デジタルマーケティングツールの増加に伴い、自社で各テクノロジーをどのように組み合わせて活用するか(マーケティングテクノロジースタック)が重視されています。その中で、今改めて注目されているのがAPIです。今回は、企業がAPIエコノミーを形成し始めた流れや、マーケティングオーケストレーションとの関連性について考察します。
 
(話:アンダーワークス 田島学、聞き手・文:宿木雪樹)

APIの浸透と定義の変化

API(Application Programming Interface)とは、ソフトウェアやアプリケーションの一部を連携・共有し、異なるアプリケーションやシステム同士をつなげるためのインターフェースです。
 
APIというとエンジニア用語と思われがちですが、昨今では、クラウドツールの普及によって、エンジニア以外の人々にも利用される機会が増えています。APIの理解を深めるためにその経緯を振り返ってみたいと思います。
 

1.マッシュアップとして注目された過去

およそ20年前に、「マッシュアップ」という概念がWebサービスの作り手を中心に話題になりました。マッシュアップとは、Webサーバー上で他者が提供するソフトウェアを再利用し、アプリケーションを構築することを指しています。当時は、異なるサーバ同士を繋ぐための開発期間や費用などの負担も大きく、エンジニア以外が容易に利用することが難しいものでした。

マッシュアップというキーワードがトレンドとして流行したものの、実は裏側の技術はAPIと呼ばれるものであり、それが20年以上の時を経て、いまでは多くの人が使う技術になっています。今となっては、Googleマップを活用したUberEatsなどのサービスも、このマッシュアップをふんだんに使っているものと捉えられます。
 

2.プラットフォーマーやスマートフォンの定着とAPI

2000年代後半には、FacebookやGoogleといったプラットフォーマーが影響力を持ち始め、ユーザーIDを利用したソーシャルログインや、プラットフォーム上のユーザーデータの活用が盛んになりました。それに伴いAPIによるアプリケーション同士の連携が必然的に普及していきました。別のアプリで確定した予定をGoogleカレンダーに連携したり、Instagramへの投稿をTwitterにも自動投稿したりと、ツール同士を結びつける便利さはエンドユーザーに広まっていきました。
 
スマートフォンの普及も、API活用の浸透を後押しした要因のひとつです。容量が限られたデバイス上で豊かな体験を生み出すには、クラウドに保存したデータを参照し、ローカルデータは極力使わない設計が望まれます。それを実現するアプリ向けのAPIも開発され、APIはさらに幅広くかつ容易に各アプリを連携する手段へと進化していきました。
 

3.ノーコードで誰もが利用できるAPIツールの登場

そして、ここ数年はノーコードのAPIツールが浸透しつつあります。
 
例えば、タスク自動化ツール「Zapier(ザピアー)」は、さまざまなアプリケーションやWebサービスを視覚的に連携し、業務自動化のルールをカスタマイズすることができます。「IFTTT(イフト)」も「if」と「then」の間にアプリケーションやアクションを指定することで、「もしも◯◯したとき、◯◯する」という簡易な命令文で記せる業務を効率化できます。iPhoneに実装されている「ショートカット」機能をイメージすると理解しやすいかもしれません。コーディングせずに利用していると、裏側で使われている技術を知らずに活用の恩恵を受けることができる時代になってきています。
 
そうしたAPIツールの操作法やUXがわかりやすいため、ZapierやIFTTTを利用していても、APIを利用していると意識せずにいるユーザーが急増しています。ソフトウエアやアプリケーション同士がつながり、価値を生み出す市場全体を指して、「APIエコノミー」や「コネクタ・エコノミー」といったキーワードも生まれました。今後すべてをつなぐ方向でツールの発展はますます加速し、他のツールとつながることを前提としたソフトウエアやアプリケーションが一般化するでしょう。
 

APIエコノミーとコーポレートDX

APIエコノミーの興隆は、コーポレートDXなどのトレンドとも密接に結びついています。多くの企業がGoogleやSlackのサービスを利用していると思いますが、Slackと他のアプリケーションをつなぐ際に、APIを活用しているケースも多いのではないでしょうか。
 
ただ、裏側ではAPIを利用しているにも関わらず、アプリケーションが提供しているプラグイン機能と認識している人が多いかもしれません。Slack上で簡易にアンケートが取れる「Polly」などがその一例として挙げられます。API活用という観点では、例えば別のオンラインツールでサインされた契約書の通知をSlackに届けるなど、さまざまな工夫の余地があります。

APIエコノミーとマーケティングオーケストレーション

一方、デジタルマーケティング領域では、ツール増加の波が数年前から押し寄せています。単体のツールでは、自社に適したマーケティング施策としてできることに限界があるため、複数のツールを組み合わせて活用することが以前から大きなテーマとなっていました。
 
自社に適したマーケティングテクノロジーを組み合わせて活用する「マーケティングテクノロジースタック」という言葉もあるように、テクノロジーの選択と接続がマーケティング効果を左右する時代になってきたとも言えるでしょう。APIは、デジタルマーケティングでのテクノロジー活用に大きな影響を与えています。
 
戦略や施策、組織、テクノロジーなど、マーケティングに関わるもの全てがつながり調和する状態を「マーケティングオーケストレーション」と呼びます。このマーケティングオーケストレーションを実現する上では、異なる各アプリケーションを繋いでいくことが前提となり、APIはその技術的な根幹を担っています。
 
今後は、コストをかけてオールインワンのツールを導入するよりも、APIを活用しながら各機能に特化したツールを適切に組み合わせて使うことが、マーケティングテクノロジーを考える上でとても重要になってくると考えます。
 
参考:急激に拡大するAPIエコノミーとは

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