アンダーワークスの小林です。今回はアメリカのラスベガスで2023年3/21-3/23の3日間に渡り開催されたAdobe Summit 2023(https://business.adobe.com/summit/adobe-summit.html)の参加レポートの中編をお伝えいたします。まだ前編を読んでいない方は、ぜひ前編も合わせてご覧ください。

新サービス「Adobe Firefly」のリリース発表

<「Adobe Firefly」のリリースが発表された初日のOpening Keynoteの様子>

 
イベント初日のOpening KeynoteではAdobeの新しいサービスである「Adobe Firefly」のリリースが発表されました。一言で表すと「テキストから2D画像とテキストエフェクトを瞬時に自動生成してくれるAIサービス」です。
 
このサービスの特徴は「商用利用への特化」です。ストックフォトサービスのAdobe Stock内の画像や著作権の切れたパブリックドメインの画像を学習データとしており、クリエイターのIP(知的財産)に配慮しています。そのため、権利を侵害せず商用利用が可能となります。
 
Adobeは2017年に「Adobe Sensei」という自社開発のAIのサービス群を発表していましたが、今回の「Adobe Firefly」のリリースによって「Adobe Sensei GenAI」にアップデートされました。
 
「Adobe Sensei」というネーミングに「センセイ?」と思った方もいらっしゃると思います。実はこのネーミングの由来は日本語の「先生」です。カラテキットなどの映画の影響もあり、アメリカでも武道の師範のことを「先生」と呼ぶことが知られています。

「Adobe Sensei GenAI」で何ができるのか?

<「Adobe Sensei GenAI」のデモンストレーションが行われた2日目のInspiration Keynoteの様子>

 
2日目のInspiration Keynoteではこの「Adobe Sensei GenAI」のデモンストレーションが行われました。ユースケースとして「旅行会社のキャンペーン施策の検討」が取り上げられました。
 
まずは最新のユーザー動向を調べます。「Adobe Sensei GenAI」によって内部データと外部データの両軸から分析した動向の示唆が瞬時にリストアップされました。ユースケースとして「一人旅行の人気が高まっている」との解答が得られました。
 
次に「この最新動向を活用するためのオプションは?」という質問を入力すると、キャンペーン施策が瞬時にリストアップされました。デモンストレーションであるため説明を挟みながらの進行でしたが、作業だけならば十数秒もかからずここまでのアイデアが得られました。
 
ここから更にユーザーのデモグラフィック情報をベースにセグメンテーションを行い、カスタマージャーニーを作成してくれました。”どのセグメント”の”どのユーザー”に対して、”どのキャンペーン施策”を打つべきか、その施策に使用するクリエイティブも「Adobe Sensei GenAI」が提案してくれます。
 
そのクリエイティブ制作の役割を担うのが「Adobe Firefly」です。「Adobe Firefly」がクリエイティブを自動生成することで、ユーザー単位でパーソナライズされたキャンペーン施策が瞬時に可能となります。
 
このデモンストレーションを見て「質問形式で検討を進められるので、非常にユーザビリティに優れている」という点を強く感じました。直感的に操作できるUIでもあるので、使う側の学習コストは他のマーケティングツールよりも少なく済むのではないか、と私は考えます。
 

 
Adobeは、”コンテンツに対するニーズは、過去2年間と比べて2倍になっており、今後2年間で5倍になる”と推測しています。これは「顧客体験を向上させるためにコンテンツのパーソナライズの重要性が高まっていく」ということを示唆しているのではないか、と私は解釈しました。
 
「ユーザー起点でコンテンツのニーズが高まるというよりも、AIサービスによりユーザー単位でパーソナライズされたコンテンツの出し分けが瞬時で可能となるため、使う側(企業)起点でコンテンツのニーズが高まる」ということではないか、と私は考えます。

AIを利用していく上での倫理観

<Adobeが定義するAIの倫理原則>

 
ここまでの流れから「Adobe Sensei GenAI」のようなAIサービスを導入していく企業が今後増えていくことは想像に難くありません。
 
一方で、AIサービスを利用していく上での課題も存在します。それは使う側のルールやガバナンスが明文化されていないという点です。近年はテクノロジーが加速度的に進化しており、使う側のルールやガバナンスの整備が追いついていません。AIもその中のカテゴリの1つです。
 

そこでAdobeではAIを利用していくための倫理として以下の3つを提唱しました。
 
1. Accountability(説明責任)
2. Responsibility(社会的責任)
3. Transparency(透明性)
 
AdobeがInspiration Keynoteという場でわざわざ倫理観を提唱した意図としては「自分たちがAIサービスのリーダーとしてマーケットを引っ張っていく」というメッセージを伝えるためではないか、と私は解釈しました。
 
AIを生産性向上や拡張ツールとして使用していくにあたり、使う側が自発的に倫理観を持つことが重要ではないか、との問題提起にも受け取ることができます。AIサービスの登場により、人間の倫理観がこれまで以上に必要とされる時代に入ったのかもしれません。

Adobe Summit 2023の表テーマと裏テーマ

ここからは個人の見解ですが、「Adobe Firefly」を始めとする生成AIサービスの登場によって起こる分かりやすい変化として「作る人と使う人の境界線が曖昧になっていく」という点が挙げられます。
 
例えば、これまでは広告運用者(使う人)が広告代理店(作る人)にクリエイティブの制作を依頼するといったように、役割が明確に分かれていました。しかし生成AIのサービスの登場で、今後は広告運用者が必要なクリエイティブを自分で制作して使うことが容易に可能となります。
 
そうなると、それまで外部委託していたクリエイティブ制作が内製で対応できるため、各社のパワーバランスにも影響が出てきます。もちろんクリエイティブ制作にも上流と下流があり、ブランドコンセプトの検討のような上流の課題に関しては、まだまだ人間の出番があると私は考えます。ただ、上流・下流に関わらず、全ての課題をAIが解決できてしまう未来が訪れることは想像に難くありません。
 
実は「AIという課題解決ツールの提案」がAdobe Summit 2023の表のテーマであり「人間として生み出せる価値は何か?」という問題提起が裏のテーマなのでは、と私は解釈しました。一般的には課題解決と問題提起は対となる概念で扱われることが多いですが、ここでは表裏一体の関係性なのではないか、と私は考えます。

最後に

ここまで書いてきたように、Adobe Summit 2023のメイントピックはAIでした。今後はAdobe以外のプラットフォームでもAIが使用される場面は増え、従来のデジタルマーケティング戦略・施策にAIが当たり前のように組み込まれていくでしょう。
 
そうなると、必然的に「人間の仕事の価値」が変わってきます。前述のように「人間として生み出せる価値は何か?」という問いに向き合わざるを得ません。
 
この記事を読んでいただいたことをきっかけに、これからの自分たちの仕事の価値についてチームメンバーと話し合ってみる機会にしてみてはいかがでしょうか。
 
(後編に続く)
 


 
Best of Adobe Summit – Japan Edition 2023
開催日時:2023年05月24日 (水曜日) 14:00
 
本イベントは、2023年3月21日(火)~23日(木)に米国のLas Vegasにて開催された​「Adobe Summit」での基調講演や最新テクノロジーなどを​日本の皆様に向けて凝縮してお届けします。
https://event.on24.com/wcc/r/4186425/CEA4A8E6D3705B0FED2204D25AAA8C8A?partnerref=psm01

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