デジタル広告周辺における個人情報保護の流れとともに、「脱Google」が注目されています。検索エンジンに紐づくソリューション群で圧倒的シェアを誇るGoogleが疑問視される背景と、新興ブラウザや検索エンジンを解説します。
「脱Google」が唱えられる理由
昨今、「脱Google」と呼ばれる動きが企業とエンドユーザーの双方に注目されつつあります。脱Googleとは、Googleが提供するブラウザ「Google Chrome」を筆頭に、Googleのあらゆるサービスから離れようとする動向を言います。一体なぜこのような動きが増え始めたのでしょうか。まずは、その背景を考察します。
Google依存の世界
これまでGoogleは極めて利便性の高いITサービスを無料で提供し、ユーザーを増やし続けてきました。一方、ユーザーはこれらのサービスを利用することで、あらゆる個人情報を提供してきました。Googleサービスの利用規約にはその旨が記されているものの、ほとんどのユーザーはどんなデータをどこまでGoogleに差し出しているか、正確には理解していないでしょう。
Googleはこの膨大なデータを活用し、インターネット広告プラットフォーマーとして成長してきました。データを用いて広告をパーソナライズするソリューションは、企業にとってもインターネット広告の費用対効果を高める最善の手段です。今や、Googleのサービスを介した広告展開はデジタルマーケティングに欠かせません。
しかし、世界中の個人情報がGoogleの下でコントロールされ、多くの企業のビジネスが成り立つ状況は、不均衡かつ依存的とも言えるでしょう。昨今では、特に個人情報利用の透明化が担保されていないことが問題視されています。
Google一強という現状への疑問の高まり
この状況に警告を発する活動の総称が「De-Google Movement」です。2013年頃から始まった同活動は、プライバシー保護に危機感を持つ人々が「Google製品の使用をやめよう」と訴えたり、「Googleなしでインターネットを楽しむ方法」を発信したりと、草の根的に行われてきました。
加えて、Googleサービス下の広告に対する疲弊やストレスを訴えるエンドユーザーの声も、年々高まっています。企業が商品訴求に向けた情報発信に傾倒することで、ユーザーは本来求めるコンテンツに辿り着きにくくなってしまったのです。それに輪をかけて、2016年のGDPR制定以降は個人情報保護に対する意識が世界的にも高まり、現在の「脱Google」の広がりに結びついています。
FLoCの開発停止と新たな「Topics」
こうした流れを受け、Googleも個人情報保護を鑑みたサービス改善の動きを見せていますが、施策の内容は世論と合わせて変化しています。
Googleは2020年にサードパーティクッキー廃止を宣言して以降、それを代替する目的で「FLoC(Federated Learning of Cohorts)」という技術の採用を検討していました。FLoCは、AIによって個人の行動履歴をデバイス上で分析し、その傾向に基づいて独自IDを付与します。この独自IDによって数千人単位のユーザー群を構成し、IDは毎週の分析と学習を経て更新します。広告主にはこのIDのみ提供されるため、個人を識別することはありません。したがって、個人情報保護と広告最適化を両立できるという言い分です。
しかし、そのIDと他のログイン情報等とを合わせれば容易に個人が識別できることや、趣向や傾向によるユーザー群の構成は意図的な情報格差を作る原因になるなどの批判が高まっていました。
こうした意見を受け、2022年1月、GoogleはFLoCの開発を停止し、新たに「Topics」という技術を開発することを発表しました。Topicsとは、Web閲覧履歴に基づいてユーザーが興味を持つであろうトピック(旅行、映画、スポーツなど)を推測し、そのトピックを広告主やWebサイトに共有するというものです。ユーザーはこのトピックを任意で決定することができます。また、トピックの選択肢には宗教や人種といったものは含まず、トピックの全体数も絞るため、個人特定は困難な仕組みになると言われています。
このように新たな技術開発は進んではいるものの、広告主にユーザーデータを提供することで広告ビジネスをスケールしようとする姿勢は、依然として変わりありません。GDPR制定を受けた翌年、早々にトラッキング防止機能を開発・実装したAppleのブラウザ「Safari」などと見比べると、Googleの直近数年の対応にはやや疑問が残ります。それ以前に、そもそもGoogleが一強となっている現状への反発もあり、「脱Google」の動きは加速しています。そして、この動きの中で注目されつつあるのが、Googleに替わるブラウザや検索エンジンの存在です。
Googleに代わる新興ブラウザや検索エンジン
近年、ブラウザ・検索エンジン市場に新たな風が吹き始めました。個人情報保護に対し徹底したスタンスや機能を示すそれらのサービス群は、徐々にユーザー数を伸ばし、存在感を増しています。そんな新興ブラウザや検索エンジンの一部を紹介します。
Brave
「Brave」は、個人情報保護を第一に設計されたブラウザです。トラッカーやマルウェアを基本的に全ブロックすると共に、ブロックする内容の詳細はWebサイトごとに任意で設定できます。なお、「Brave」を提供するBrave Softwareは、Googleや広告技術会社のGDPR違反を指摘するなど、現状のCookie取得の在り方を疑問視する姿勢を強く示しています。
ブラウザ側が掲載する広告については、定期的に表示されるポップアップやホーム画面のスポンサー表示がありますが、これも表示するかどうかは任意に設定可能です。また、広告を閲覧したユーザーには仮想通貨が支払われる仕組みになっていて、広告閲覧によるメリットを感じられるのが特徴です。
ユーザー数の推移は直近4年間で年次ごとに倍増しており、2022年1月時点では月間アクティブユーザー数が5000万人を超えたと発表されました。ユーザーフレンドリーな思想で収益性を保つBraveの設計は、次世代ブラウザを象徴するものとして期待されています。
Vivaldi
「Vivaldi」は、ブラウザ「Opera」の開発者によって作られた新たなブラウザです。広告やトラッキングのブロック機能を標準搭載しており、検索エンジンもGoogle以外を選択可能です。
「Vivaldi」最大のアピールポイントは画面のカスタマイズ性です。タブをグルーピングしたり、画面の一部に常時SNSを表示させながらブラウジングしたりと、利用用途に合わせて画面のレイアウトをデザインできます。
そして日本人ユーザーの比率が高いことも「Vivaldi」の特徴です。カスタマイズ性や機能性を好む日本人と「Vivaldi」の相性が良いとされており、公式SNSやフォーラムを通じたユーザーコミュニケーションも盛んであることから、国内でも注目を集めています。
DuckDuckGo
「DuckDuckGo」は、個人情報を一切収集しないというシンプルなコンセプトを掲げる検索エンジンです。広告に関わるトラッキングはもちろん、検索履歴の追跡もブロックできます。
また、ショッピングサイトやSNSなどの利用時、Cookieを取得させずサービスが利用できる「!(bang)機能」や、サイトの信頼性のランク付けなど、個人情報保護への対策が各機能に反映されています。
マーケターの視点で考える「脱Google」
個人情報保護に対するこれまでのGoogleの対応は、新興ブラウザや検索エンジン各社はもちろん、WordpressやGithubといった開発領域のプラットフォーマーからも快く受け入れられませんでした。エンドユーザーは自身の個人情報をむやみに取得されることなくインターネットサービスを楽しむ方法を徐々に開拓しつつあり、企業も自社のファーストパーティデータを活かした戦略構築へと軸足を移行しつつあります。
この状況をマーケターの視点から考えると、Google一強時代を築いてきた膨大なデータ取得による広告最適化のソリューションに、やや陰りが見えてくるのではないでしょうか。一方で、世界の検索エンジンとブラウザ市場において圧倒的シェアを誇るGoogleの威力は、そう簡単に衰退するとも考えられません。
マーケターがまず認識しておきたいのは、Google以外の選択肢をユーザーが持つという事実と、ユーザーが求めている情報は必ずしも広告ではないという前提です。現状よりも快適な検索体験や、安心してインターネットサービスを享受できる環境があれば、ユーザーは自ずとそちらを選択するでしょう。もちろん、Cookie取得による情報の最適化がユーザー側の体験をより良くする側面もあります。しかし、広告に主軸を置いたGoogleの環境下では、しばしばユーザーニーズは後回しになってしまうのです。
そういったリスクを鑑みたうえで、「脱Google」の前に「脱Google“依存”」を意識し、Googleのソリューションに頼らずとも適切な情報をユーザーに届けられるような基盤づくりを進めることが、マーケターが今できることだと思います。その具体的な手法については、顧客視点に立った自社データ活用など、他記事にて解説されている領域となるので、本記事では割愛します。
「脱Google」の先にある快適なユーザー体験を先取りせよ
今回は「脱Google」の動向について解説しましたが、企業として、あるいはマーケターとして取り組むべきことは依然として変わらず、ユーザーや顧客の視点から見た最適解を、個人情報保護を徹底しつつ提供することです。
新興ブラウザや検索エンジンについては、おそらくマーケター自身が一人のユーザーとして体感するのが最も手っ取り早い方法です。新しい検索環境下でも自社と顧客の接点を作れるよう、柔軟な戦略を考えていくと良いでしょう。