取扱い商品数の増加や販売チャネルの増加によって、商品情報の管理はますます複雑になっています。そして多様化する顧客ニーズに対応するために、PIM(プロダクト・インフォメーション・マネジメント)への注目が高まっています。本連載企画「顧客ニーズが多様化する現代の新たな商品情報管理」では、日本でPIMを積極的に導入している企業として、Contentserv社のサービスの特徴や活用法を、前編と後編に分けてご紹介します。前編では事業の特徴や戦略について伺いました。
(話:株式会社Contentserv 代表取締役社長/アジア太平洋地域マネージングディレクター 渡辺 信明 氏)
ヨーロッパを起源とするPIMベンダー、Contentserv
――Contentserv社の創業の経緯や概要、現在目指すものを教えてください。
Contentservは2000年にドイツで創業した会社です。創業初期はヨーロッパを中心に事業を拡大してきました。
Contentservの日本法人は、2017年に設立しています。日本法人の設立前、私はSalesforce上で利用可能なMDM(マスター・データ・マネジメント)ツールなどを開発し、大手企業向けに提供していました。その経験を通じて、より顧客接点に近い商品データ、すなわちマーケティングや販促、営業が必要とする商品情報管理ツールの必要性を感じていました。
MDMの次は必ずPIMの時代が来ると考えた私は、市場調査を開始しました。いくつかのソリューションを検討した結果、Contentservが最も使いやすく、機能的にも魅力的であると確信し、日本での事業を立ち上げることにしました。設立から5年が経過した現在、おかげさまで日本法人はContentservグループにとって最も成長率が高く、極めて重要な役割をに担っています。
日本法人のビジネス概況と戦略
――日本での活動についてお聞かせください。
デジタル変革におけるPIMの認知率や普及において、日本企業が世界に遅れを取っていることは事実ですが、これは私たちにとって大きなビジネス機会でもあります。日本のGDPや市場規模を考慮すれば、潜在的なPIMマーケットが極めて大きいことを意味します。当初は大企業を中心にContentservを採用いただきましたが、導入実績や成功事例が増えたことで、現在では中堅企業も含めてより幅広い企業に利用いただいています。
海外に目を向けると、日本市場の可能性が改めて注目されます。日本は1億2000万人の消費者市場を持つだけでなく、世界第二位のエンタープライズソフトウェア市場でもあります。そして何よりも、グローバルに展開する製造業が非常に多いことが特徴です。例えば、自動車産業をはじめとするエコシステムやバリューチェーンにおいても、これからPIMの重要性が顕在化していくものと予測しています。
PIMというとラグジュアリーブランドやアパレルといったB2C企業でのユースケースを想起しがちですが、日本では半数以上のContentservの顧客がB2B製造業に分類されるのも特徴と言えるでしょう。
――アジア太平洋圏については、どう見ていますか。
Contentservは2023年にシンガポールに拠点を設立し、アジアパシフィック地域におけるPIMの普及にも力を入れています。この地域では、リテール業界の目覚ましい成長が見られ、まさにリテールドリブンな経済圏といえます。背景にはインドネシアをはじめとする国々の人口増加と所得の上昇が大きく関わっています。例えば、インドネシアの人口は2021年時点で約2億7000万人に達しており、マレーシアやフィリピンも同様に人口が増加しています。近年では中間所得層の増加が消費を後押しし、リテール業界の大きな成長と活発なデジタル投資につながっています。
また、シンガポールのように現地法人がアジア地域を統括する拠点となるケースでは、本社とは別にリージョン専用のPIMを構築する「マルチテナントPIMアーキテクチャ」を採用する企業が増えています。これは当社が推進しているグローバル企業へのベストプラクティスでもありますが、地域固有の商習慣やマーケティングニーズに対応するために、本社が保有するグローバルPIMとは別に、リージョナルPIMを地域子会社や販社に配置するという考え方です。もちろんこれら複数のPIMテナントは連携モジュールによって簡単に同期することができます。
そして、これら東南アジアの国々はリープフロッグと呼ばれるように、レガシーシステムの制約を受けずに最先端のテクノロジーを採用することができるため、PIMの活用においても一歩進んでいるケースが多いともいえるでしょう。
――多様な業務領域でPIMによる効率化が求められていますが、その先にはどのような発展がありますか。
日本法人の設立当初、顧客がPIMを導入する主な理由は、属人的なデータ管理やデータの不整合などへの対応でした。これらの問題に対応するため、ワークフロー機能やデータの品質チェック機能などが活用されてきました。そして、ウェブCMSやEコマース、デジタルカタログなどさまざまなチャネルと自動的に連携できるコネクタも広く利用されてきました。
マーケティングや営業部門での利用が定着していくにつれて、コンテンツのパーソナライゼーションに対する要望も多くいただくようになりました。当社では昨年、AIを利用して商品コンテンツをパーソナライズできる機能をリリースしています。コンテンツのパーソナライゼーションは、B2Cに限らずB2Bでの需要も増加しています。例えば、顧客の部門やユースケースに合わせてUSPを最適化したいといったニーズが挙げられます。
そして現在、私たちはDSA(デジタル・シェルフ・アナリティクス)という新しい概念を提案しています。これまでContentservは、最適化された商品情報を必要なチャネルへ届けることにフォーカスしてきましたが、その後のフォローアップ機能は提供していませんでした。これに対してDSAでは、顧客接点での結果を分析し、さらに商品情報を最適化するといったクローズドループを実現することができます。このアプローチにより、自社サイトやマーケットプレースのクロスチャネル分析が可能になり、必要なアクションをContentservプラットフォームから実行できるようになりました。これは、PIMがコンテンツの最適化を通じて売上貢献に直接的に寄与するということです。
特に、リテール業界では広告から購買に至るまでの一貫したプロセスに対するリアルタイム分析ニーズが強く、DSAがこの要望に応えられるものと考えています。すでにMetaやGoogleなどのアドネットワークへの商品フィードの配信から、AmazonやeBayなどのマーケットプレースへの商品掲載、そして売上情報等の取り込みと分析がContentserv上で可能になっています。
文脈に合った顧客体験を支援するPXC
――御社のPXC(プロダクト・エクスペリエンス・クラウド)の説明をお願いします。
PXCは、商品情報管理の「PIM」、デジタル資産管理の「DAM」(デジタル・アセット・マネジメント)、データ連携と分析の「DSA」(デジタル・シェルフ・アナリティクス)を統合したスイート製品で、SaaS型のクラウドサービスとして提供されます。
PXCは、商品に関する各種属性の入力、追加、変更といった管理機能を提供し、商品の画像や動画、マニュアルなどのデジタル資産を商品と紐付けることもできます。これらの商品情報は、Webサイト、Eコマース、デジタルカタログ、代理店ポータルなど、配信先のチャネル特性に合わせて最適化された形式で自動連携されます。そして、実際の顧客の反応を取り込み、さらなるコンテンツの最適化へと繋げていきます。
また、PXCには「Product Experience Hub」という機能も備わっています。これは主にシステム間連携に利用されるモジュールで、標準のAPIに加えてカスタムAPIの作成や複雑なデータ入出力ロジックの構築機能を提供するものです。
このように、PXCを活用することで、営業やマーケティングに必要なすべてのデータを一元管理し、最適なタイミングで文脈的なコンテンツとして顧客接点に届けることができます。さらに「その結果」を分析することで、コンテンツマーケティングやデジタルセールスのPDCAを高速に回すことが可能になるのです。
――グローバルに向けた多言語対応はどのようになっていますか。
Contentservでは、データ言語とユーザーインターフェース言語の多言語対応をサポートしています。商品データについては、ユニコードベースなのでほぼ全言語をサポートしているといって良いでしょう。ユーザーインターフェースについては、日本語、英語、ドイツ語、フランス語、スペイン語に対応しており、中国語(簡体字)の対応を進めています。その他アジア地域の言語では、韓国語への対応も検討しています。
翻訳機能に関しては、TransPerfectやDeepLといった翻訳サービス向けのコネクターを提供しており、連携して利用することができます。