デジタル、ライフスタイル、アートが融合する未来の都市型モールのあり方とは
アジア各国で進化する購買体験の中でも、シンガポールはテクノロジーと都市設計が高いレベルで統合されたユニークな市場のひとつです。今回はそのシンガポールで、未来的なデジタル購買体験の世界観を実際に体験できるモールとして注目されているFunan Mallを紹介してみます。
単なるスマートリテールの実証フィールドではなく、「アート」や「ライフスタイル」と融合した一貫性のある体験空間として設計されたこの施設は、都市型購買体験の未来像を垣間見る上で非常に興味深い存在です。
IT専門モールから未来の都市型モールへリノベーションしたFunan Mall
Funanモールは、地下鉄City Hall駅に直結した場所に、1985年に「Funan Centre」として開業しました。90年代には「Funan DigitaLife Mall」としてIT関連の専門店が軒を連ね、シンガポールにおける電子機器とデジタルガジェットの聖地として存在感を放っていました。
しかし、EC市場の急成長により、IT専門モールという業態そのものが限界を迎え、2016年に一時閉館。その後、約3年にわたる大規模再開発を経て、2019年に新たな都市型複合施設として「Funanモール」が再オープンしました。
現在のFunanモールは、単なる商業施設ではなく、ショッピングモール、オフィスビル、サービスアパートメントが一体化した未来の都市空間をコンセプトにしており、CapitaLand社が手がける最先端のプロジェクトとしても知られています。

モールに自転車道? ― 都市の中の購買空間としての設計思想
Funan Mallの象徴的な特徴のひとつが、施設内に設置された赤い自転車レーン。入店してすぐに、デジタル=最先端、というコンセプトだけでなく、「ライフスタイル」「クリエイティブ」といったコンセプトを感じることができます。


また、併設されたオフィスビルへの入館は顔認証で行われ、事前登録した会員はデジタルIDでスムーズにアクセス可能。セキュリティと快適性の両立を目指したスマートアクセス体験が実装されています。

さらに、モール内には、VRを体験できるゾーンもあり、来店時には実際にVR体験に夢中になっている子どもたちがいました。

こうしたインフラのデジタル化が施設全体の世界観と融合しており、「デジタルが便利を超えて“風景の一部”になっている」ことが大きな特徴です。
多くのテナントが「体験ゾーン」を持つ前提で設計されている
Funanモールの中を歩いていると、ほとんどの店舗が体験スペースを持っていることに気づきます。たとえば、NIKONの店舗では、NIKON EXPERIENCE HUBと名付けられた体験ゾーンが提供されています。他のお店でも、単に商品が陳列されているだけではなく、製品を体験することを目的とした店舗になっています。

スーパーではすべてのレジがセルフ対応になっており、購入から退店までの導線がストレスなく設計されています。


もちろん東京やソウルにもショールーミング型の店舗は多数ありますが、Funanモールではこうした体験型の店舗設計が“モール全体の共通ルール”のように自然と溶け込んでいるのがユニークです。結果として、訪れる人々は個別のブランドではなく、「Funanという体験空間全体の世界観」に触れている感覚になります。
クライミングジム、人工芝の階段、ライフスタイルをコンセプトにした未来購買の提言
施設の中央には、Central Climbingと呼ばれるの本格的なインドアロッククライミングの壁がそびえ立ちます。シンガポールでは、ロッククライミングは子どもの習い事としてもメジャーになっており、様々な場所で体験できますが、こちらのクライミング施設はモールの吹き抜け部分を使ったかなり本格的なものになっています。
また、1階と2階をつなぐ大階段には人工芝が敷かれ、ノートパソコンで作業をする人、友人と話す人、静かに読書する人など、まるでスタートアップのラウンジのような空気が漂います。


モール内には、コーヒーショップ・レストランから映画館、電気店、スポーツ施設、オフィスまで実に様々な店舗があります。購買体験だけでなく、ライフスタイルをコンセプトにしていることが体感できると思います。




おそらく、ひとつひとつのデジタル購買体験は他のモールでも体験できるものだと思います。ただし、このモール全体を未来的なものにしていこうという世界観は、かなり貴重なものだと思います。
2019年のオープン以来、コロナの影響を受け、まだまだ計画や構想が実現されていないものが多くあるそうです。(顔認証での店舗入店や決済の仕組みなど)今後の発展が楽しみなモールの一つです。