この記事は[2019/07/29]に公開した記事を[2023/01/23]に加筆編集しております。
ここ数十年で旅行業界のデジタル化が大きく進み、旅行スタイルに大きな変化をもたらしている。筆者自身も15年の間に50カ国以上を旅してきている中で、旅行中(旅行前中後)ではその変化に気づかなかった。
しかし、今旅行スタイルを振り返ってみると旅の仕方が大きく変わった。今回は筆者の経験から考える観光産業の未来を考察していきたいと思う。
1. 旅行がデジタル化する前
〜世界一周の話から感じたこと〜
以前、デジタル化する前に世界一周をした人の話を聞く機会があり、衝撃を覚えた事がある。 その内容は次のとおりだ。
いかがだろうか?手書きのノートからの情報収集など、今では想像も出来ない人もいるかも知れない。 この話からも当たり前だと思っていた現在の旅行スタイルは実はデジタル化の影響を大きく受け、誰もが旅行しやすい時代になったと実感した。ハードルが高かった世界一周旅行も今では誰もが少しの勇気を出せば簡単にできる時代と言えるだろう。
ここからは少々、『デジタル化する前の普通の旅行』として旅の一連の流れを考えてみたい。まずは旅行準備から旅行後に想定される旅行者の行動を整理してみよう。デジタル化前の時代に旅をしたことがあれば経験したことがある行動ではないかと思う。
・旅行が始まる前の「旅行の準備」
旅行者の行動から見られる通り、旅行の準備で中心的存在となるのが旅行業界やホテル業界であった。旅行者が自ら情報を得る手段が少なかったため、旅行会社に問い合わせ比較を行ったり、ガイドブックで情報収集し、事前にしっかりとスケジュールを組み立てる必要があった。
・旅行が始まった「旅行中」
旅行中は事前に決めたスケジュールまたツアーに則り行動する。もし事前にスケジュールを立てていない場合は、事前情報がないため、その土地に着いてから現地の人に聞くなどして情報を集めたり、行き当たりばったりに観光先などを探す必要があった。
・旅行が終わった「旅行後」
友人、家族と対面の会話の中で写真や旅行話を共有し、旅行の余韻に浸ることが楽しみであった。
2. デジタル化により大きく変わった旅行スタイル
JTB総合研究所で実施した「新しい技術やサービスの広がりとライフスタイルに関する調査」の調査結果でも3年と比べ ても大きく変わったことがわかる。情報収集の場面で一番増えたのは「旅行中に現地の情報を検索する」(40.5%)、予約や購入の場面では「スマホで予約する」(33.2%) 、「インターネットで旅行商品を買う」(28.9%)とデジタルに多く依存している。一番興味深いのは旅行形態で「宿泊施設と交通手段を別々に自分で購入していく旅行」(24.0%)で、個人で自由に動く旅行が増えている。
デジタル化後の旅行スタイル
数十年前には想像もできなかった多くのデジタルツールが生まれ、快適に旅行ができるようになった。
・旅行が始まる前の「旅行の準備」
オンライントラベルエージェント(OAT)と呼ばれる実店舗を持たずにインターネット上だけで旅行商品の取引が完結する旅行会社の台頭で、個人での価格比較と旅行手配が容易になった。日本では楽天(楽天トラベル)、じゃらん.net、一休、外資ではExpedia、booking.comなどは周知のサービスだろう。また、複数販売サイトが提供する旅行商品をオンライン上で横軸で比較できるメタサーチと呼ばれるサイトも大きな存在感がある。Skyscanner、Trip adviserなどがそれにあたる。
・旅行が始まった「旅行中」
Uber,Lyftなどのシェアリングエコノミーの登場で、旅行先の言葉が話せなくても気軽に移動ができるようになった。また、現地ツアーやアクティビティを予約できるサイトも増えてきているので自由に旅行をアレンジする幅が広がった。
・旅行が終わった「旅行後」
Facebook、InstagramなどのSNSを通してリアルタイムに旅行の共有や個人ブログを通した情報発信をすることで、次の旅行の準備をする人への情報の重要なインプットとなっている。
ここで上記に出てきたいくつかの旅行周りのデジタルツールについて簡単にご紹介しよう。
・Expedia:世界最大級の総合旅行サイトと言われており、日本国内外の多くのホテルを取扱い、豊富な航空券とホテルを自由に組み合わせて予約が可能。航空券とホテルを組み合わせて予約することで割引となることがある。
・Booking.com:ホテル・旅館などの宿泊施設予約サイト。宿泊日、人数、条件を入力することで最適な宿泊情報を表示してくれる。利用数が多くなるほど、アカウントのグレードがあがり、予約時の割引率が高くなるため、普通に予約するより割安になる。
・Skyscanner:航空券・ホテル・レンタカーの比較検索サイト。世界の航空券・旅行会社・ホテルのサイトから集めた情報を横断比較でき、いろんなウェブサイトを検索して情報を探しに行く必要がありません。 Tripadviser:世界最大級の口コミコミュニティサイト。ホテルやレストランなど旅行に関する口コミや価格比較をみることできる。
3. 観光ビジネス提供企業の今後
各種デジタルツールは現在の旅行者にとって切っても切り離せない存在となっている。ここ数年の観光産業は変化のスピードも早く、新たなサービスを生み出すスタートアップ企業も増えている。この激戦の中で生きていくためには、常に先の変化を見据えてサービス形態を変化し、成長していくことが必須になるだろう。
・「旅行の準備」から「旅行後」の段階で1社での幅広いカバーまたはビジネス連携の強化
実際、大手OTAが売上をさらに上げるために次の市場へ参入している。ツアーや食事などを含めた「体験」である。Booking Holdings Incは2014年にOpenTableを買収し、TripAdvisorも同時期にツアーのマーケットプレース「Viator」とレストラン予約「mytable」と「restopolis」を買収している。また民泊サービスのAirbnbもAirbnb Experiencesという宿泊地域でのツアーやエンタテイメント、スポーツ観戦などを購買できるサイトを展開し始めている。(https://wisdom.nec.com/ja/business/2019012901/index.htmlより)
・ 個人旅行化している旅行者に最適なタイミングで最適な情報を提供するリアルタイム施策の実施
類似したサービスを提供しているデジタルツールが多い中、一歩抜き出るためには少しでも多くユーザーとの接点を持つことが重要になる。それは多岐に渡るユーザー行動を可能な限り蓄積・統合し、ユーザー行動を分析し、最適なタイミングで最適な情報を与えることである。具体的な施策や考え方についてはまた別の機会で詳しくお話したいと思う。
4. 最後に
今回は旅行者の目線でデジタルが我々の旅行スタイルにどのような影響・変化をもたらしてきたか考察してみた。今後も大きな変化を遂げていく分野なので、旅行好きの筆者としては今後5年、10年でどのような旅行スタイルにまた変わっていくのが非常に楽しみである。次回は、企業としてどのようにこの変化の早い市場で勝ち抜いていくべきか、という視点で対応できる施策をより詳しくお話したいと思う。