2025年3月5日・6日に開催されたMarkeZine Day 2025にて、弊社アンダーワークスの田島 学と近 美冬が登壇しました。『生成AI活用の最前線|BtoBデジタルマーケティングの全体像と活用例、顧客エンゲージメントの未来予測』と題したセッションでは、BtoBマーケティングにおける生成AIの活用事例や具体的な導入方法を解説するとともに、これからの顧客体験がどのように変わっていくかについても言及しました。本記事では、当日のセッション内容をダイジェストでお届けします。
[第1部]BtoBデジタルマーケティングの全体像と生成AIの活用例
第1部では、コンサルティング事業本部 執行役員/マネージングディレクターの近が、BtoBマーケティングの課題を整理し、生成AIを使った具体的な解決策を紹介しました。「まずはAIを自分の手で使っていきましょう」と参加者に呼びかけ、段階的なAI導入方法を提示しました。

BtoBデジタルマーケティングの全体像と課題
BtoBデジタルマーケティングは、リード獲得から育成、セールスまで幅広い業務が発生します。具体的にはコンテンツ制作や広告運用、データ活用などがあり、日々の業務に課題を抱える企業も少なくありません。主な課題は以下の3つです。
1.成果がでない(中間指標が売上に繋がらない、成果が限定的など)
2.リソース/スキル不足(人手が足りない、スキルが足りない)
3.関係部署との連携ハードル(社内調整の問題)
生成AIは、こうした課題を解決する上で大きな役割を果たします。特に期待できるのは「業務プロセスの大幅な効率化・生産性向上」と「顧客体験の高度化(ハイパーパーソナライゼーション)」です。
業務オペレーションにおいては、AIを活用することで業務効率が改善され、時間やコストの削減につながります。また、AIが専門スキルを補完することで、高品質な業務遂行が可能になります。一方、顧客体験の面では、これまでの「One to One」マーケティングを超えて、AIにより真の意味での個別対応が実現できるようになります。
生成AI活用のステップ
生成AIとはひとことで言うと「新しいコンテンツを作り出せるAI」です。特に文章、画像、動画などのコンテンツ生成に強みを持っています。生成AIの活用は、主に次の3つのフェーズに分けられます。

1. 人+AI(AIアシスタント)
人間が主体となり、AIが一部の作業をサポートする形態です。主な作業は人間が行い、AIはアイデア出しやコンテンツ作成などの補助的な役割を担当します。すでに多くの企業で導入されている段階です。
活用事例:
・講演準備のリサーチにChatGPTやPerplexityを利用する
・企画書の構成やアイデア出しをAIに支援してもらう
・マーケティング資料の文章校正や翻訳をAIに任せる
複数のAIツールを使うことでさまざまな回答が得られるメリットがありますが、情報が簡単に手に入る分、その信憑性を確認するスキルも必要になります。
2. AI+人(AIでのプロセス変革)
マーケティング業務のプロセス全体をAIを中心に再設計し、作業の大部分(8~9割)をAIが実行する形態です。人間はAIが生成したアウトプットを最終確認し、必要に応じて品質管理を行うだけに役割が絞られるため、業務効率が劇的に向上します。これは、人が主導しAIが補助する「人+AI」と異なり、最初からAIを前提に業務プロセスを抜本的に再構築する点が特徴です。
活用事例:
コンテンツ制作:AIを前提とした業務プロセスを再定義し、最終確認や承認を除く業務をAIが担当。プロセスをワークフロー化することで、企画から公開までを半自動的に実行
AI中心のプロセスを導入する際のポイント:
・初期段階ではプロンプト調整に時間がかかるため、最初から完璧を目指さず、調整期間を十分にとる
・企業独自の表現やスタイルは、AIに与えるプロンプトで調整する
・SNS投稿など短いテキスト作成から始めるのがコツ
3. 自律型AI(AIエージェント)
AIが特定の業務を自律的に学習・判断・実行する段階です。人間の介入はほぼ不要で、AIが目的に向かって主体的に行動します。注目されていますが、現時点では一部の限られた領域でしか実用化されていません。
活用事例:
・MA(マーケティングオートメーション)の高度化:顧客の行動をもとに最適なコンテンツを自動配信
・広告運用の完全自動化:AIが予算管理、クリエイティブ作成、ターゲティングを自動で実施
・カスタマーサポートの自動対応:問い合わせ内容に応じてAIが適切な回答を自律的に行う
生成AI導入の進め方
現在は、第2フェーズの「AI+人」をしっかりと構築し、段階的にAI活用のレベルを高めていくことが重要です。マーケティング業務は幅広いため、一度にすべての領域でAIを導入しようとすると失敗のリスクがあります。「課題解決のインパクトが大きい」「時間削減効果が高い」「実現難易度が高すぎない」といった条件を満たす特定の分野から始めることをお勧めします。

第1部まとめ
生成AIを活用することで、マーケティング業務の効率化や生産性向上が可能になります。顧客体験の高度化を実現するには時間がかかりますが、まずはプロセスの改善から取り組み、段階的にAI活用を進めることが重要です。AIを積極的に活用しながら経験を積み重ねていくことが、成功への近道です。
[第2部]生成AIと顧客エンゲージメントの未来予測
第2部では、代表取締役社長の田島が登壇し、生成AIがもたらす近未来の顧客体験について語りました。AIブームの現状を踏まえつつ、「顧客そのものがAIになる」という衝撃的な未来予測を展望しました。

加速するAI技術の進化
最近のスーパーボウル(アメリカンフットボールの決勝戦)では、OpenAIのChatGPTが初めてCMに登場して話題になりました。現在はAIブームの真っ只中で、さまざまな企業が続々と新しいAIサービスを発表しており、社会的にも大きな注目を集めています。
未来の顧客体験の変化

現状では、AIは主に分析や企画、制作効率化などに活用されていますが、近い将来、より自律的なAIが普及すれば、「顧客が人間ではなくAIになる」ことが現実となる可能性があります。顧客そのものがAI化した場合、従来とはまったく異なる視点で顧客体験を設計する必要が出てきます。以下では、具体的に3つの業界での未来像を紹介します。
トラベル業界
OpenAIが最近発表した「Operator」は、ブラウザ上で情報入力や送信を自動で行えるサービスです。このようなAIが旅行予約サイトを利用する時代には、人間よりも「AIにとって使いやすい」UIデザインが求められる可能性があります。
また、米国や中国では路線バスの自動運転が実用化されつつあり、予約から移動まで、人と一切接触せずに完結する旅行体験が現実味を帯びてきています。
飲食・小売業界
飲食や小売業界では、すでにコールセンターでのAI利用が広がっていますが、今後は「予約を受ける側」だけでなく、「予約を行う側」もAI化する流れが進むでしょう。さらに店舗でも、AIやロボットが顧客の嗜好を記憶し、個別に最適化された接客を行うような時代が近づいています。
業務DX・ワークスタイルDX
人事評価を行うLattice社のAIや、SalesforceのSDRエージェントによる営業プロセス自動化、AI面接官を使った採用活動など、企業の業務プロセス全体がAIによって大きく変革されつつあります。
これらが主流になるまでにはまだ時間がかかりますが、人間を前提とした顧客体験から、自律的に動くAIが顧客になった場合の顧客体験の変化について、今から考えておくことが重要です。
第2部まとめ
これまでは人間が見ることを想定して顧客体験を設計してきましたが、AIが顧客になった場合の顧客体験をゼロベースで考え直す必要があります。AIで効率化するだけでなく、コンピュータ化された顧客体験の再設計が必要な時代が来るでしょう。今すぐできるAI活用を進めながら、同時に未来の変化にも目を向けることが、これからのマーケターには求められています。
今回のセッションでは、生成AIがBtoBデジタルマーケティングにもたらす変革の全体像と、企業が取り組むべき方向性をお伝えしました。アンダーワークスは今後も最新のマーケティングトレンドを積極的に取り入れ、クライアント企業の成長を支援してまいります。