ユーザーを集め続けるオウンドメディアとは?
企業のブランディングやマーケティングにおいて、高い自由度で情報を発信して独自のユーザー接点となるオウンドメディアの価値は、企業にとってますます高くなっています。例えば、採用を目的としたオウンドメディアでは、人材獲得競争が激しい状況の中、競合との差別化やロイヤリティを確保するための手段として人気があります。
こういった背景により、オウンドメディアを始めたり、オウンドメディア運用のテコ入れを考えたりする企業が増えています。しかし、一方で、オウンドメディアを育てようとしても、なかなかユーザーを集めることができずにメディアを休止してしまったり、かける手間に見合った成果が出ずに運用が先細りになってしまうケースも増えています。
実は、オウンドメディアでユーザーを集め続けるには『基礎体力』が欠かせないのですが、オウンドメディアにユーザーを思うように集められないのは、この『基礎体力』不足に起因すると考えています。今回は、意外と運用担当者に知られてない、オウンドメディアにおける『基礎体力』というものを運用実務者の視点から解説していきます。
メディアサイト運用の基礎体力 -SEO, UX, そしてSNS-
SEOやUXの改善、SNSの活用は、オウンドメディアを運営する上での前提条件であり、すなわち『基礎体力』と考えてよいでしょう。もちろん、テーマ設定やコンテンツ作成、KPIの設定運用も重要ですが、あくまで『基礎体力』の素地の上に備えるもの、と考えると理解しやすいのではないでしょうか。
前述のとおり、『基礎体力』は1.SEO、2.UX、3.SNSの3つの項目から成り立ちます。
1.SEO
オウンドメディアからどんなに良いコンテンツや情報を発信しても、ユーザーに気づかれなかったり、メッセージが届かなければ存在しないと同じです。サーチエンジンからユーザーを多く集めるという意味でSEOは欠かせない『基礎体力』です。
しかしTitleの設定やコンテンツ構成に比べれば、他のSEO対策は地道ですぐには成果が見えません。そのため、疎かになりがちです。オウンドメディアの運用者にとってはSEO対策は『当たり前でしょ』と過信せずに我が身を振り返ってみてください。
SEOは施策が多岐にわたるため、効果が大きいと言われる施策から着手することをおすすめします。 まずはコンテンツのTitleやサマリー、本文、結論という基本的なコンテンツ構成を行うことがスタート。次に、Descriptions, meta keywordなどメタデータをもれなく設定していきます。 こうした基本事項が整った上で、ファイル名のルールを定めてアルファベットで端的につけたり、alt記述をきちんと行う、正規のURLリンク記述、rel属性の設定といった細かな細部の積み重ねていきます。
SEOで行う作業対象は多岐にわたりますが、サーチエンジンのシステムにとってわかりやすい=ユーザーにとってわかりやすくするための設定と考えれば一貫性を保つことができます。
CMSを使っていれば基本的なSEOを行うことができますが、それでもオウンドメディアの規模が大きくなってくると、コンテンツごとに個別の設定を手動で行うのは大変です。折を見てシステム化やアウトソーシングで効率化を行う必要があるでしょう。
実務的にはGoogle Search Consoleを常にチェックして、提示されるポイントを解決していくことが、地道ですが確実な対応方法となります。
・サイトカバレッジ(コンテンツがきちんとサーチエンジンに認識されているか?)
・モバイルユーザビリティ(モバイルでも見やすいか?)
・構造化データ(コンテンツの要素をきちんとサーチエンジンに伝えられているか?)
2.UX
ここでは「ユーザーがそのWebサイト(オウンドメディアサイト)を使いやすいと感じること」を良いUXとします。良いUXを満たすためには、コンテンツが分かりやすいことももちろん重要ですが、サイトがすばやく表示されたり、スマートフォンやタブレットなど、様々なデバイスから使いやすいサイトにするのも大切です。
良いUXのオウンドメディアは、ユーザーに使われやすいだけではなく、サーチエンジンからも高い評価を得るので、結果的に多くのユーザーを獲得することに繋がります。
コンテンツの表示スピード向上は、ある程度オウンドメディアのシステム設計段階から作り込む必要があります。CDNを設定して適切にコンテンツをキャッシュさせる、NGINXを利用してリクエスト対応力を上げたり負荷分散を行うといった対応が一般的でしょう。
また、ほとんどのオウンドメディアはAMPに対応したほうが有利です。ユーザーの多くがモバイルデバイスを使っているため、ユーザーが使いやすい表示形式を提供することは、多くのユーザー獲得に役立ちます。実務としてのAMP対応はCMSの機能やプラグインを使うのが最も手軽ですが、AMP用の画像設定やJavaScript対応など細かな設定も必要となります。
他にもUXを満たす意味では、セキュリティやサイトへの安定的なアクセスが可能なことも見逃せません。 これらは、あまりUXとして認識されませんが、ユーザーが安心して使えるということは、ユーザーの使いやすさの大前提です。
WebサイトへのHTTPS接続は、サーチエンジンの評価にかかわるためすでに広く対応されていますが、今後も当たり前の対応として求められていくでしょう。オウンドメディア構築時から対応するのが望ましいですし、まだ未対応な場合は早急に適用することをおすすめします。
また、安定したサイトアクセスを保つためには、CDNの利用やリソース対応ルールの設定、インシデント対応ルールなどがあります。これら対応は重要な割に発生頻度が少ないため、クラウドサービスのサーバレス・アーキテクチャで自動対応にしてしまうことが可能です。
オウンドメディアの運用フェーズに入ってからは、GoogleのPageSpeed Insightsによる評価と対応をおすすめします。オウンドメディアの課題と実施するべき対応をわかりやすく提示してくれるため、運用開始後のパフォーマンス改善を手助けしてくれます。
データキャッシュの調整やテキスト/画像の圧縮、JavaScriptペイロードサイズの調整といった調整は、一度きちんと設定すれば継続的に効果を発揮します。但し、PageSpeed Insights評価項目や対象は随時アップデートされていますので、定期的にチェックして対応するべきでしょう。
3.SNS
SNSへのコンテンツ投稿やキャンペーンの実施、メールを交えたフォロワーへの情報発信はユーザーとのタッチポイントを増やすことになり、新規ユーザーの獲得と継続的にアクセスしてもらうための大きな力となります。
フォロワーやファンを獲得することができれば、継続的なユーザー流入を期待できますし、ユーザーに対してアプローチする施策の幅も広がります。 SNSは、きちんと活用するにはそれなりの手間が必要ですし、運用していく中での炎上リスクもあるため、実施を見送られるケースもあるでしょう。しかし、オウンドメディアを運用する上では、SNSはぜひ活用したい手段です。SNS運用をある程度システム化し、コミュニケーションポリシーやルールを定め、それがきちんと守られれば、運用負荷やリスクを下げる事が可能でしょう。
オウンドメディアの基礎体力を鍛えること、維持することは、メディアコンテンツ作成とは別のスキルが求められます。自社のみでの運用が難しい場合には、外部サポートサービスやコンサルティングを活用することが効率的でしょう。
基礎体力を身に着けた後、気をつけるべきポイント
基礎体力となるSEOやUX、SNS活用ができるようになれば、以下のようなオウンドメディア運用のより大きな課題に取り組むべきでしょう。課題を解決し続けることで、オウンドメディアの成果となる、多くのユーザーを獲得し続けることが達成できます。
ユーザーの関心と自社が伝えたいことのバランスを取る
ユーザーの関心と自社が伝えたいことのバランスを保ち続けることは、オウンドメディア運用の永遠のテーマです。ほとんどの場合、ユーザーの関心は自社のブランドやサービス以外のところにあります。そもそもオウンドメディアの価値は、これまで自社ブランドやサービスに関心がなかったユーザーとのタッチポイントになることですから。
そこでオウンドメディアを運営し続けるためにも、自社のサービスやブランドをアピールしたい気持ちをぐっとこらえて、ユーザーの関心を集めるコンテンツを発信する必要があります。自社のブランドやサービスの周りにある、ユーザーの関心があるテーマを設定することで、より多くのユーザーと、より適切な距離感での接点を保つことができるでしょう。
コンテンツ発信を途切れさせない
オウンドメディアでありがちなのは、コンテンツ配信が途切れてしまうことでユーザーとのタッチポイントを失う悪循環に陥ることです。特に、メディア立ち上げのフェーズでは、なかなかユーザーの反応が得られないことがほとんどのため、気持ち的にもコンテンツ配信を続けるのはとても難しいものです。
しかし、メディア運用において情報発信の量はそのまま力となります。根気よく情報発信を続けることで、思わぬところからヒットコンテンツが生まれたり、メディアの基礎体力となるサーチエンジンからの自然流入の経路を蓄えることができます。オウンドメディアも継続は力なり、なのです。
オウンドメディア運用でつまずかないために
オウンドメディア運用のためには、『基礎体力』であるSEO、UX、SNSへの対応が不可欠と述べてきました。それだけでなく、オウンドメディア運用者は、常に新しいテクノロジーを取り入れたり、頻繁な仕様変更に対応することを求められます。運用者の負荷は決して軽くありません。
しかしながら、オウンドメディアは自由度高く情報を発信できる、優れたブランディングやマーケティングの手段であり、オウンドメディアで成果をあげられれば、運用者の負荷に対する見返りとしては十二分なものとなります。
オウンドメディア運用で少しくじけたり、つまずいた時は、オウンドメディア立ち上げ時の初心を思い出し、まずは『基礎体力』を付けることに立ち返ってみるとよいかもしれません。