会社の代表電話には、緊急の連絡から営業電話まで、実にさまざまな電話がかかってきます。現在アンダーワークスでは、電話対応を専門の外部サービスに委託していますが、「もしAIがこの対応を担えるようになったら、何がどう変わるのだろう?」という期待から、今回「AI電話自動応答サービス」のトライアルにチャレンジしてみました。
本記事では、実際にトライアルを行って感じたリアルな声をもとに、AIによる電話対応の今と、これからの「次世代型電話応対」の可能性について考えていきます。
次世代の電話対応に期待してはじめたトライアル
当社ではリモートワークを導入していることもあり、以前から代表電話の一次受けを外部の電話代行サービス(以下、有人サービス)にお願いしてきました。そのため、電話対応に大きな不便を感じていたわけではありませんでしたが、社内でAI活用が進む中、AI関連の展示会で知った「AI電話自動応答サービス」に興味を持ち、今回トライアルを行うことにしました。
トライアルに際して、特に期待していたのは次の2つのポイントです。
1. コスト削減
現在利用している有人サービスは、月額およそ3万円ほどのコストがかかっています。それに比べて、AI電話自動応答サービスはツールやプランによって価格帯はさまざまですが、今回トライアルしたサービスでは一次受けのみであれば月1万円前後から利用可能でした。そのため、運用の仕方によっては大幅なコスト削減が期待できると感じました。
2. 担当者への電話転送
これまでの有人サービスでは、一次受けした内容をSlackで通知するところまでが基本で、担当者に電話を直接つなぐことはできませんでした。そのため、一部のお客様からは「いつも折り返し対応で手間がかかる」といった声もありました。一方で、AI電話自動応答サービスには担当者の携帯電話に直接転送できるプランもあり、こうした不便さを解消できるのではと期待していました。
コストを抑えながら、よりスムーズで柔軟な対応ができるようになるかもしれない──そんな思いで、私たちはこのトライアルをスタートさせました。
AI自動応答の運用フロー
今回のトライアルでは、法律の関係上、実際のお客様からの電話を受けることはできなかったため、社内用に付与された専用のトライアル番号に自分たちで電話をかけ、AIの応答を体験するかたちで実施しました。
導入すればすぐ使える、というわけではない
AI自動応答サービスといっても、ただ導入しただけでAIがすべてを自動でこなしてくれるわけではありません。まず必要なのは、会話のシナリオを自分たちで設計することです。イメージとしては、マーケティングオートメーション(MA)のシナリオ設計に近い感覚です。
シナリオ設計の例
専用の管理画面上で、「もしこう言われたら、こう答える」といった分岐(いわゆる if文)のルールを細かく設定していきます。以下は、実際に設定した一例です。
ヒアリング項目:「会社名とお名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」 「ご用件をお聞かせください」
クロージング:「担当者から折り返しご連絡いたしますので、少々お待ちください」
転送設定:担当者の名前が特定できた場合は、その携帯電話に自動で転送を試みます。電話に出られなかった場合は、「ただいま担当者は電話に出ることができません」という自動音声に切り替わる仕組みです。
AIによる応答と通知
電話がかかってくると、事前に設定したシナリオに沿ってAIが自動で応答します。やり取りされた会話はAIによって自動的に文字起こしされ、Slackなどのチャットツールに以下のような形式で通知されます。

このように、通話内容の要約や録音データもすぐに確認できるようになっており、応対内容の把握やフォローアップもスムーズに行えます。録音データは一定期間保存されており、あとから聞き返すことも可能です。
見えてきた課題点:「人」vs「AI」では、まだ“人”に軍配
コスト削減や電話の転送など、AIに期待できるポイントはいくつか見られたものの、実際にトライアルを行ったことで「本格導入にはまだ早いかもしれない」と感じる課題も明らかになってきました。
課題①:機械っぽさが強く、「人らしさ」が感じにくい
実際にAIによる電話応答を体験してみると、AIの応答は「いかにも機械が話している」という印象を受けました。人間らしい温かみや臨機応変さはなく、会社の顔であるはずの電話対応が機械的になることで、お客様に冷たい印象を与えかねません。緊急の要件で電話をかけてきたお客様にとっては、サービスレベルが下がったと感じられ、顧客満足度の低下につながる懸念がありました。
課題②:シナリオベースの応答で、柔軟な会話が難しい
現状のAI自動応答は、あらかじめ設定したシナリオに沿って会話を進めるスタイルです。そのため、想定外の質問や複雑な要望があった場合、うまく対応できないケースがあります。人間であれば文脈やニュアンスから相手の意図を汲み取ることもできますが、AIはそうした“空気”を読むことができません。現段階では、柔軟なコミュニケーションにはまだ課題が残っていると感じました。
課題③:音声認識の精度が、まだ「完璧」ではない
AIによる文字起こしの精度は徐々に進化しているとはいえ、まだ完全ではありません。実際のトライアル中にも、担当者の名前をうまく認識できずに間違えるケースがありました。特に固有名詞──とりわけ担当者の名前を正確に聞き取れないのは致命的です。名前を正確に認識できなければ、期待していた「担当者への直接転送」機能も使えません。お客様に何度も名前を言い直してもらう手間を考えると、実用面ではまだ厳しいと感じました。
これらの課題点を総合的に判断し、「応対品質」という観点では、現状ではコストをかけてでも「人」が対応する方がメリットが大きいという結論に至りました。
次世代の電話対応はどうなっていくのか?
今回のトライアルでは本格導入には至りませんでしたが、AI技術の進化スピードを考えると、今感じている課題もそう遠くないうちに解消されるのではと思います。
たとえば、AIがGoogleカレンダーと連携し、担当者の予定をリアルタイムで把握して「〇〇は現在会議中です。15時に終了予定ですので、終わり次第折り返しご連絡いたします」といった、まるで人が対応しているかのような自然な応答ができるようになれば、再導入も前向きに検討したいところです。
今回使ってみたツールではいくつか課題が見つかったものの、ツールによってはもっと“人に近い”応対ができるものもあるかもしれません。こういった事例を見ると、AIの会話力が着実に実用レベルに近づいていることを感じます。
さらに最近では、AIが電話を“受ける”だけでなく、“かける”側としても活用され始めています。一部の営業支援ツールでは、AIが自動で営業電話をかけてくれる機能も登場しています。そうなると、「発信するAI」と「受けるAI」が会話する──そんなSFのような未来が、本当にもうすぐ実現するのかもしれません。
まとめ
今回の「電話AI自動応答サービス」のトライアルでは、コスト削減や電話転送の効率化といった点では手応えを感じたものの、柔軟な応対や音声認識の精度など、現時点ではやはり“人”に軍配が上がるという結論になりました。しかし、これはあくまで「現時点」での話です。AI技術は日進月歩で進化しており、今日できなかったことが明日にはできるようになっているかもしれません。
今回のトライアルは、AIの現在地を知ると同時に、未来の働き方を考える上で非常に示唆に富んだ体験となりました。私たちはこれからも最新テクノロジーの動向を注視し、お客様にとっても、社員にとっても、より良いコミュニケーションの形を模索し続けていきたいと思います。