個人情報保護やプライバシーへの関心が高まる中、企業はデータ活用と法令遵守の両立という課題に直面しています。こうした背景を受け、2025年4月9日、PrivTech株式会社とアンダーワークス株式会社はWebセミナー「Cookie規制とプライバシー保護の最前線」を共催しました。
本レポートでは、セミナー前半に登壇したPrivTech株式会社 角川正憲氏、後半に登壇したアンダーワークス株式会社 田口裕による講演内容をもとに、個人情報保護法制の最新動向と、Cookieに関する同意管理の実務的なポイントをわかりやすく解説します。
[第一部]厳格化する個人情報保護規制
デジタル化が進む中、個人情報の保護に対する関心は日々高まり、企業にとっては「データをどう活用するか」だけでなく、「いかに法令を遵守するか」が問われるようになっています。セミナーの第一部では、PrivTechの角川 正憲氏が登壇し、個人情報保護法の改正の背景やポイント、そして今後想定される動きについて具体的な事例を交えながら説明しました。
個人情報保護法制の変遷

日本の個人情報保護法は2003年に制定されて以来、ITの進化や社会課題の変化を受けて繰り返し改正が行われてきました。特に、2015年と2020年(令和2年)の改正は大きな節目となっており、制度の厳格化が進んでいます。この背景には、実社会でのプライバシー侵害事例や、技術の進歩に制度が追いつかないという課題があります。
また、海外ではGDPR(EU一般データ保護規則)やCCPA(米カリフォルニア州消費者プライバシー法)といった強力な規制が整備されており、例えばGDPRでは個人データの保護が「人権」の観点から明確に位置づけられている点も日本との違いです。 一方で、日本では法の性質が行政規制に留まっており、規制の方向性が一貫していないことも課題のひとつといえるでしょう。
さらに、日本独自の動きとしては、2022年に電気通信事業法が改正され、「外部送信規律」が新たに導入されました。これは、Webサイトなどにおいて発生する外部通信の透明性を求めるもので、デジタル領域におけるデータ取り扱いへの対応が本格化していることを示しています。
令和2年改正(2020年成立、2022年施行)の主なポイント
直近で特に重要なのが、2020年に成立・2022年に施行された「令和2年改正」です。この改正では、従来の枠組みでは対応しきれなかったグレーゾーンの情報の扱いが大きく変わりました。注目すべきは、「個人関連情報」という新しい概念の導入です。これはCookieや端末ID、閲覧履歴など、個人を直接特定できないが、個人に関係すると考えられる情報を対象としています。

たとえば、A社が「ID:1のユーザーがミルクティーを購入した」という情報をB社に提供し、B社がそのIDと個人を紐づけて把握できるような場合、これまでは同意が不要とされていましたが、改正後は本人の同意が必要となりました。これは、いわゆる「リクナビ事件」を契機に見直されたものです。
そのほか、以下のような実務的な対応も求められるようになり、プライバシーポリシーや社内規程の見直しなどが求められるようになりました:
・データ漏えい時の報告・本人通知の義務化
・海外への個人データ移転時の説明責任強化
現在の3年ごとの見直し状況
令和2年改正法では、「施行後3年ごとに制度の見直しを行う」ことが明記されており、現在その検討が進められています。2023年11月には議論が開始され、2024年6月に中間整理が公表、2025年3月には課題整理に関する文書も発表されました。

検討されている主な改正論点は以下のとおりです:
・子どもの個人情報の取り扱い強化
16歳未満の個人情報の同意は、原則として保護者(法定代理人)から取得する方向
・同意の緩和(限定的)
統計的に処理されるなど、個人の権利を侵害しない用途に限定して、同意なしでのデータ利用を容認
・生体情報などの扱いの見直し
顔認証データなどを「要配慮個人情報」として厳格に取り扱う方向性が検討されている
・課徴金制度の導入
違法な第三者提供や管理義務違反に対し、金銭的制裁を科す制度の導入
・集団的な救済制度の拡充
消費者団体による差止請求・被害回復請求など、個人では対応しづらい訴訟を可能にする枠組み
現時点では、法改正の内容はまだ確定しておらず、企業がすぐに対応を進める必要はありません。ただし、新サービスの設計やプライバシーポリシーの改定などを行う際は、こうした改正動向を把握しておくことが重要です。
なお、法律が成立してから施行されるまでには通常1〜2年の猶予期間が設けられるため、情報を先取りしながら、計画的に準備を進めることが望まれます。
[第二部]ただバナーを出すだけではない!CMP仕組みの理解
セミナー後半では、アンダーワークス株式会社の田口 裕が登壇し、Cookie規制に対応する具体的なツールとして注目されている「同意管理プラットフォーム(CMP)」の仕組みと実装上のポイントについて解説しました。単にバナーを表示するだけでなく、ユーザーの同意取得・記録・制御という一連のプロセスを裏で支えるCMPの全体像を知ることで、法令対応とユーザー信頼の両立を実現するためのヒントが得られます。
顧客と企業を結ぶデジタルな顧客接点
現在、多くの企業がWebサイトやアプリ、SNS、広告プラットフォームなど、さまざまなチャネルを通じて顧客と接点を持っています。特に大規模な企業では、グループ会社やブランドごとに数百単位のWebサイトを保有しており、それぞれでCookieを用いたトラッキングやデータ収集が行われています。
このような接点では、広告の表示、資料請求フォーム、SNS連携、会員登録などを通じて、ユーザーに関する多様なデータが収集され、分析や施策に活用されています。その一方で、どこで何のデータが取得されているかをユーザー自身が把握するのは困難であり、企業側にも「適切に説明・同意を得る」ことが求められるようになってきました。

Cookieとは何か?
Cookieとは、Webサイトがユーザーのブラウザに保存する小さなテキストデータで、サイト訪問者の識別や行動履歴の保持に使われます。もともとはECサイトで「カートに入れた商品を保持する」といった目的で開発された技術ですが、現在ではサイトの利便性向上だけでなく、広告配信やアクセス解析といった用途にも広く利用されています。
Cookieには大きく分けて2種類があります。
・ファーストパーティCookie:訪問しているWebサイト自身から発行されるCookie
・サードパーティCookie:広告配信や外部解析ツールなど、第三者のドメインから発行されるCookie
特に後者は、プライバシーへの影響が大きいため、同意取得の対象として規制の中心に置かれています。

Cookie利用同意の仕組みとは?
Cookieを使用してユーザーの情報を取得する場合、「いつ、どのような目的で、どの情報を、誰が使うのか」をユーザーに対して明確に示し、その上で同意を得ることが求められます。このプロセスを担うのがCMP(Consent Management Platform)と呼ばれる仕組みです。CMPは、Webサイト上でCookieの利用目的ごとに同意を取得し、その結果に応じて裏側でタグやスクリプトの動作を制御する技術基盤です。
CMPの主な機能は以下の3点に集約されます。
1.タグスキャン・コントロール
各Webサイトに埋め込まれたタグやCookieをスキャンし、目的(必須/分析/広告など)別に分類。
2.コンセントモーダル
利用目的ごとに同意の可否を選べるバナーを表示し、ユーザーの意思表示を取得。
3.同意管理
同意が得られなかった目的のCookieやタグは自動的に発動をブロック。

単なるバナー表示にとどまらず、CMPは「ユーザーが同意した内容に沿ってWebサイトの振る舞いを動的に制御する」という高度な仕組みを備えています。CMPを適切に運用するためには、ツール選定だけでなく、Webサイト上のタグ棚卸し、社内ステークホルダー(マーケ、情シス、法務など)との連携体制の構築も不可欠です。
まとめ
本セミナーでは、前半の第一部で「個人情報保護法の改正動向と規制強化の背景」、後半の第二部では「CMP(Cookie同意管理)の具体的な仕組みと実務ポイント」が解説されました。企業にとっては、ただ法令に対応するだけでなく、ユーザーとの信頼関係を築くうえでも、正確な情報提供と同意管理が重要になっています。 「データ活用」と「プライバシー保護」は二律背反ではなく、両立可能なものです。今後の制度改正の動向を注視しながら、自社の実務にどう取り入れていくか、今から備えておくことが求められています。
講演者
角川 正憲
Priv Tech株式会社
ビジネスディベロップメント 兼 コンサルタント
2019年弁護士登録の後、弁護士法人淀屋橋・山上合同(現職)で一般民事事件・企業法務を幅広く経験。2023年Priv Techに参画。現在は、弁護士業務を行う傍ら、Priv Techでビジネスディベロップメント、主として大企業を対象としたプライバシーコンサルティングに従事。
田口 裕
アンダーワークス株式会社
マネージング・ディレクター / Managing Director
事業会社でSaaS事業、海外事業パートナー開拓、現地法人の設立や新規事業企画・開発に従事した後にアンダーワークスに参画。海外在住経験や事業パートナーとのビジネスを通じて培った異文化コミュニケーションへの深い理解を活かしてクライアントのグローバル施策の立案や支援に携わる。専門テーマは、デジタルガバナンス戦略策定や実行支援、マーケティングテクノロジー導入支援、Webサイト運用基盤整備、マーケティングデータ活用、アカウントベースドマーケティング(ABM)、データプライバシーツール導入支援など。