テクノロジーの進化とユーザーニーズの変化に伴い、大きな転換期を迎えているCMS。その渦中で、CMSベンダーはどのような戦略に基づき、どんな製品群を展開しているのでしょうか。連載企画「CMSの進化を目指すベンダーの挑戦」では、その最先端について、各ベンダー担当者へのインタビューを行います。本記事では、日本で30年にわたりマーケターやクリエイターを支え続けているアドビ株式会社の今井氏にお話を聞きました。
(話:アドビ株式会社 デジタルエクスペリエンス事業本部 パートナーセールス シニアマネージャー 今井 徹氏)
顧客体験全体を「正しく」管理する
——はじめにアドビ社の会社紹介をお願いします。
アドビは1982年にカリフォルニア州のサンノゼで設立されました。「世界を動かすデジタル体験を」をミッションに掲げ、優れた顧客体験を実現するべく3つのクラウドソリューションで企業・個人のお客様を支援しています。
1つめのソリューションはAdobe Creative Cloudです。画像やイラスト、動画制作などにご活用いただけるPhotoshopやIllustrator、Premiere Proといったアプリケーションのほか、広い意味でのUXを構築するXDなど、20以上のデスクトップアプリケーションとモバイルアプリケーションで構成されています。
2つめのソリューションはAdobe Document Cloudです。PDFによるデジタル文書の作成や編集・共有のほか、Adobe Signなどをご活用いただけます。文書の作成・管理に留まらず、文書のやり取りや共同作業を実現するためのソリューションです。
3つめのソリューションはAdobe Experience Cloudで、CMS関連の製品もこのカテゴリーに含まれます。コンテンツ管理やパーソナライゼーション、データ分析、コマースといったソリューションによって、ロイヤルティ向上につながる顧客体験の提供や事業者様の長期的な成長を支援するソリューション群です。最近では、これら3つのソリューションに対してAdobe Senseiと呼ばれるAI / MLを活用したサービスも提供しています。
アドビの日本法人は1992年に設立され、2022年に30周年を迎えたところです。外資系のソフトウェア企業の中でも、日本で30年以上ビジネスを展開し続けている企業は実はそれほど多くありません。日本に根ざした外資系のソフトウェア会社といえるのではないか、と考えています。
——Adobe Experience Managerの特徴や優位性について教えてください。
製品の根底にある思想としては、単にコンテンツを管理するだけではなく、顧客体験全般を「正しく管理する」ことを重視しています。Adobe Experience ManagerはWebサイトへのコンテンツ管理配信に留まらず、モバイルアプリケーションや他のシステムといった別のチャネルへのコンテンツ配信にも対応可能です。
これには2つの機能が貢献しています。1つはGraphQLによるヘッドレスの配信機能です。従来のHTMLの配信に加えて、モバイルアプリケーションやIoTデバイスに対してコンテンツを配信できます。ヘッドレスのコンテンツに関しても通常のHTMLでオーサリングする場合と同じような画面を用意していますので、ビジネスユーザーの方もヘッドレスでデータの作成・配信がしやすいのです。
もう1つはコンテンツのフラグメント機能です。ページ単位ではなく、コンテンツを意味のある塊として管理配信する仕組みと捉えてください。たとえば、商品画像とテキストといった一連の組み合わせをアセットとして管理し、それらをヘッドレスの仕組みを使ってさまざまなチャネルに配信できます。
——アドビ社ならではの強みは、どのような点にあるのでしょうか?
画像や動画を管理するデジタルアセットマネジメント機能を保有している点です。画像データなどをUI上でドラッグアンドドロップするだけで、簡単にWebサイトを作成したり画像・動画を組み込んだりできます。
一般的なCMSでは、DAMの機能が別のシステムと連携しているケースが少なくありません。Adobe Experience Managerの場合は同じリポジトリで管理するため、UIを含めて非常に使い勝手が良いという点が強みです。
また、PhotoshopやIllustratorといったCreative CloudのアプリケーションとDAMを連携して活用できることも、コンテンツ作成を後押しする大きな特徴かと思います。
コンテンツと顧客データの両輪が顧客体験を支える
——顧客体験を「正しく」管理するという点を詳しく聞きたいです。
コンテンツを単に管理するだけではなく、顧客データとの両輪で管理していくということです。たとえばAdobe Real-Time CDPと呼ばれるカスタマージャーニーにおける一連のデータや属性のコードデータを、ユーザープロファイルとして一元管理するための製品があります。他にもAdobe Targetという製品は、コンテンツの出し分けやA/Bテストに活用できます。
こうした製品とAdobe Experience Managerを連携できるように設計されていますので、あらゆるチャネルにコンテンツを管理配信できるのです。コンテンツとデータを連携させることで、カスタマージャーニーにおけるそれぞれのタッチポイントにおいて、適切なコンテンツの体験を提供できます。コンテンツ管理機能とデータ管理機能の両方を併せ持っているアドビならではの強みと考えています。
——運用面においてもメリットを得られる仕組みのような印象を受けました。
クリエイティブに関してはアドビのPhotoshopやIllustratorをすでにご利用いただいているお客様が多いので、それらのアプリケーションとDAMをシームレスに連携できる点が決め手になったというお客様もいらっしゃいます。実際にご活用いただいて、運用面でのメリットを実感されるお客様も少なくありません。
パーソナライズされた体験を提供する仕組み
——アドビが目指す顧客体験のあり方について教えてください。
最終的には、やはり顧客体験を管理する部分に重きを置く“Personalization at Scale”を実現していきたいです。つまり、データとコンテンツをきちんと両輪で管理して、最適なタイミング・最適なフォーマットでコンテンツを提供することによって、真にパーソナライズされた体験を提供できると考えています。
——具体的には、どのような機能が活用できるのでしょうか?
パーソナライズにおいて鍵を握る製品の1つにAdobe Targetが挙げられます。Adobe Experience ManagerのUIから、コンテンツとターゲットの両方にアクセスできることは機能面での大きな特徴です。
Adobe Targetは、あくまでもあるセグメントに対して特定のコンテンツを出し分けるルールを作るための仕組みですから、コンテンツ自体はAdobe Experience Managerの中で同じユーザーが作成するのが本来あるべき姿と考えています。コンテンツ作成に関してはAdobe Experience Managerにすべて集約させ、各機能を合理的に連携させて活用できるのです。
——将来的にはコンテンツが自動的に選定されるようになるのでしょうか?
あるコンテンツに対して、事前に作っておいたパターンに沿ってAdobe Targetがコンテンツを自動的に出し分けていく仕組みはすでに実現しています。AIを活用したAdobe Senseiが、コンバージョンレートが向上するようにコンテンツの適切な振り分け方を判断してくれるからです。
あらかじめ用意しておいたクリエイティブに対して、ターゲット側のエンジンでデータを見に行き、適切なセグメントに対して適切なクリエイティブを選定してくれます。このような仕組みによって、クリエイティブとマーケティングの融合を実現しているのです。
Best of Adobe Summit – Japan Edition 2023
開催日時:2023年05月24日 (水曜日) 14:00
本イベントは、2023年3月21日(火)~23日(木)に米国のLas Vegasにて開催された「Adobe Summit」での基調講演や最新テクノロジーなどを日本の皆様に向けて凝縮してお届けします。
https://event.on24.com/wcc/r/4186425/CEA4A8E6D3705B0FED2204D25AAA8C8A?partnerref=psm01
【今井 徹氏 経歴】
前職の日系ベトナムオフショア開発企業でMagento Opensourceに出会い、2017年にMagento社シンガポールとパートナー契約締結。2018年にアドビがMagento社を買収後、日本で初のAdobe Partner Award Commerce(2019)受賞。国内最大手ネットスーパー、グローバル製造業B2B、玩具メーカーB2C、国内初のB2Cヘッドレスコマースプロジェクトなど、多くのコマース案件にプリセールス、マーケティング面で参画。2021年2月にアドビに入社。国内、国外のパートナー支援、エンゲージメントを通して企業のデジタルマーケティング強化に携わる。ネットワーク・インフラ分野のキャリアが長く、ネットワーク機器メーカー、データセンター事業社などで、データセンターの企画、Iaas/Paas/Saasのマーケティング業務を経験。