CMSは多くの企業のWebサイト運用を支えるソリューションのひとつですが、そのスタンダードが近年大きく変化しつつあるのをご存知ですか。本連載では、最先端のCMSのトレンド、Webサイトで提供できる顧客体験が今後どのように変わっていくのか各ベンダーの担当者から状況をお伺いしました。
Webサイトと共に発展してきたCMS
CMS(コンテンツ・マネジメント・システム)は、現代のWebサイト運用に欠かせない存在となりました。振り返ればその機能や役割は、Webサイト運用や顧客体験のニーズと共に常にアップデートされ続けています。
インターネットとWebサイトが世に誕生して間もない頃、Webサイトは論文の共有など静的な情報発信を目的に使われていました。当初CMSは存在せず、ファイルを直接サーバーに置いてページにアクセスしていました。その後、ディレクトリーやファイル管理によるWebサイトコンテンツの管理を効率的に行うための手段のひとつとして初期のCMSが登場しましたが、まだ顧客体験といった観点はありませんでした。
2000年代になり、ECサイトやアドテクノロジーの技術が急速に発展するとともに、Webサイトは企業が顧客と取引やコミュニケーションを取る場に変容していきます。ユーザーはWebサイトに掲載されているコンテンツを閲覧するだけではなく、ショッピングカート、会員ページ、フォームといった様々な機能を利用するようになりました。このようなユーザーが個人的に利用する機能が増えると、CMSもただページを見せるだけでなく、ユーザーの操作や提供する機能性に対応する「部品」が必要です。そのためCMSに様々なコンポーネントやモジュールが追加され、「顧客体験」という視点がCMSに浸透していきました。
さらに時代が進み、Webサイトが顧客接点として様々な機能を提供することが当たり前になってくると、ユーザー操作の選択肢も広がってきます。商品をカートに入れる、広告をクリックするといった基本的な操作のほか、ソーシャルメディアアカウントと連携する、見積書を作成する、家具をAR機能で部屋に配置する、情報を動画やCGで閲覧するといったあらゆる体験の実現が求められます。CMSは、そのニーズに応じる形で顧客体験に関わる機能を強化し、多様化していきました。
また、従来のCMS内のコンテンツ管理は、情報であるテキストや、画像・動画と、入れ物であるコンポーネント、そしてテンプレートを、ある程度一体化して管理していました。しかし、配信するデバイスやチャネルの多様化に伴い、固定的に情報を管理することが最適解ではなくなりつつあるのが現状です。こうした時代の流れとWebサイトの変化に応じて、CMSは新たな局面へと向かいつつあります。その変化を象徴する2つのキーワードを紹介します。
ヘッドレスCMS
時代の流れに即した次世代のCMSとして新たに注目されているのが、ヘッドレスCMSです。従来のCMSはコンテンツをユーザーに見せる表示面(フロントエンド)と、そのコンテンツデータを管理するシステム(バックエンド)が統合されていました。このフロントエンド、いわゆる「ヘッド」を持たないCMSがヘッドレスCMSと呼ばれます。
ヘッドレスCMSは、コンテンツ編集や管理を担当するバックエンドと、ユーザーがコンテンツを閲覧するデバイスへの配信・表示を担当するフロントエンドが分離されているため、フロントエンド側の制約が減り、Webサイトだけではなく、ソーシャルメディアやアプリを含む様々なコンテンツ形態の運用が可能になります。現代のWebサービスはAPI連携が中心ですが、このAPIを利用してコンテンツ配信を行うことで、多種多様なコンテンツ配信を実現する手法として注目されています。
ヘッドレスCMSは海外の製品をを中心に普及が進んでおり、日本国内の上場企業でも徐々にその活用事例が増えつつあります。
コンポーザビリティ
冒頭で解説したようなWebサイトにおけるニーズの多様化が進む中、2010年代、CMSは単なるコンテンツ管理システムから、デジタルマーケティングに必要な機能・サービスを周辺製品として取り揃えるプラットフォームに進化しました。
このようなプラットフォーム化したCMSにおいては、これまで最重視されてきた堅牢性と等しく、必要な機能を柔軟に組み合わせること求められるようになりました。安定し、かつ柔軟な対応ができるアーキテクチャの指針として言及され始めている概念が「コンポーザブル」または「コンポーザビリティ」です。
コンポーザブルとは、複数の要素や部品などを結合して構成した状態を意味します。これまで一般的だったシステムの特徴を示す「モノシリック(統一的な、一枚岩の)」という言葉とは対照的な言葉とも捉えられます。
コンポーザブルなシステムとは、統一されたシステムがコンポーネントに分割され、容易に組み替えられる状態です。そのためコンポーネントの変更によって起こる他システムへの影響を軽減し、迅速なアップデートが実現します。こうしたコンポ―ザビリティを担保することで、システムは安定性と柔軟性双方を獲得することができるのです。
CMSベンダーの先端の取り組みを追うシリーズ連載
DMJはこうしたキーワードから象徴されるCMSの変容をテーマに、複数CMSベンダーへの取材を行い、各ベンダーがソリューションをどのようにアップデートしていくのか、またその背景にある戦略はどういったものなのか聞きました。それぞれのCMSの魅力と、企業がそのソリューションをどのように活用していくかを紐解いていきます。