「あれ?こんなにサービス利用登録してたっけ?」
クレジットカードの明細をなぞって驚く瞬間が、年に一度はある。動画や音楽などコンテンツ配信サービス、ニュースサイト、アプリ、オンラインショッピングなど、月額・年額の料金で利用するデジタルサービスは周囲に溢れている。配信サービスだけでも複数利用しており、課金登録したものを忘れることもしばしばだ。定期的に継続を見直したいが、それぞれ契約時期や使用デバイスが異なり、結局は管理できないままに冒頭のセリフに繋がる。
上記は筆者個人の現状だが、これを会社や組織のテクノロジーサービス利用状況に置き換えるとどうだろう。DXへの取り組みが盛んな今、複数部署が導入したあらゆるツールやサービスは、一体どのように社内で管理されているのだろうか。デジタルマーケティングの現場だけでも、MA、CRM、SFA、BI、CDP、DMP、CMS……と、挙げたらキリがないほどのツールが存在することは、マーケティングテクノロジーカオスマップを見れば一目瞭然だ。
一口にデジタルマーケティングと言っても、その取り組みにはマーケティング、営業部門、ツールやデータ活用に関しては情報システム部門なども関わってくる。複数の部署が複数のツールを導入、運用、管理することで、社内のツール使用状況やシステム連携の実態はどんどん見えづらくなっていく。
そんな状態を、あるツールが解決してくれるという。アンダーワークスのコンサルタントである田口氏はこう語る。「国内ではまだまだ耳にしませんが、マーケティングスタックを多数のツールを組み合わせて実現することが進んでいる米国市場では技術、パフォーマンス、コスト全てを最適化するために、社内で利用するテクノロジーを一元管理し、ツールの新規導入時の比較検討も行うことができるサービスが登場しています。」
企業はこのツールを待っていた!CabinetMとは
アメリカ・マサチューセッツのCabinetM社が開発・提供する「CabinetM」は、一言でいうと「マーケティングテクノロジー総合管理プラットフォーム」だ。2014年にサービス提供が開始され、一般企業はもちろん教育機関やMLBのようなスポーツ団体まで幅広い業種で採用されている。
CabinetMのプラットフォームは、組織が利用する数々のマーケティングテクノロジーツールの利用用途、データ連携、契約条件や年間コスト、ユーザー情報の詳細を分類し可視化できる。
急速に進むデジタルマーケティングの普及では、クラウドサービスとして提供されるマーケティングテクノロジーが多く活用されているが、これらのサービスの利用状況を一元的に把握できている企業は多くない。データプライバシーやセキュリティに対する危機意識やコンプライアンスが重要になっている現在、多くの個人情報をやり取りすることも多いマーケティングテクノロジースタックの現状を把握することは企業の喫緊の課題になっている。
また、ビジネスの成長や競争力の強化において、各企業はマーケティングテクノロジーの組み合わせを随時更新、向上していく必要があるが、市場に溢れているマーケティングテクノロジーの把握やその組み合わせの比較はなかなか難しい。このような課題に対してCabinetMは15,000を超えるマーケティングテクノロジーのデータベースを整備し、これをプラットフォームに実装することで、マーケティング部門と営業部門、企業全体をまたいだテクノロジースタック(組み合わせ)の最適化を行う際にテクノロジーの検索、比較を支援している。
企業のテクノロジー活用におけるライフサイクルサポートを実現するのが、このCabinetMというツールである。具体的に、CabinetMを使うことで、企業のツール活用におけるどのような課題が解決されるのか、大きく3つのポイントでまとめてみた。
社内ツールを体系的に管理し、デジタルガバナンスを実現
田口氏によると、企業が抱えるデジタルマーケティングの課題を紐解いていくと、その大半が「社内で誰がどんなツールを契約しているのか、そのツールがどのシステムと繋がっているかが不透明」であることに起因しているという。社内のツール導入・活用状況が把握できないことから、新規にツールを導入しても、既存のものと役割が重複していたことに後から気が付くケースも少なくない。
こういった課題に困り果てた結果、アンダーワークスのようなデジタルマーケティングのコンサル企業にデジタルガバナンスの相談がくるという。特に大きな組織やグループを抱える企業においては、たとえば一部署でWebサイトを開設するにしても、社内の他サイトがどういったCMSを入れ、どんなテクノロジーと連携させ、どのようにデータを取得し活用しているのかといった運用情報を集めるところから始めなければならない。これには相当な時間と労力を要するため、組織横断的な専門チームをつくることもあるそうだ。
このように、組織のツール導入や運用状況を把握し管理をするためには、体制づくりと同時に情報を一箇所に集めていく必要がある。何よりも重要で、何よりも面倒な部分だと田口氏は語る。それをオートメーション化してくれるのが「CabinetM」である。
上図のように、自社で導入しているツールを各自が登録し一覧化することで、利用状況や機能を全員が把握できる。登録といっても、CabinetMが抱えている膨大なデータベースにあるツールを検索・選択するだけなので至って簡単な作業だ。2022年5月現在、500以上のカテゴリーと15,000を超えるマーケティングテクノロジーがデータベース化されている。日本国内ベンダーのツールは未掲載の場合もあるが、リクエストによって随時追加される。
また、登録したツール同士がどのように連携しているのか、ツールを通じてデータがどのように動いているのかといったフローを可視化できることも特徴だ。CabinetMを使うことで、自社の「マーケティングテクノロジースタックマップ」が完成する。「マーケティングテクノロジースタック」とは、アメリカの『MarTech Conference』というイベントで毎年議論される、数多のマーケティングテクノロジーをどう組み合わせて活用していくのかというテーマでもある。社内でツールを組み合わせてうまく活用する状態のポートフォリオとも言える構図が「マーケティングテクノロジースタック」である。(CabinetMはMarTechと連携していることもあり、豊富なデータベースを有している)
さらに、CabinetMの中でツールごとに契約書を管理できたり、契約更新日のリマインダー機能もある。各ツールの情報を一元的に管理できるため、予算や契約管理にも好都合だ。
比較検討のコストを下げる、ツール導入時のパートナー
たとえば、社内で新しくMA(マーケティングオートメーション)ツールを入れようとする際には、いくつかのツールを比較する場合がほとんどだろう。比較検討に向けては、各ベンダーの営業を受け、情報を集め、既存システムとの連携が可能かを調べ、実際にデモ画面を触り動作感覚を確かめ……などさまざまな作業が発生する。数ヶ月、場合によっては1年以上を要することもある。
しかし、これらの情報収集もCabinetMで行える。単純な検索だけではなく、情報比較、既存システム、ツールとの組み合わせ比較も可能だ。上述したように、CabinetMは世界中のテクノロジーを網羅したデータベースを有しており、勘所のあるマーケターならば、すぐにツールの組み合わせのシミュレーションができるだろう。このように、過去、現在、未来のマーケティングテクノロジースタックを管理し、即座に可視化できるのもCabinetMの大きな特徴だ。
↓たとえば、比較したい3つのテクノロジーを選択すると……
↓このように、比較一覧表ができあがる。機能、価格も一覧で比較できるため、選定会議の資料準備も大変ラクになるのではないか。
担当者の異動後もツール活用をサポート
最後のポイントとして、ツール担当者やマネジメントをサポートする点を挙げてみる。
国内の大企業では、数年で部署異動をするケースが多い。マーケティング担当者となりデジタルスキルを習得しても、3年後には異動になることもざらだ。次の担当者として初心者がきた場合には、今までと同じマーケティング施策を続けるのかといったプランニングも必要にもなるだろう。日々のデジタルマーケティングのオペレーションにおいて、社員のスキル把握やマネジメントが重要である一方で、個々のスキルセットを継続的に把握したり、事足りる人材を補充し続けることは容易ではない。
このような課題に対し、CabinetMは、社員がどのツールに精通しているかを、その習熟度と合わせてリスト化できる機能を持っている。テクノロジー活用に関して、社員のスキルの現状把握や、不足エリアの把握が可能となるのだ。社員の個人ページでは、自分が業務で使っている(使ってきた)ツールや、導入に関わったツールなどを登録でき、社内に共有することができる。
現在社内で導入している各ツールのページでは、それぞれのマニュアルが保存できる仕様になっていたり、コメント機能を使ってツールの使い方やノウハウを記録することができる。担当者が変わったとしても、そのツールがいつ導入され、どのシステムと連携しているのか、どう運用するのかといった情報を即座に把握できることは、後任にとっても非常にありがたいのではないか。
自社の状況に応じたテクノロジーを選び、活用するために
以上、CabinetMがどのように企業の課題を解決するのか、3つのポイントをまとめてみた。日々デジタルマーケティングに携わり、ツールの導入や運用に関わったことがある方ならば、何かしら頷くポイントがあるのではないか。ツールは、導入した後に使いこなせなければ意味がない。だからこそ、自社の状況に応じたツールをしっかりと見極めることが重要だ。そのためにも、社内全体のツール利用状況の総合的な管理を実現するCabinetMのようなサービスの活用が望まれる。
解説者
田口 裕
エグゼクティブディレクター / Executive Director
日系産業機器メーカーの駐在員としてアメリカで勤務後、ベンチャー企業にて、海外事業パートナー開拓、市場調査、現地法人の設立や新規事業企画・開発に従事。海外在住経験や海外の事業パートナーとのビジネスを通じて培ったグローバルビジネスや異文化コミュニケーションへの深い理解を活かし、グローバルエンタープライズのデジタルガバナンス戦略策定・実装、大規模Webサイト開発、コンテンツ運用基盤(CMS)導入、顧客データマネジメント戦略、国内外のプライバシー保護規制対策プロジェクトの支援を得意とする。