アンダーワークスの笹栗です。2023年9月12日〜9月14日の3日間に渡り、アメリカのサンフランシスコで、Salesforceが主催する世界最大級のテクノロジーカンファレンス ”Dreamforce 2023” が開催されました。今回は参加レポートの中編をお伝えします。まだ前編を読んでいない方は、ぜひ前編も併せてご覧ください。
 
今回のDreamforce2023では、基調講演やパネルディスカッション、体験型のワークショップなど、1,500以上のライブセッションが大きく4つのテーマ(Data + AI + CRM + Trust)に分けて行われました。Salesforce製品の新機能の発表をはじめとし、製品を活用した事例や今後のマーケティングトレンド等、マーケターにとって最新の情報が得られる貴重な機会でした。その中でも今回はデータとAIを活用したTableauの今後の展望についてご紹介していきたいと思います。
 
<Tableau Keynoteの様子>

Tableau AIのリリース発表

イベント初日のTableau Keynoteでは、Tableauの新機能であるTableau AIのリリースが発表されました。このEinstein 1 Tableauは「Tableau Pulse」と「Einstein Copilot for Tableau」の2種類のサービスで構成されており2023年の冬から順次利用可能となる予定です。
 
Einsteinとはご存知の通り、Salesforceの各製品に統合されているAIの名称ですね。
 
既存のTableauを取り扱うにはBIの活用スキルやデータ処理等に関する一定の知見が必要とされており、主にデータ分析を生業とする人々の業務となっていましたが、Salesforce社としては今回のアップデートを通じて職種・部署・業種等を問わず様々なユーザーがデータを理解し、データに基づいた意思決定が行えるような環境を整えるのが狙いのようです。

Tableau Pulseとは?

Tableauを利用する目的はダッシュボードを作成することでもただ闇雲にデータを可視化することでもありません。最終的な目的は必要なデータをダッシュボードに統合・可視化し、そこからビジネス上重要な示唆を出し、データに基づいた意思決定を行うことです。
 
上記目的を達成するため発表されたTableau Pulseは、生成AIを使用して非データアナリストでも容易にデータ分析を行うことを可能にするTableauの新機能です。
 
Tableau Pulseでは最初にまず自身に関連する指標(支社別の売上や販売在庫数等)をホーム画面に設定することが出来ます。そこから売上の急激な伸び等のデータにおけるトレンドや外れ値がTableau Pulseによって検出されると、設定者にその旨の通知がSlack等で飛ばされます。通知からホーム画面へ飛ぶと通知内容を可視化したグラフやAIによる示唆が自動生成されるため、マーケターはそこからトレンドや外れ値の要因を把握することが出来ます。また、自然言語入力やAIによる提案によって自身の目的に応じた要因の深掘り分析も可能です。
 
講演者のFrancois Ajenstat氏曰く今後はGoogle検索のように簡単にデータを取り扱うことができるようになるとのことです。
 
<Tableau Pulseデモの様子> 

Tableau Pulseでは自身に関係のある指標・数値に変化が検出された際に通知を送るよう設定することができます。
 
デモではセールスマネージャーとして「端末の売上」「地域別の収入」「施策のROI」に関する変化を通知するように設定していました。今回はその中でも「端末の売上」に異常な伸びがあったためSlackに通知が来ていました。通知からホーム画面へ飛ぶと売上の変化率やAIが導き出した示唆が自動的に画面上に表示されます。
 
更にそこからデータを深掘りしたい際にはAIが自動的にいくつかの要素を提案してくれるので、提案内容を選択すると内容に応じたグラフが自動生成されます。もしくは上部の検索窓に深掘りしたい要素を自然言語で入力すると、内容を読み取ったAIが自動的に必要なグラフを生成してくれるという仕様です。
 
もちろんこれらの結果はSalesforceへダッシュボードとして連携したり、メール等によって共有したりすることができるため、組織内でデータを基に素早くPDCAを回すことが可能です。

Einstein Copilot for Tableauとは?

Tableauに組み込まれた生成AI搭載の対話型アシスタント機能で、面倒なカスタマイズ無しですぐに使用することが出来ます。従来Tableauでグラフを生成するには列と行に必要なディメンションと指標を挿入し、グラフの種類を選択する必要がありました。また、場合によってはTableau上でデータの再加工も必要であり、操作が複雑で初心者には扱いにくいものでした。
 
しかし、今回発表されたEinstein Copilot for Tableauを使用すればそれらの操作を簡略化することが出来ます。
 
分析したい内容を生成AIに対して自然言語で入力すると、AIが内容を読み取り必要なディメンションと指標をデータから選択し、グラフを自動生成してくれます。そのためTableauの操作に不慣れなユーザーでも、AIに対して適切な指示を与えることができれば必要なグラフを自動生成できるようになります。
 
<Einstein Copilot for Tableauデモの様子>

デモではTableau PrepとTableauそれぞれでの挙動が紹介されました。
 
Tableau Prepではデータを加工する際の関数の書き方をAIに質問したところ、実際のデータを基にした結果が即座に返ってきました。顧客のメールアドレスと郵便番号が同じ列内のデータとして一緒になってしまっているため、それらを別々の列として分割するための関数(正規表現)です。
 
簡単なデータの加工処理であれば生成AIを使用することで知識がなくとも実施することができるようになるのが驚きでした。
 

Tableauでは右側のAIアシスタントに自然言語を投げかけることで必要なグラフを生成することができました。内容としては「3ヶ月以内にスポーツ用品を購入した顧客の住所を郵便番号別で表示し、且つ店舗からの距離も表示したい」といったものになります。
 
本来であればTableauの基本操作に加えマップグラフへの理解も必要とされますが、生成AIを使用することでいずれの知識も不要となります。且つ5秒ほどでグラフを生成することができていたので普通に作業するより遥かにスピーディです。
 
日常的にTableauを使用する身としては、AIの成長に只々驚くと同時に現在の業務の在り方を考えさせられ焦りを覚えずにはいられませんでした。これらの機能によってTableauを利用するためのハードルが大幅に下がり、より多くのマーケターへデータ分析への門戸が広げられたように思います。現在は「マーケター」と「データアナリスト」はそれぞれ独立していてマーケターが必要な事項の分析・可視化をデータアナリストに依頼している、ということが多いかと思いますが、今後は一人で一貫して対応可能な「マーケター+データアナリスト」といった役割が増えてくるのではないでしょうか。

最後に

ここまで書いてきたように、今後のデータ分析におけるトレンドはAIの利活用にシフトしていくかと思われます。AIを活用することにより、非データアナリストでも能動的にデータを分析し、その結果に基づいた意思決定が行えるようになるでしょう。また、それらに伴ってTableauを始めとするBIツールは今後「誰でも使えることが当たり前」になることが予見されるため、これらに関連する業務の在り方も今後は変わっていくことかと思われます。
 
最後になりますが、AIは便利で業務効率化に有効な反面、使用する上では適切なプロンプトの記述を要したり、回答の正当性の確認がまだまだ必要であったりと使用にあたり一定の課題感が残るのも事実です。今後はAIを適切にコントロールするスキル・ノウハウを身に着けたマーケターがより重宝されていくのではないでしょうか。
 
AIとの共存を目指していく上では、それらのスキルを身に着けていることが次世代のマーケターとして求められることかもしれません。

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