コンサルティング業界における議事録は、単なる「会議の記録」ではありません。プロジェクトが適切に進んでいること、次に行うべき作業が正当であることを示す、いわば「契約書」に近い存在です。そのため「議事メモ」や「発言録」とは異なり、極めて高い品質基準が求められます。
アンダーワークスでも議事録の品質には強いこだわりを持ち、作成からレビューまで多くの工数を投じてきました。しかし、その重要性を理解しながらも、膨大な作業負担は組織全体にとって大きな課題となっていました。
こうした背景から、私たちはAIを活用した議事録の自動化を全社展開することを決断し、実際のプロジェクトでの運用を開始しました。本記事では、AI議事録に対する考え方、具体的な運用プロセス、そして全社導入によって得られた成果と今後の展望をご紹介します。
賛否両論のAI議事録──全社導入を決断した理由
AI議事録の導入には、業界内でも賛否があります。業務効率化や知見共有のスピード向上といった利点がある一方で、「若手コンサルが議事録を通じて培ってきた論点把握や構造化のスキルを失うのではないか」といった懸念も少なくありません。また、セキュリティやニュアンスの正確性に対する不安も根強くあります。
私たちが重視したのは、こうした賛否を超えた本質──生産性向上 × 品質担保 × 顧客価値の最大化です。議事録は全プロジェクトに共通する領域であり、標準化がしやすいからこそAI化の効果が大きく、全社的な工数削減につながります。浮いたリソースを本質的な課題解決や価値創出に充てることで、デリバリー品質をさらに高めることを最優先に考えました。
もちろん、スキル習得やセキュリティに関する懸念を軽視しているわけではありません。スキル習得機会の喪失は、新しいテクノロジーの登場に伴って必ず起こる変化です。私たちは、AIの生成物をレビューする力といった新しいスキルを再定義し、学んでいく方が建設的だと考えています。セキュリティについても、リスクを過度に恐れるのではなく、リターンとのバランスを見極めることが重要です。契約済みのプラットフォームを利用し、学習機能をオフにすることで実用的な安全性を確保した上で、AI活用に舵を切りました。
AI議事録の作成フロー
アンダーワークスでは、トライアルを経て以下のフローでAI議事録を運用しています。
「会議録音・自動文字起こし → Geminiによる議事録生成 → 確認・修正 → 納品形式への変換」

1. 会議の文字起こしデータ取得
全社導入している文字起こしツール「tl;dv」で会議を録音・テキスト化します。その後、Word形式に変換し、Geminiで処理できる形式に整えます。
2. Geminiでの議事録生成
契約している Gemini 2.5Pro を利用し、専用のプロンプトと資料(文字起こしデータ、会議資料、過去の議事録サンプル)を添付します。プロンプトにはプロジェクトごとの前提情報を入力する「基本情報」欄を設け、作業者が都度記入します。
3. 出力内容の確認と修正
AIの出力は常に完璧とは限らないため、必要に応じて指示を補足し、最適なアウトプットを選び取ります。高品質なアウトプットを強みとする「Gemini 2.5 Pro」を主軸に活用しつつ、状況に応じてスピードと効率を重視した「Gemini 2.5 Flash」の出力も補完的に取り入れます。(なお、モデルによって要約の粒度に違いがあり、2.5 Flashの方がより細かく内容を記載する傾向があります。)
さらに、AIだけでは補えない部分については、人が最終的に手動で確認・修正を行い、品質を担保します。
4. 納品形式への変換
最終的な議事録は、各プロジェクトで定められたフォーマットに合わせて整形し、クライアントへの納品、または社内での共有を行います。
トライアルで分かった各モデルの特徴
最終的にGeminiを選定しましたが、そこに至るまでには複数のAIモデルで慎重な比較検証を行いました。AIと一口に言っても、その特性はさまざまです。ここでは、トライアルで比較した主なモデルの特徴をご紹介します。
Claude:出力は速いが、構造化と詳細な記述が苦手
出力速度は非常に速いものの、インデントを用いた階層構造の表現が苦手で、プロンプトで何度指示しても改善が困難でした。また、内容が要約されすぎる傾向があり、議事録として求められる「議論の具体的な経緯」が抜け落ちてしまう点が課題でした。
NotebookLM:要約が苦手で、情報過多になりがち
Claudeとは対照的に要約が苦手で、情報を網羅的に書き出すため冗長になりがちでした。その結果、結論が見えにくくなるという課題がありました。
Gemini:品質改善のしやすさと柔軟性が強み
出力開始までにやや時間はかかりますが、プロンプトの指示を最も忠実に反映し、アウトプットの品質を改善しやすいという大きな利点がありました。構造化や要約レベルを細かく調整できる柔軟性が、私たちが求める高い品質基準に応えられると判断し、最終的な採用を決定しました。
各モデルに得意・不得意がある中で、「指示した内容を正確に反映し、人間が求める品質に近づけやすい」という点が、Geminiを選んだ最大の理由です。
AIを「信頼できるアシスタント」に育てるための工夫
AIの性能を最大限に引き出すには、人間側の「問いかける力」、すなわちプロンプトエンジニアリングの質が問われます。私たちは、AIを単なるツールから「信頼できるアシスタント」へと育てるため、特に以下の2点に注力してプロンプトの改善を重ねました。
1. 会議資料を読み込ませ、文脈の理解度を向上させる
文字起こしデータだけでは「これ」「あの件」といった指示語をAIが正しく解釈できません。そこで会議資料を補足情報として読み込ませ、「資料を参照しながら文脈を補完して議事録を作成するように」と指示しました。その結果、内容の一貫性や情報の正確性が大きく向上しました。
2. “アンダーワークス品質”のフォーマットを徹底的に教え込む
私たちが目指したのは、単なる要約ではなく、自社基準を満たしたフォーマットの再現です。そのため、結論ファーストの構成やインデントを用いた階層表現などをプロンプトで細かく定義しました。さらに、文末表現についても「〇〇から~という意見がありました」といった伝聞的・受動的な書き方ではなく、「〇〇が~を提案」のように行為の主体を明確に示す能動的な表現を用いるよう指示し、責任の所在を明確にしました。
全社展開がもたらした成果と、その先の未来
AI議事録の全社導入による最も直接的な効果は、工数削減です。これまで1時間の会議に最大2〜4時間かかっていた議事録作成が、AIなら10分ほどで生成可能となり、レビューを含めても大幅に短縮できました。週次で繰り返される業務であるため、この効果は非常に大きく、社員の負担軽減と効率化に直結しています。
しかし、目的は効率化だけではありません。AIを日常業務に取り入れることで、社員一人ひとりが「自分の業務をどうAIで進化させられるか」を主体的に考えるきっかけとなり、社内全体でAI活用の文化を醸成することを目指しています。
今後は議事録作成で得た知見を横展開し、資料レビューやリサーチといったコンサル業務の中核にもAIの活用を広げていく予定です。創出された時間を品質向上に再投資することで、クライアントへの提供価値をさらに高めていく。私たちはこのサイクルを、AI時代における新しいデリバリーモデルとして確立したいと考えています。
まとめ
アンダーワークスは、議事録を「契約書」に等しい重要文書と捉え、高品質の維持と抜本的な効率化を両立させるためにAI議事録を全社導入しました。Geminiを的確に運用することで、長年の課題であった工数負担を大幅に削減し、同時に自社が求める高い品質基準を満たす議事録作成を可能にしています。
この取り組みは業務効率化にとどまらず、社員がAIの可能性を自ら考え、実践する文化の醸成にも寄与しています。今後は議事録以外の業務へもAI活用を広げ、効率化と品質向上を両立させることで、クライアントへの提供価値をさらに高めてまいります。