。そのため、顧客の期待を超える優れたCXを提供することが、顧客獲得と維持、そして企業の持続的な成長には不可欠となっています。
DX推進がCX向上に重要な理由
DXとは、デジタル技術を活用して、企業のビジネスモデルや業務プロセス、組織文化などを変革し、競争上の優位性を確立することです。DX推進がCX向上に重要な理由は、デジタル技術によって顧客接点を革新し、顧客一人ひとりに最適化された体験を提供することが可能になるためです。
顧客データの分析に基づいたパーソナライズドマーケティングや、AIを活用した顧客対応の自動化など、DXによって実現できるCX向上の施策は多岐にわたります。
DX推進でCXはどのように変わるのか?
DXを推進することで、顧客体験は具体的にどのように変化するのでしょうか?ここでは、DXによって実現するCX向上の主なポイントを4つ紹介します。
新しいタッチポイントの創出
DXによって、アプリ、AR/VR、メタバースといったこれまでにない新しい顧客接点が生まれます。これらの新しいタッチポイントは、顧客に今までにない革新的な体験を提供し、企業とのエンゲージメントを深めることを可能にします。
たとえば、AR技術を活用したバーチャル試着サービスは、顧客が自宅にいながらにして洋服やアクセサリーを試着できるため、購買体験を大きく向上させることができます。また、メタバース上に構築された仮想店舗では、顧客はアバターを通じて他の顧客と交流したり、商品やサービスに関する情報を得たりすることができます。
顧客とのインタラクション最適化
顧客データの分析やAIの活用により、顧客一人ひとりのニーズや行動に合わせた最適な情報提供やサポートを実現できます。WebサイトやアプリのUI/UXを改善することで、顧客がストレスなく情報にアクセスし、目的を達成できるよう導くことも重要です。
顧客の過去の購買履歴や閲覧履歴に基づいて、おすすめの商品を提案したり、顧客が抱えている問題を予測してFAQやチャットボットで解決策を提示したりすることで、顧客満足度を高めることができます。
パーソナライズドマーケティングの実現
顧客データに基づいて、顧客一人ひとりに最適化されたメッセージやコンテンツを配信するパーソナライズドマーケティングが可能になります。これにより顧客の興味関心を高め、購買意欲の向上に繋げることが期待できます。
たとえば、顧客の属性や行動履歴に合わせて、メールマガジンやプッシュ通知の内容をパーソナライズしたり、Webサイトに表示するコンテンツを動的に変更したりすることで、顧客エンゲージメントを高めることができます。
VOCの収集と分析の実行
顧客の声(VOC)を収集・分析し、商品やサービスの改善に活かすことも容易になります。オンラインアンケートやソーシャルメディアのモニタリングツールなどを活用することで、顧客のニーズや不満をリアルタイムに把握し、迅速な対応が可能になります。
収集したVOCは、顧客満足度向上のための施策立案や、新商品・サービス開発に活用することができます。
DXによるCX向上の成功事例
ここでは、DXによるCX向上の成功事例として、ユニクロの事例を紹介します。
ユニクロの有明プロジェクト
ユニクロは、2018年に「有明プロジェクト」と名付けたデジタル戦略を始動しました。その目的は、デジタル技術を活用して顧客体験を革新し、新たな顧客価値を創造することです。
新しい購買体験を実現する「UNIQLO IQ」
有明プロジェクトの一環として、ユニクロは2018年に「UNIQLO IQ」というサービスをリリースしました。UNIQLO IQは、AIを活用したスタイリング提案アプリで、顧客の好みや体型、シーンに合わせたコーディネートを提案してくれます。
また、店舗に設置された「UNIQLO IQ KIOSK」では、商品タグを読み取ることで、在庫状況やサイズ、カラーバリエーションなどを確認できます。さらに、アプリと連携することで、試着室への取り寄せやオンラインストアでの購入も可能です。
ユニクロのDX戦略は、顧客体験を大きく向上させ、売上増加にも貢献しています。UNIQLO IQの導入により、顧客一人ひとりに最適化されたスタイリング提案が可能になり、購買意欲の向上に繋がりました。また、オンラインストアと実店舗をシームレスに繋ぐことで、顧客の利便性も向上しました。
これらの取り組みが評価され、ユニクロは「日経MJ顧客満足度調査」のアパレル専門店部門において、2019年から3年連続で1位を獲得しています。ユニクロの事例は、DXによって顧客体験を向上させ、ビジネス成長を実現できることを示す好例と言えるでしょう。
まとめ
本記事では、DXとCXの関係性、DX推進によってCXがどのように変わるのか、そしてCX向上の成功事例について解説しました。DXは、顧客体験を進化させ、企業の成長を加速させるための強力な手法です。顧客の期待が高度化し、競争が激化する現代において、DXによるCX向上は企業にとって不可欠な取り組みと言えるでしょう。