• HOME
  • メディアDMJ
  • EAA解説①:適用開始直前! 欧州アクセシビリティ法(EAA)と企業への影…

 
2025年6月28日に欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act: EAA)が全面施行されます。デジタルトランスフォーメーションが世界的に推進される中でアクセシビリティは、多様な市場に対応しようとする企業にとって極めて重要なテーマとなっていましたが、今後は、欧州連合(EU)でデジタル製品やサービスを提供する企業にとって、新たな法的・技術的要件を理解して対応することの重要度がより増していくことが予想されます。
 
本記事では、Webアクセシビリティに焦点を当てて、その概要、EAAの背景、WCAG(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)の役割、アクセシビリティのビジネス価値、企業が取るべき実践的な対応策について解説します。
 

あわせて読みたい! プロフェッショナルが解説!Webアクセシビリティに関するFAQについての回答

Webアクセシビリティの概要

Webアクセシビリティとは、障害の有無にかかわらず、すべての人がWebサイトやデジタルサービスを利用できるようにする包括的な取り組みを指します。この概念は、1990年代のインターネット急拡大とともに登場し、Web技術が障害者の自立や社会参加を促進できると認識されたことに始まります。W3C(ワールドワイドウェブ・コンソーシアム)は、こうしたニーズに応えるためWeb Accessibility Initiative(WAI)を立ち上げ、1999年に初のWCAGを策定しました。
 
Webアクセシビリティの意義は、サービスの提供者が基準を遵守することで、すべてのユーザーがデジタルコンテンツにアクセスできるよう障壁を取り除くことが本質です。視覚・聴覚・運動・認知障害など、さまざまな障害を持つユーザーが「知覚できる」「操作できる」「理解できる」「堅牢である」ことを実現することが求められます。 

欧州アクセシビリティ法の概要

欧州アクセシビリティ法(EAA)は、2015年12月に欧州委員会が同法の正式な提案を発表したところから始まり、3年以上の協議を経て2019年に採択されました。さらに2022年6月までのEU加盟各国が自国法にEAAを反映する準備期間を経て、今年の6月28日からいよいよ適用が開始されます。
 
EAAは、障害者や高齢者を含むすべての人が製品やサービスを平等に利用できる環境を整備することを目的としたEUの包括的な指令であり、EU加盟国間で製品やサービスのアクセシビリティ基準を統一することを目的としています。また、この各国ごとに異なる規制による障壁を解消し、アクセシブルな商品・サービスの域内市場を拡大することにあります。
 
EAAは、コンピュータ、スマートフォン、ATM、銀行サービス、eコマース、電子書籍、ウェブサイトやモバイルアプリなど、幅広い製品・サービスに適用されます。特に重要なのは、EAAの適用範囲がEU域外にも及ぶ点で、基本的に世界中のどの企業でも、EU消費者向けに商品やサービスを提供する場合、2025年6月28日までにEAAに準拠したアクセシビリティのサポートを実行することを求められています。
 
現状は、従業員10人未満かつ年間売上200万ユーロ未満のマイクロ企業はEAA適用除外ですが、それ以外の企業は基準を満たさなければ罰則の対象となる可能性もあります。
 
経過措置期間は2030年6月までとなっていますが、GDPRにおいても2019年に執行された直後から罰則適用が実際に発生していたことを考えると、早めにアクションを取って対処することが安全と言えるでしょう。
 

欧州アクセシビリティ法とWCAGの関係

WCAG(ウェブコンテンツ・アクセシビリティ・ガイドライン)は、W3Cによって策定されたウェブアクセシビリティの国際的な技術基準です。1999年の初版以来、2.0、2.1、2.2と進化しており、多くの法域で「レベルAA」準拠が法的な最低基準とされています。
 

EAAはアクセシビリティ対処を促す法的な枠組みですが、WCAGは必要なアクセシビリティを実現のための技術的な指針となります。EAAは、欧州連合(EU)が策定した情報通信技術(ICT)製品・サービスのアクセシビリティ要件を定めたヨーロッパの標準規格であるEN 301 549などの調和基準(Harmonized Standard)も参照しており、これはWCAG 2.1 レベルAAの基準を最低要件として組み込んでいます。つまり、WCAGに準拠することで、EAAへの対応を効率的に示すことができ、今後の基準変更にも柔軟に対応できます。

欧州アクセシビリティ法が企業に与える影響

日本国内でも障害者差別解消法の改正やJIS X 8341-3の運用強化など、アクセシビリティ対応の重要性が高まっていますが、現状は努力義務にとどまっています。しかし、グローバルな法整備の流れを受けて、今後は日本でもアクセシビリティの義務化や基準のアップデートが進む可能性が高いと指摘されています。今や企業活動の重要な顧客接点となり、多くの企業が運用しているWebサイトでもWCAGのようなグローバル標準の最新バージョンへの迅速な追従が、国際競争力の維持に不可欠です。
 
欧州アクセシビリティ法(EAA)は、EU域内だけでなく、EUの顧客に製品やサービスを提供する日本企業にも直接的な影響を及ぼします。EAAはWebサイトやアプリ、デジタルサービスに対してWCAG 2.2レベルAA準拠を義務付けており、これに対応しなければ欧州市場でのビジネス継続が困難になる可能性があります。今後、日本企業がグローバル展開する上で、WCAG準拠は「選択肢」ではなく「必須要件」となります。

デジタル戦略の根幹としてのWebアクセシビリティ

Webアクセシビリティに対して取り組むことは、単なる法令遵守にとどまらず、ユーザビリティ向上や市場拡大、ブランド価値向上にも直結します。例えば、高齢者や障害者を含む幅広いユーザーに使いやすいサービスを提供することで、顧客基盤の拡大や企業イメージの向上が期待できます。EU市場を目指す、あるいは既に展開している日本企業は、競争力を維持し法令遵守を果たすために、以下のような積極的なアクションを実行することが推奨されます。
 
・既存製品・サービスの監査:Webサイト、モバイルアプリ、デジタルサービスについて、WCAG 2.1 レベルAAおよびEN 301 549とのギャップを特定するための包括的なアクセシビリティ監査を実施。
 
・アクセシビリティ課題の改善:特定された障壁を優先的に解消し、デジタルコンテンツが「知覚できる」「操作できる」「理解できる」「堅牢である」ことを担保。
 
・開発初期からのアクセシビリティ統合(シフトレフト):設計・開発・品質保証の初期段階からアクセシビリティを組み込み、コスト削減と品質向上を実現。
 
・具体的な実装:音声読み上げ対応やキーボード操作、色覚多様性への配慮などの技術的な実装 ※デジタル庁が公開している「ウェブアクセシビリティ導入ガイドブック」などは課題解決の方針を立てるにあたり参考になります。
 
・職種別トレーニングへの投資:デザイナー、開発者、テスター、コンテンツ制作者向けに、役割別のアクセシビリティ研修を実施し、社内の専門性とインクルーシブ文化を醸成。
 
・継続的な監視と維持:基準や規制の変化に対応できるよう、継続的なモニタリングを可能にする運用体制、チェックツールの活用や技術アップデートを実施。
 
・EUのパートナー・顧客との連携:現地の期待や要望を把握し、欧州市場に適合したアクセシブルなソリューションを共同開発。

まとめ

Web技術が登場した当初から認識されており、具体的な技術指針としてWCAG基準も整備されていたものの、これまで日本では努力義務に近い実装しかされてこなかったWebアクセシビリティですが、欧州アクセシビリティ法(European Accessibility Act: EAA)という法的な枠組みが登場したことで、グローバルな市場における日本企業のWebアクセシビリティ実装の期待値が大きく変わる転換点を迎えています。
 
グローバル市場での競争力維持・拡大、国内外の法令遵守の重要テーマ、そして全ユーザーに価値を届けるための基盤となるWebアクセシビリティは、企業の社会的責任であると同時に、持続的成長のための戦略的なテクノロジー投資対象と言えるでしょう。

関連記事

デジタルマーケティングジャーナル 一覧