アンダーワークスでは、2017年から毎年発表している「マーケティングテクノロジーカオスマップJAPAN」を、今年も公開しました。
2025年のカオスマップは、これまでとはまったく異なるプロセスで制作しています。キーワードは、「生成AIを活用した自動生成」。ツールの選定から分類、カテゴリ設計、可視化、Web公開まで、制作フローの大部分を生成AIが担うという、実験的な取り組みとなりました。
なぜ生成AIでカオスマップを作るのか?
「マーケティングテクノロジーカオスマップ」は、2017年から毎年更新してきたプロジェクトで、国内外のマーケティングツールをカテゴリ別に整理してきました。
これまでのカオスマップ制作は、社内でチームを組成、毎週の定例会と役割分担を繰り返しながら、何百時間もかけて、ツールの最新化、カテゴリ整理、ロゴの配置、マップのデザイン調整などを行ってきました。
デジタルマーケティング業界においても、生成AIへの関心が非常に高くなっている昨今に鑑み、本年度は「このカオスマップの制作業務の一切を生成AIに任せられないか?」というアイディアからこれまでとは全く異なるアプローチをとることにしました。
AIにまかせたカオスマップ制作の裏側
実際の制作は、以下のような複数工程に分けて進められました。
ツールの見直し、統廃合作業をAIに任せる
私たちが「ツールの統廃合」と呼んでいる作業があります。これは、以下のようなチェックと整理を行うプロセスです。
・ブランド名が変更されていないか
・新たに登場した注目ツールがあるか
・機能の追加により、カテゴリが変化していないか
昨年までは、何人ものメンバーが手分けして、数百ツールを毎回チェックしてきましたが、今回はこの工程をChatGPTで作成したカスタムGPTに依頼しました。
専用のChatGPTには、過去のカオスマップのリストや分類基準などを読み込ませ、「どういう基準で統廃合を判断するか」をあらかじめ学習させておきます。ツールは一括ではなく、カテゴリごとに分割しながら精査を指示することで、より丁寧なアウトプットを得るようにしています。
また、昨年度2,000ツールを超えたカオスマップですが、今年度は大幅にツールを絞り込むことにしました。そのため、ChatGPTには、事例数や認知度、国内での活動状況などをツールごとに網羅的に調査してもらい、国内でより認知の高いツールに絞り込む作業も同時に依頼しています。
こうした「同じ基準で大量の情報を把握・判別」という作業はAIが得意にするところです。例年であればここだけで数ヶ月かかる作業が数週間で終了しました。
ただし、まだ改善の余地もあります。最終的にツールはGoogle シートに一覧で取りまとめますが、ChatGPTが直接Googleシートを操作することはできません(GPT5によってエージェントモードが備わったものの、まだうまく操作させることはできていません)。ChatGPTからの回答を手作業でシートにコピー&ペーストする作業は依然として人が行っています。
カテゴリ分類と構造設計もAIで
ツールのカテゴリ分類や、そもそものカテゴリ構造の見直しも、上述のChatGPTにお願いしました。こうした論理的な整理作業は、生成AIとの相性が非常に良く、想像以上にスムーズかつ納得感のある分類案が出てきました。
カオスマップには、広告からインフラまで実に様々なマーケティングツールが掲載されています。これを人間がうまく分類しようとするのは非常に大変です。得意な領域と不得意な領域で分類の精度が大きく変わってしまいます。そのためにチームを組んできましたが、必ずしも全員の得意領域が分散するとは限りません。
AIであれば、そうした「ムラ」を極力排除し、かつ、大変論理的な理由をもった分類構造を作ることができます。
Web制作はManusに依頼、HTMLのコーディングからホスティングまで一貫して対応
今回のカオスマップは、これまでのPDFから、HTMLで制作しWebで公開することにしました。そのWeb制作を担当したのが、Manusです。Manusは中国製のAIのため、国内での法人利用は限定的だと思いますが、エージェントAIのさきがけです。
Manusは、HTML・CSS・JSのコーディングはもちろんのこと、Webページのホスティング機能も備えています。すなわち、依頼して制作したHTMLをその場でWebページとして確認しながら作業を進めることができます。AIのよくある課題として、「一部だけを修正したいのに、周辺まで大きく書き換えられてしまう」ような課題が少ないと感じます。
今回のカオスマップでいえば、各ツール間の余白やロゴ画像の位置、行間など、1ページに大量の画像を利用するページとして細かなCSSレベルの調整が必要でした。こうした微調整もプロンプトで依頼するだけで精巧に対応してくれます。
また、HTMLや画像をAWS(Amazon Web Services)に移設(アップロード)する作業もManusに任せることができます。今回は、Manusで制作したHTML・JavaScript・CSS・画像をすべてAWSのS3に格納し、カオスマップのWeb化を実現しています。
AIの限界、ロゴ画像の収集と配置
カオスマップ制作において、最も時間のかかる作業のひとつが、ロゴ画像の収集・加工・配置です。
企業ロゴは、「正しいロゴ」がどれなのか判別しにくかったり、Web上に出回っている画像が古かったり、低解像度だったりと、実は単純ではありません。とはいえ、1,000以上のアイコンを収集する作業全体は膨大なルーティン業務になってしまいます。
これもManusに依頼しました。しかし、これは思った通りにはいきませんでした。ロゴの収集はできるものの、間違っているものや解像度が低いものも多くありました。また、そもそも何度依頼しても収集できないロゴがたくさんありました。
最終的に、ロゴの収集や確認作業の半分近くは人間がやらざるを得なくなり、ここが最も工数に影響しました。
実際の工数は?──1,000時間から50時間へ
これまでのカオスマップ制作では、複数人が数ヶ月をかけ、定例会を重ねながら役割分担して進めてきました。総作業時間は、チーム全体で1,000〜2,000時間に及ぶケースもありました。
しかし今回は、ほぼ1人で、約50時間で制作が完了。
慣れればもっと短縮できる可能性もあり、生産性は10〜20倍、今後は100倍にもなり得ると感じています。
企業サイトのWebページ作成を担うAIがどんどんでてきていますが、これは大きな示唆になるのではないでしょうか。大規模なWebサイトをリニューアルする際、プロジェクト期間は数ヶ月から数年にも及びます。また、多くの人材が多くの時間をかける必要があります。AIを利用してWeb制作をすることができれば、その工数は1/10から1/100まで削減することができるかもしれません。
まとめ
カオスマップとは、本来、複雑で混沌としたマーケティングテクノロジーの世界を整理し、可視化するための「地図」です。
そして今回、その“地図づくり”そのものを、生成AIと共に行うことで、「人がやるべきこと」と「AIに任せられること」の境界線が明確になってきました。情報の収集、分類、整理、構造化といった“情報設計”の領域では、生成AIは非常に頼れるパートナーです。
一方、視覚デザインやブランド表現といった“感性”に関わる領域では、まだ人の力が必要です。しかしそのバランスを理解しながら「AIと一緒に作る」ことで、圧倒的なスピードと効率を実現できることも事実です。
今後も、私たちはこうした実践的な試行錯誤を通じて、生成AI×マーケティングの最前線をお届けしていきます。