2017年も余すところわずか。デジタルマーケティング業界は今年も大小様々なトレンドがうまれつつ、着実に企業の取り組みが進んできていると感じます。今年の1月には、2017年トレンド予想として以下のような記事を公開しました。
デジタルマーケティングのトレンド予測「2017年に注目したい5つのテーマ」
 
その中で「BtoBデジタルマーケティング」「マイクロモーメントと最適化」「動画とコンテンツマネジメント」「ロジスティックスと位置情報」「効果測定・BI・ダッシュボード」を2017年のトレンドとして掲げました。
 
約1年が経ち、今日は2017年のデジタルトレンドを勝手に6大トレンドとして振り返ってみたいと思います。

トレンド1:AI(人工知能)への注目

米国のAIブームの流れを受け、国内でもあらゆるマーケティングツールに「AI内蔵」が謳われるようになりました。「分析はAIがやります」「機会学習で見込み顧客抽出の精度があがります」といったキャッチコピーが溢れています。
 
人工知能(AI)でECサイトのマーケティングオートメーションはどのように変わっていくのか米IBM、AI「ワトソン」無料に アマゾンに対抗
 
また、Google HomeやAmazon Alexaなどのスマートスピーカーが、日本市場で正式に発売され、生活者の家庭にもAIが浸透し始めた、とも言われた年になりました。

声で操作する時代の本命、Amazon Echo登場。拡張するスマートスピーカーGoogle Homeは国内で今週発売、新製品ミニも同時。アシスタントが喋るスマートスピーカー
 

ただ、個人的にはAIによって劇的に業務を変革させた企業やライフスタイルが変わった生活者は、まだほぼいない、という状況で、バズワード化しただけというステージにあると思います。
 
デジタルマーケティングの現場でも、AIが人間の仕事の変わりをしてくれる、という時代になったという話にはなっていません。むしろ「AIが目の前にあるのに、AIを使いこなすための人間の知恵が求められる」という皮肉な状態です。今後のAI活用に注目したいと思います。

トレンド2:透明性やコンプライアンスへの対応

昨年は、医療系サイトWELQにおける「コンテンツの無断転用」や「不正確な記事」が、広告至上主義・検索上位表示至上主義だと大きな問題となり、閉鎖に追い込まれるという事件がありました。また、トヨタ自動車と電通のネット広告取引をめぐる不祥事などもメディアで取り沙汰されました。
 
その流れを受ける形で、今年も不正・透明性・コンプライアンスへの対応に大きな関心が寄せられた年になったと思います。
 
メディアにおいても、アドフラウド(Botなどによる不正な広告クリック、広告詐欺)が国内においても大きな問題であり、その額は大変大きなものである、という調査結果を頻繁に目にしました。
 
広告詐欺大国・日本、インプの81%が該当との調査結果:アドフラウドの国際的状況を示す4つのグラフ
 

こうしたアドフラウドへの対応に向けて、業界全体で対応する・サービスとして不正防止を行うという取り組みが見られ始めました。

adjust、アドフラウドに対峙する不正防止連合結成 Dynalyst、アイモバイル、nendが参加
メディア業界全体の健全化へ アドフラウド対策ツールSpiderAFを導入したアイモバイルの取り組み
 

また、不正確な情報への対応としては、Googleが検索アルゴリズムをアップデートしたことも話題になりました。
 
Google 公式ブログ 医療や健康に関連する検索結果の改善について
 

こうした流れは、SEO対策が「被リンクの数」や「コンテンツ量」から「コンテンツの質」へとますます向かっていくことを示唆しています。

また、国内では5月に改正個人情報保護法が全面施行となり、保有する個人情報が5000件以下の事業者や個人事業主・自治体などにも適用が拡大されました。Webサイトから獲得する個人情報の取扱い方法に関しての規定や業務の見直しを行った企業も多いと思います。さらに、来年5月からEUで施行されるGDRP(EU一般データ保護規則)などへの対応も注目を集めています。
 
改正個人情報保護法、5月30日全面施行。中小のWeb担当者が知っておくべきことまとめGDPR「EU一般データ保護規則」とは?覚えておくべき3つのポイント

トレンド3:DMPの進化・新たなプレーヤーの登場

DMPなんて前からあるし、今頃?と思われるかもしれません。たしかに、DMP(自社のデータを集約する1stパーティDMPではなく、広告セグメントなどに使う外部のデータ)は国内ではAudience Oneとインティメートマージャーの2大DMPが固定化している状況が続いています。ですが、DMPの本格活用という意味ではまだまだ市場の黎明期にあると考えます。
 
その中で、様々なメディアが独自のDMPを積極的に事業化し始めた、という点に注目したいと思います。
 
小学館、独自のデータマーケティング基盤「コトバDMP」を開発
「ぴあ」がプライベートDMPを提供開始へ 音楽・スポーツ・レジャー業界のマーケティングを支援
アイティメディア、「ITmedia DMP」の提供を開始
西日本新聞メディアラボ、クオントとの協業で「西日本新聞DMP」の提供開始
 

こうした動きが、今後データエクスチェンジ市場へと繋がり、事業者が関連性の高いデータを個別に組み合わせるような時代がやってきそうです。
 
また、パブリック(3rdパーティ)DMPとプライベート(1stパーティ)DMPという用語で区別されたDMPが、変わりつつある、というのも重要かもしません。
 
TreasureDataやTealiumなどが中心となって、自社データの統合基盤を「カスタマーデータプラットフォーム(CDP)」と位置付け、外部データ基盤と区別し始めているところも意識しておきたいところです。
 

「DMP」と「プライベートDMP」の違いが分かれば、データ・マネジメント・プラットフォームは格段に理解しやすくなる

カスタマーデータプラットフォーム(Customer Data Platform、CDP)とは?

トレンド4:データを見ることの重要性、BIの浸透

BI(ビジネスインテリジェンス)も昔からあるキーワードです。しかし、今年最も耳にしたキーワードの1つと言っていいと思います。
 
近年のBIは、ビジネスユーザーが自分で使うことのできるBI、いわゆるセルフサービスBIのトレンドが強まっています。一部のデータサイエンティストがDWH内のデータを高度な統計解析の手法を駆使して分析結果を出すのではなく、担当者が自らデータ分析を行えるインターフェースを備えたBIが増えてきている、ということだと思います。
 
また、デジタルマーケティングの領域では、Google Adwordsや各種DSPなどの広告からGoogle Analytics、Eメールツール、FacebookやTwitterなどのSNSまで様々なマーケティングツール内に散在しているデータを見る必要が出てきているのが現状です。そうした背景を受けて、見るべきデータを1箇所に集約したい、というニーズがでてきていることも注目が集まっている理由の1つだと思います。
 
ソリューションの選択肢も増えました。DOMO、Tableau、Datoramaなど優れたインターフェースを持つBIツールの導入が大きく進んでいます。
 
Datorama 成長率5,150%!デロイト・イスラエルのテクノロジーFast50で4位にランクイン
 
サブスクリプション方式の価格体系を Tableau が新しく導入
JAL、ヤフー、リクルートが導入する米ユニコーンが作った優れもの —— データ・プラットフォームの「Domo」とは?

トレンド5:フィンテック、通貨と決済と銀行とAPI

フィンテックという言葉が市民権を得てきた、というのも外せないデジタルのテーマです。
 
特に、閉鎖的な国内の銀行が次々とオープンバンキング、オープンAPIへの取り組みを強化すべく動き始めたことは大きいと思います。
 
三菱UFJフィナンシャル・グループ、“振込”も可能な銀行APIの開放を発表
ついにメガバンクが「更新系API」を提供開始、マネーフォワードが経費精算振込で連携一番乗り
 

こうした銀行APIの取り組みの背景には、銀行法の改正という法的環境の変化があったことも見逃せません。(法案可決は2017年5月、施行は来年の予定)
 
改正銀行法で何が変わる? オープンAPIとFinTechの推進
 

また、通貨という意味では、「ビットコイン」への注目も大きなものとなりました。ブロックチェーン技術を利用したいわゆる暗号通貨は、「バブルであり実態のないもの」という意見と「将来の基軸通貨」という意見まで、専門家の意見も様々です。ただ、ビットコイン価格の上昇や店舗で決済利用開始などが通貨のデジタル化という1つの未来像を提示したことは注目です。
 
現金化、という意味では「キャッシュ」や「メルカリ」による即時現金化サービスも話題となりました。
 
“一瞬で現金に変えられる”うたう質屋アプリ「CASH」登場
より早く、より簡単にお金に変わる”即時買取”サービス「メルカリNOW」開始
 

CASHのサービス開始とともにサーバーダウンが起こり、その数ヶ月後にDMMが買収する、といったニュースがメディアでも大きく取り上げられました。人類史上最速で物を現金化できるようになった時代がやってきた、と考えると非常に大きな変化だと思います。
 
そしてApplePayが国内でも大きな影響力を持ち始めた年であったことも付け加えておきます。ApplePayの開始は昨年の秋ですが、今年になった徐々に利用できるシーンが広がってきたと思います。
 
特に、JapanTaxiWalletに対応したタクシーで「到着前に支払い」は、単に決済がスムーズになるだけでなく、タクシー乗車の顧客体験そのものを変えるほどの素晴らしいUX。是非一度利用してみてください。
 
Yahoo!ショッピングでのApplePay利用も開始され、今後のECでの決済方法が大きく変わる可能性も秘めていると思います。
 
ついに全国のマクドナルドでApple Pay支払いが可能に
JapanTaxiが「全国タクシー」アプリにQR決済「JapanTaxi Wallet」機能を搭載
「Yahoo!ショッピング」アプリがApple Payに対応!Tポイントも利用可能

トレンド6:企業データの活用とABM

BtoBマーケティング領域においては、ABM(アカウントベースドマーケティング)というキーワードがバズワードとなった年にもなりました。
 
まだまだMA(マーケティングオートメーション)への取り組みも本格化していない企業でも、「ABMには関心がある」という声が聞かれ、不思議にも思える状況ではありますが、ABMを実現するソリューションの方は着々と揃いつつある状況です。
 
マーケットワン・ジャパン、東京商工リサーチと連携しABM強化 企業データベース活かし見込み企業を選定
アイティメディア、ランドスケイプと協業~企業DBを活用し、リードジェンの品質向上とABMを実現
ユーザベースがABM支援サービス「FORCAS」を公開、SPEEDAのオプションから単独提供へ
 

様々なBtoB企業が、デジタルマーケティングへの取り組みに際して、「企業データ」を活用してより効率的なマーケティングを行おうとする機運が大きく高まった年であったと思います。

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