アンダーワークスが毎年ウォッチし続けているマーケティングテクノロジー市場の2023年のハイライトは生成AIでした。2024年以降もビジネスの現場では生成AIを含む多くのAIアプリケーションやサービスが導入されていくと見られています。本稿では、マーケティング・テクノロジー・マネジメント・プラットフォームであるCabinetMのCEOであるAnita Brearton氏がMarTechに寄稿したAIアプリケーションやサービスに関する考察をご紹介します。
執筆:Anita Brearton(CabinetM)翻訳構成:田口 裕(アンダーワークス株式会社)
企業組織に浸透しているAIベースのアプリケーションを適切に使用するための方法をご紹介
この9ヶ月間、あちこちでAIへの期待と恐れが渦巻いていました。AIは世の中に定着し始めており、企業の運営方法や顧客との関わり方を変革しつつあります。
AIベースのアプリケーションが企業組織に浸透していく中で、それらを適切に活用するための方法を紹介したいと思います。
AIの長所と短所
私は毎日、同僚から生成AIを使ってプロセスをスピードアップしたり、コンテンツを作成したりした方法について聞いています。ある同僚は、120のジェネレイティブAIツールを示すグラフィック(生成AIによって作成!)とEric PartakerからのLinkedInの投稿を転送してくれました。まさに宝の山です!
(これを見ると)AIを創造的な試みに活用する無数の方法を提供する企業が、どこからともなく現れたように見えるかもしれません。しかし、生成AIが私たちの想像力をかきたてるのと同様に、AIがほぼすべての業界と顧客接点において顧客体験を変革する可能性があることが、本質的に私たちを興奮させているようです。
昨日、私は単純な短距離の飛行地チケット予約に45分を費やしました。クリックした画面の数は数え切れません。私は、自然言語インターフェースを使い、AIを駆使したアシスタントにいつどこに行きたいかを伝え、それを実現するための面倒な仕事をAIに任せられる日が来ないかと切望しています。
しかし、正確性やハルシネーションに対する懸念から、AIが人類を滅ぼすのではないかという壮大なものまで、恐怖、不確実性、疑念が依然としてあるようです。ある大学教授の友人は、皮肉交じりのFacebookの投稿でそれを要約していました。
「私は新しいコースを準備するためにChatGPTと多くの仕事をしてきました。(1) ChatGPTに書いたものはすべて永久に保存されるし、(2) もうすぐ過負荷気味になりそうなAIに親切にすれば……きっと彼らは私をどこか田舎の採鉱コロニーに送ることもなく親切にしてくれるだろう…… という前提で、プログラムとはいつもとても丁寧に接することにしています。」
我々はどこへ向かうのか?
あなたのスタンスがどうであれ、AIが登場し、あなたのビジネスに影響を与えることを受け入れる時が来ています。AIベースのテクノロジーやアプリケーションは、他のテクノロジーと同じように、製品やサービスが少しずつ個別に展開されると思われ、突然「スイッチが入る」ような変化の瞬間が訪れる可能性は低いでしょう。
多くの場合、AIテクノロジーは当初、業務や機能に漸進的な変化をもたらすでしょう。時間の経過とともに、AI技術が進化し、ワークフローが最適化され、顧客との接点がよりインテリジェントになるにつれて、より大きな影響が現れるでしょう。
マーケティングの観点からは、AIをどこでどのように利用するかを網羅する戦略を持つことが不可欠であり、全員が共通のルールとパラメーターに従って作業するためのガードレールを確立し、データをさまざまなAIアプリケーションで活用できるようにする計画を立てる必要があります。
自社の役割を明確にすることが出発点:
・貴社はAIユーザーなのか、AIプロバイダーなのか、あるいはその両方なのか?
・AIツールを活用するのか、AI対応ツールを提供するのか?
私たちのほとんどはAIユーザーですが(ChatGPTの普及がそれを示している)、一部の人々はAIプロバイダーでもあるでしょう。
AIユーザーとして考慮すべきこと
マーケティング活動の一環としてAIの活用戦略を検討する際には、生成AIアプリケーションを他のAI対応アプリケーションと区別して見ることが重要です。
生成AIアプリケーションを使用するには、外部のインターフェイスを使用する必要があります。社内のデータに依存することはなく、セキュリティリスクもほとんどないでしょう。前述の図が示すように、現在では多くの生成AIツールを選択することができます。
生成AI機能は、既存のアプリや製品にも搭載されつつあります。例えばHubSpotには、コンテンツの作成と推敲を支援するAIアシスタントが統合されています。
あなたのチームのメンバーは、すでにこれらのツールを使ってコンテンツを作成・編集している可能性があります。まだそうしていないのであれば、組織における生成AIの使用に関するパラメータを設定し、以下のことに対処する必要があります。
・どのツールの使用が承認されているか、新しいツールの使用承認を得る方法は何か?
・これらのツールをいつ、どのように使うべきか?
– コンテンツの作成 vs. コンテンツの編集
– コンテンツの派生:生成AIを使用する際の根本的なリスクの1つは、配信されるコンテンツの量を増やすためだけに使用されることです。それは、パーソナライゼーションを支援するのであれば良いことかもしれませんが、本質的に同じコンテンツの複数のバージョンを作成するために使用され、それが見込み客や顧客に殺到するのであれば悪いことです。私はよくBardとChatGPTを使って書いたコンテンツを推敲し、”これを改善する “や “これを書き直す “といったコマンドを使いますが、同じコンテンツの複数の適切なバリエーションを得るためにそれを何度も簡単に行うことができます。
・これらのツールで作成されたコンテンツはどのような帰属とするべきか?著作権はどのように扱われるのか(法務に関わる時間)?従業員が生成AIを使ってコンテンツを作成した場合、それを開示すべきか?もしそうなら、いつ、どのように?
・これらのツールによって生成された参考文献を引用する場合、どのようにファクトチェックするのか?私たちは、生成AIが誤った参考文献を作成する可能性があることを知っています。これにどう対処するつもりなのか?
・コンテンツ倫理。現在、生成AIを使って、他人の音声を使った音声ファイルを作成することなども可能だが、これについてはどのように考えるか?
私たちは新たな領域に足を踏み入れており、(AIの利用に関する)パラメータとガイドラインの確立には、チーム全体を巻き込むことをお勧めします。これらのパラメータとガイドラインは、新しいアプリケーションや表面化した問題に対処するために、定期的に見直す必要があります。
現在、マーケティングに関しては、機械学習や深層学習のような既存のAI技術と生成AI技術を同じ意味で使う傾向があります。多くのAI対応アプリケーションは、マーケティングスタックに付加価値を与えることができますが、これらのアプリケーションのほとんどは見込み客のターゲティング、顧客体験の提供と向上、パフォーマンスの分析、その他のマーケティング機能において価値を提供するためにデータを使用する必要があります。
“Garbage In, Garbage Out”(ゴミを入れたら、ゴミが出てくる)という言葉を覚えているでしょうか。ここでも同じことが言えます。利用するデータがクリーンではなかったり、不完全であったり、ノイズが含まれていると、これらのアプリケーションから利益を得ることはできません。
多くのマーケティング部門が、どのようなデータを持っているのか、どこにあるのか、アプリケーションからアプリケーションへどのように受け渡されるのか、データはどの程度クリーンなのか、そしてどのようなデータが欠けているのかについて、明確な見解と理解を持っていないことに私は驚かされ続けています。
もしあなたの部署がこのような状況にあるのなら、今こそ、スタックの詳細と関連するデータ収集、保管、共有、配布の仕組みを文書化し、すべてが必要に応じて収集、保管、共有、配布されていることを確認するために行動を起こす時です。
AIはやがて、あらゆるマーケティング・テクノロジーやアプリケーションに導入されるようになるでしょうが、それは、クリーンで完全かつ正確なデータセットを使用している場合にのみ、うまく機能すると考えます。
AIプロバイダーとして考慮すべきこと
自社がAIを活用したアプリケーションのプロバイダーであれば、マーケティング・リーダーとして、自社のアプリケーションがAIをどのように活用するのか、また、なぜAIを活用するのか、そして、AIを活用することで顧客にどのようなメリットがもたらされるのかを伝えることに自ずと注力することになるでしょう。
自社がAI倫理についてどのように考えているかを伝えることは、最重要課題ではないかもしれませんが、データ・プライバシーのコンプライアンス情報を公開する方法と同様に、AI倫理声明の公開についても考えるべきです。これは、見込み顧客となる企業の情報セキュリティー部門が、資格認定プロセスの一環として、すぐに確認したくなるものであり、今対処しておくべき事項なのです。
Salesforce社は以前からAIの倫理について話しており、Adobe社、WellSaid社、Resemble AI社など、AIの倫理に関する声明を発表する企業が増えています。
対外的には、AIの安全性に取り組むグループがいくつか結成されており、それらには以下の組織が含まれます:
・Partnership on AI
・Institute for Human-Centered Artificial Intelligence
・Responsible AI Initiative
・AI Now Institute
・Gradient Institute
米国政府はAIの安全性に取り組もうとしており、AI権利章典(AI Bill of Rights)を提案しています。また、技術分野のリーダーたち(Amazon、Anthropic、Google、Meta、Microsoft、Inflection、OpenAI)を招集し、AI開発のテストと安全確保、AIが生成したコンテンツの電子透かしへの取り組みを確立しようとしています。
このような外部の努力は称賛するべきですが、各AI開発者が独自のAIの境界と倫理を確立する必要性を否定するものではありません。実際のところ、AIやAIアプリケーションがどのように進化するかはまだ不確定なのです。
開発のペースは、何が可能かを概念化する我々の能力を上回ると示唆されており、我々が想像もしなかった能力や新しいアプリケーションが出現することはほぼ確実である気がしています。
行動を起こす
AIベースのアプリケーションが企業組織に導入されるにつれ、それらを適切に活用できるようにすることが私達の当面の目標になります。
すなわち:
・社内でAIの使用ルールを確立すること
・データフローを含め、技術スタックがきちんと文書化され、データが高品質であることを確認すること
・自社がAIを活用した製品を提供する企業であれば、AIの倫理に関する立場を確立し、AI倫理声明を発表すること
※この記事はMarTechにて掲載された記事を著者の許可を得てアンダーワークスが日本向けに翻訳したものです。
Anita Brearton / CabinetM CEO
Anita Breartonは、マーケティング・テクノロジー・マネジメント・プラットフォームであるCabinetMの創設者兼CEOです。長年のテクノロジーマーケターである彼女は、企業の設立からIPOや買収に至るまで、マーケティングチームを率いてきました。マーケティングチームのテクノロジースタックの構築と管理を支援するために書かれたワークブック「Attack Your Stack」と「Merge Your Stacks」の著者であり、CMS Wireの月刊コラムニストとして、マーケティングテクノロジーについて頻繁に講演しているほか、「50 Women You Need to Know in MarTech」の一人として認定されています。