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PIM(プロダクト・インフォメーション・マネジメント)は、販売チャネルの増加や顧客ニーズの多様化に対応するための商品情報管理の新しい手法です。連載企画「顧客ニーズが多様化する現代の新たな商品情報管理」では、PIMが提供する最先端の機能や、具体的な導入事例について各ベンダーからお話しを伺います。今回はそのイントロ編として、従来の基幹システムとの違いや商品情報管理における主な課題、それを克服するためのPIMについて紹介します。
 
なお本稿は、PIM製品を提供する株式会社Contentservの代表取締役社長兼アジア太平洋地域マネージングディレクターである渡辺信明氏への取材をもとに作成しました。
 

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MDM(マスター・データ・マネジメント)とPIM(プロダクト・インフォメーション・マネジメント)

基幹システムにおける商品情報管理:MDMの役割

販売管理や物流管理といったバックエンドオペレーションには、寸法、重さ、価格、材料などの商品スペックデータが不可欠です。これらの商品データを管理する手法として、従来はMDMが企業の基幹システムで利用されてきました。
 
しかし、MDMはバックエンド業務で扱う基本データを社内システムの観点で統合し、データ品質を維持するためのシステムです。マーケティングやEコマースに必要な属性情報や、画像や動画といったデジタルアセットは管理できないため、現在の多様化する販売チャネルに適応するには不十分です。このように、デジタル化が進んだ顧客接点が求めるデータ要件と、従来型MDMが提供できるケイパビリティの間には大きな溝が発生し、そのギャップを埋めるためにたくさんの手作業と非効率なオペレーションが発生しています。
 

顧客体験を豊かにするための情報を管理するPIM

PIMは、MDMで扱われる基本的な商品データに加えて、顧客体験を高めるためのより幅広いデータを管理するのが特徴です。顧客の属性や嗜好に応じたレコメンド情報や販促文、画像、動画などのデジタルアセットを管理することが可能です。
 
PIMは、BtoBやBtoCを問わず幅広い業種・業態で利用可能で、顧客エンゲージメントを目的としたSoE(システム・オブ・エンゲージメント)と、企業の基幹業務を目的としたSoR(システム・オブ・レコード)の間のギャップを埋める役割を果たします。そのため、販売チャネルに展開するための商品コンテンツ制作や配信プロセスが、これまでの手作業から自動化されます。PIMの導入により、マーケターや営業スタッフが、WebサイトやERPなどに散在する商品データを個々の知識をもとに加工する作業から解放されるのです。
 
さらに今日では、顧客は自分向けにパーソナライズされた商品コンテンツを求めています。このニーズに応えるために、人工知能(AI)が重要な役割を果たしています。AIを活用することで、商品のプロモーションコンテンツを顧客の属性に応じて最適化したり、適切なクロスセル・アップセルの提案が可能になりました。顧客の属性に最適化されたこれらの商品コンテンツは、顧客体験の向上に貢献し、販売促進につながります。
 
顧客ニーズの多様化に迅速かつ効果的に対応し、企業の生産性を向上させるためには、商品情報を効率的に管理するPIMのようなシステムが非常に重要です。日本においても、PIMの認知度は高まりつつありますが、まだまだ大きな潜在需要があり、市場の成熟と技術の普及に強い期待が寄せられています。

PIMが必要とされる時代背景

「作れば売れる」時代の終焉

かつては、「メイド・イン・ジャパン」が高品質の象徴とされ、日本製品はそのスペック、品質、機能性で選ばれてきました。しかし、海外メーカーの台頭や消費者ニーズの多様化により、日本メーカーにとって製品の機能的な差別化を図ることは以前よりもずっと難しくなりました。まさに、「作れば売れる」時代が終わったのです。
 
この変化に対応するため、企業は「つくる側の思いだけでは売れない」という認識を持ち、顧客の意図をくみとったマーケティングに注力するようになりました。まず、自社の顧客を明確にするために、CRM(カスタマー・リレーションシップ・マネジメント)の導入に踏み切り、ここ20年近くに渡って投資が続けられてきました。CRMの導入により、部門や販売チャネルを横断して顧客情報の共有が進みました。CRM導入の結果として、顧客データがあらゆる局面で可視化されるようになり、オムニチャネルマーケティングも現実的になりました。一方で、自部門の商品を他部門の顧客にクロスセルするなどのニーズに、CRMのみでは応えることができません。そこでPIMの活用が期待されているのです。
 

商品数の増加による情報管理の負担

現在、多くの企業では商品データが部門ごとに分散管理されており、部門間の情報共有が十分に行われていません。商品の種類や数だけでなく、販売チャネルも増え続けており、特にEコマースの発展に伴い、消費者の多様な需要を捉える「ロングテール」戦略を採用する企業が増えています。ロングテールでの販売を活性化させるためには、例えばファッション商品の場合、色やサイズなどのバリエーション、すなわちSKU(ストック・キーピング・ユニット)を増やす必要があります。結果として、SKUの数は膨大になり、ファイルサーバーやスプレッドシートを使った従来の管理方法では既に限界に近づいています。
 
販売チャネルの面でも、オンラインとオフライン、国内から海外へとチャネル数が増加しています。近年では、メーカーから直接消費者へ販売するDtoC(ダイレクト・ツー・コンシューマー)という形態も増えています。こうした販売チャネルの増加も、従来型の手法では商品情報管理が追いつかない要因のひとつです。
 

人の介在や物理的な商品管理が限界に

社会的な要素として、パンデミックの影響も見逃せません。特にBtoBの現場では、これまで顧客とのコミュニケーションに営業などの人が介在することで、商品情報のキュレーションや伝達を行ってきました。しかし、パンデミックの発生以降、顧客接点のデジタル化が一気に進んだ結果、デジタル・タッチポイントですぐに利用できる、”Ditigal-ready”な商品情報が求められるようになっています。
 
また、在宅勤務が増えた結果、商品情報に関する社内コミュニケーションにも混乱が生じました。このため商品在庫を確保しても、販売するための商品情報が準備できておらず、「商品が売れない」という状況が発生しました。商品データが存在しても、それが会社のファイルサーバーや社員のパソコンに分散していては、お客様のもとに届けることができないという問題が明らかになったのです。

商品情報管理において企業が抱える4つの課題

課題①:ブランドイメージの毀損

商品情報管理における主な課題は、正確な情報が顧客に届かないことです。販売チャネル間で異なる情報が提供されたり、利用されている商品画像のバージョンが異なるといったことは多々あります。例えば、ソーシャルメディアとオンラインストアで使用されるコンテンツや画像が異なるといった状況が起こります。このような状況で、顧客が誤った画像に基づき商品を購入し、期待と異なるものが届いてしまうと、クレームが増えたり、返品率の上昇につながります。
 

課題②:内部統制の欠如

コンテンツ・トレーサビリティも重要な課題の一つです。商品情報には、未公開の新商品情報や技術に関する機密情報など、厳格な管理が必要な情報もあります。そのため、情報へのアクセス制御や、誰がいつ編集し、どのチャネルで利用されているのかといった履歴を残すことが、データガバナンスの観点から求められています。
 

課題③:商品マーケットインの遅れ

商品をいかに迅速に市場に投入するかという「タイム・トゥ・マーケット」の重要性が高まっています。顧客は通常、商品に関する情報を収集し、理解した上で購買行動に移ります。そのため、商品だけでなく関連する商品コンテンツは先んじて市場に提供することが求められます。しかし、物流としてのサプライチェーンが効率化されてもコンテンツのサプライチェーンが未整備な状況では、販売機会の損失につながることが報告されています。
 

課題④:パーソナライゼーションの必要性

商品情報のパーソナライゼーションの重要性が増しています。
 
「このTシャツを購入した方はこんなパンツも購入しています」というアイテムレベルのレコメンデーションが一般的になる一方で、商品をクリックした際に表示される商品情報は、未だ長さ・重さ・価格といった基本的な商品仕様と地味な写真の掲載にとどまりがちです。顧客の嗜好やプロフィールに応じて、適切なコンテンツを提供することが求められます。たとえば、ライフスタイルや価値観が異なる沖縄の40代男性と北海道の20代男性で、商品詳細ページでの背景画像や他のファッションアイテムとの組み合わせを調整することで、購買体験は劇的に向上します。
 
また、BtoBの世界でも、オンラインでの商品情報の提供は重要性を増しています。BtoB企業の場合、顧客企業のビジネスモデルや部門、ユースケースに応じて最適な商品コンテンツを提供することで、リードの創出や成約率の向上に効果が見込めます。
 

AIの活用で、PIMも大きく進化

生成AIの活用により、顧客のペルソナやプロフィールに基づくコンテンツのパーソナライゼーションが可能になりました。多様化する顧客のニーズに対して、適切な商品コンテンツ体験を提供することが、顧客満足度向上の重要な鍵となるでしょう。

DPP導入で先行するEU、商品情報管理に求められる変化

商品情報の管理と公開への要求

商品データは元々、販売、出荷、請求、そして会計処理に必要な基本情報を対象としていました。しかし、顧客のニーズが多様化し、商品のカスタマイズやバリエーションが増加するにつれ、商品データの属性も増加しています。このようなデータ属性の増加に対応して、EUではDPP(デジタル・プロダクト・パスポート)法が制定されました。DPPは、商品の環境負荷や資源の循環に関わるデータを含むデータパッケージで、EU内外のサプライチェーン全体にわたって適用されます。商品に付与されたバーコードなどからアクセスできるこのシステムは、持続可能性に対する透明性を高めることを目的としています。
 

ESG経営への対応

環境負荷に関する商品データは、企業ガバナンス、コンプライアンス、ESG経営、国連のSDGs活動に密接に関連しており、再生可能な原材料の使用率や温室効果ガス排出量などの環境属性は、社会的な要請や消費者の視点からも強く求められています。日本でも顧客のニーズやチャネルの多様化を受けて、内閣府は2023年1月から環境保護に寄与する日本版DPP創設の検討を始めています。今後、国内でもEUのような情報管理が求められるようになると想定されます。以上のような背景から、PIMの需要はますます高まるでしょう。

まとめ

迅速な情報提供を実現するためには、マニュアル作業をできるだけ排除し、コンテンツ制作の自動化を促進する商品情報管理基盤が必要になります。そして、さらなる顧客体験の向上を目指すには、商品の基本情報に加えて、顧客の属性や感情に寄り添ったコンテンツの提供が求められます。
 
このような時代のニーズに対応するためのシステムとして、PIMへの期待が高まっています。DMJでは、PIMベンダーの意見を直接聞き、その特徴や戦略を紹介し、今後のPIMの動向や企業のマーケティングにどう活かせばよいかの指針を明らかにしてまいります。
 
 

解説者

株式会社Contentserv 代表取締役社長
渡辺 信明 氏
 
国内SI企業、外資系ソフトウェア企業を経て、2005年にベンチャー企業の創業に参画。ソフトウェア事業を統括し、株式上場を果たす。2017年に株式会社Contentservを設立し、代表取締役に就任。Contentserv日本・アジアパシフィック地域を統括する。 
 
「商品情報は顧客接点のラストワンマイルです。商品情報管理を制する者が、マーケティングを制すると言っても過言ではありません。私たちContentservは、全く新しい文脈的な商品情報管理手法によって、お客様のデジタル変革を支援します。」