ChatGPTにエージェントモードが搭載 〜AIがブラウザーを操作する時代の始まり〜
 

2025年7月、ChatGPTのPlusプランにエージェント機能が追加されました。これは、OpenAIが以前から公表しており、Proプランでは利用できていた「Operator」と呼ばれる機能が幅広いプランに展開されたものです。
 

エージェント型AIは、現時点では様々な意味で使われる言葉ですが、その一つに、AIが自律的にブラウザーを操作し、ユーザーの代わりにWeb上でタスクを遂行するというものを指すこともあります。
 

2025年に入り、イギリスのスタートアップのConvergence.aiの Proxyなどが一般公開機能としてはその先駆けではありました。Convergence.aiは2025年5月にSalesforce社に買収されました。


また、中国発AIのManusにも、エージェント機能は内蔵されており、今回新たにChatGPTに内蔵されたエージェントモードと同じような機能が既に提供されています。
 

本記事では、このエージェント機能を利用して実際に予約や購買をAIに依頼してみることができるのかを実験してみます。そのうえで、このようなエージェント機能が広く普及するとデジタルマーケティングへどのような影響があるのか、を考えてみます。


結論を言えば、「顧客がAI化する世界において、購買のあり方・顧客体験の見直しをゼロベースで考える必要があるのではないか」という提言をしたいと思います。

AIエージェントで出張を手配


ChatGPTのエージェントモードやManusを利用して、出張の手配(ホテル予約・航空券の予約)をAIに依頼してみたいと思います。

7月中旬に、ちょうどマレーシア現地法人への出張予定があったため、まずはExpediaでのホテル予約をManusに依頼してみました。Manusへのプロンプトは以下の通りシンプルなものです。

Expedia で 2025/7/14 から一泊、大人1名で Sofitel Kuala Lumpur Damansara を予約したい。Expediaにでログインして。Expediaのポイントは使わない。キングベッドの一番安い部屋にして。


いつもホテル予約に使うExpediaにて、ホテルも指定しました。また、Expediaへのログイン情報も提供し、自動的にログインできるかを試しました。

Manusは、プロンプトを受け取ると、以下のように依頼を確認し、Manus内でブラウザを立ち上げ指示通りにブラウジングをはじめます。

定番のタスクとして、「マレーシア出張のホテルを予約して」とChatGPTに指示してみました。利用したのはExpediaのWebサイトで、ログイン・検索・比較・予約という一連の操作を、すべてAIがブラウザーを開いて実行してくれます。

画像は、AIがログイン後に実際にホテルを選定している様子です。


一番気になるところは認証ではないでしょうか。これはAIやWebサイトによって進め方が違う部分です。Convergence AIでは、ローカル上にIDやパスワードを格納する機能がありましたので、登録したドメインに関してローカルの認証情報を利用していました。Manusでは、ブラウジングが止まり、AIから人間に主導権が移り、IDやパスワードを入力するように指示されます。これはChatGPTでも同様です。ただし、AIが自律的に認証をトライするような動きをするときもあります。特に、ロボットでないことを証明するReCapchaの仕組みを突破するのはAIにはまだまだ難しいようでした。


認証を突破してしまえば、あとはスムーズに目的に向かってエージェントがブラウジングを進めました。スピードは人間が行うスピードと比較し圧倒的に時間がかかります。このあたりはまだまだ進化が必要な部分かもしれません。ただ、Expediaではスムーズにブラウジングできても、他のサイトでも同様ではありません。いくつか試した国内のホテル予約サイトでは、うまく検索やコンテンツの発見ができずにループしたままフリーズしてしまうことがありました。明らかに人間とAIエージェントでは情報の読み取り方や理解の仕方が異なることが体感できると思います。


最後に、クレジットカードの決済のページで再度主導権が人間に戻ります。Amazonのようなワンクリックで購買完了するようなECサイトの場合、AIエージェントだけで購買が完了するかもしれません。無事にクアラルンプールのホテルの予約が完了しました。かかった時間は10分ほどです。

次に、ChatGPTのエージェントモードを使いベトナムのホーチミンシティへの往復航空券の予約もしてみます。こちらは、少し条件をつけてみました。

expedia.co.jpで、9月18日東京発ホーチミンシティ行きの直行便エコノミークラス、9月22日現地発東京往路の航空券を予約して。東京は成田・羽田どちらでもよい。できれば夕方の便で、1万円以内の差額ならANAを予約して。

いくつかの便の価格を比較した上で、価格差があまりなければ日系の航空会社を指定する、というような条件です。プロンプトすると、内容を復唱したうえで、Manus同様にブラウザが立ち上がりブラウジングが始まります。

無事に価格を比較をした後に、VietJetというLCCが大変安い価格であったためにVietJetでの往復航空券を提案し、決済の確認に至りました。(作業時間は約8分)


このように、認証や決済部分をAIエージェントにすべて丸投げすることはできないものの、検索やコンテンツの発見、画面の遷移は問題なくAIエージェントが代替してくれます。プロンプトの仕方によっては、より複雑なものでも対応できそうな気がしました。

先にAI化するのは企業ではなく「顧客」の側かもしれない


デジタルマーケティングとAI、は今やどのマーケティング担当者も最重要視するテーマだと思います。しかし、その文脈での「AI利用」は、マーケティング業務のAI化ではないでしょうか。コンテンツの作成をAIに任せる、コンテンツのアップロードや成果の分析をAIに任せる、といったイメージです。


本記事で考えたいことは、AIエージェントの普及は「企業よりも顧客への普及が早いかもしれない」というセンセーショナルな未来世界です。

旅行予約サイトやECを運営する企業が「社内業務をAI化しよう」としている間に、顧客のほうが先に、ChatGPTのエージェントなどを使って、商品選びから予約・購入までをAIによって自動化してしまう──そんな未来が現実になる可能性は低くないと思います。

もちろん、現時点(2025年7月)におけるAIでは、まだまだ広く普及するには課題がありそうです。(認証セキュリティやブラウジングにかかる時間など)ただし、過去1-2年のAIの技術的発展に鑑みると、これから数年の技術の発展も凄まじいものであることも想定できます。自社の顧客が、購買行動をAIに依頼することが一気に広まる可能性は十分にあると思えます。

AIエージェント時代の“新しい顧客体験”に備える


「顧客がAIになる」──これまでの描いてきたカスタマージャーニーの根本が変質することを意味するかもしれません。

AIエージェントを使えば、顧客本人の感情や意思決定ではなく、「顧客が使うAI」がそのジャーニーを“代行”するようになります。こうした世界では、以下のような根本的な問い直しが必要になります:

・本当の顧客の心理や行動は、今後ますます理解しづらくなるのではないか?
データに映るのはAIの行動ログであって、顧客の感情や葛藤ではないかもしれません。

・AIと人間のタッチポイントを、どこで切り分けるべきか?
「この操作はAIに任せる」「ここだけは本人が決断する」といった“責任の境界線”を、企業と顧客の両者が合意していく必要が出てきます。

・自社のバリュープロポジションやオムニチャネル戦略は、AIを前提に再設計できているか?
これまでは「人間が感動する体験」や「人間が迷わず進める設計」が評価されてきました。
しかし、AIエージェントには「美しさ」や「感情」は通じず、構造やルールの明快さこそが価値となるかもしれません。

しかし一方で、購買行動の一部が、あるいはほとんどがAIに代替されたとしても、商品やサービスに対する好感度や購入の重要な意思決定は人間に残るはずです。AIはその人間の意思を受けて実行部分を代替するわけです。それがどこになるのか、もう一度カスタマージャーニー全体を再定義し、見直しをすることは避けられないと思います。

だからこそ今、AIエージェントの勃興を前に考えるべきことは、「自社の業務オペレーションの自動化・AI化」だけでなく、再度顧客のAI化、そしてより人間的な購買行動のチャネル・瞬間がいつなのか?そこに対してどのような体験を作り出すのか、ではないでしょうか?

「自社の顧客体験は、“AIが代理で体験する未来”にも通用するのか?」
これからの数年間、企業にとって真の競争力とは、単にAIを“業務に使う”ことではなく、“AIを使う顧客”に選ばれる設計ができるかどうかにかかっているのかもしれません。

関連記事

デジタルマーケティングジャーナル 一覧