BtoBのデジタルマーケティング業界で期待が高まっている「ABM(アカウントベースドマーケティング)」の実践を考える本連載。前回の記事では、自社がいわゆるLTV(顧客生涯価値)が高い商材を持つ場合に、優良なターゲット企業にフォーカスしてマーケティングリソースを投資するABM戦略との親和性が高くなると解説しました。案件単位の売上が大きく、商材やサービスが高付加価値でありコモディティ度合いが低く、カスタマイズ性も高い傾向があり、顧客との関係性も長期に渡るなどといった場合です。
自社のビジネスがABM戦略との親和性が高いと判断し、ABMに取り組むことを決めたら、次は自社のデジタルマーケティングの成熟度を考慮して、どのスタート地点から取り組むべきかを判断する必要があります。そこで、今回はABM施策に取り組むレベルの見極め方を解説します。
(スピーカー:アンダーワークス エグゼクティブディレクター 田口裕、編集:西塔穂波)
一般的なBtoBデジタルマーケティングの実行モデル
BtoB(B2B)のデジタルマーケティングにおいて、一般的に採用されるプロセスを簡略化すると、Webサイトへの集客とコンテンツマーケティング、資料ダウンロードフォームやお問い合わせフォームによるコンタクト情報(リード)獲得、マーケティングオートメーション(MA)によるE-mailキャンペーンとスコアリング、確度が高まったマーケティングリードに対するインサイドセールス、営業による対面アプローチという流れになります。
このBtoBデジタルマーケティングのプロセスモデルにおいて、自社の日々の活動で「どのテーマで」「何が」「どこまで」達成できているのかを知ることが、ABM施策のスタート地点を決める際の重要なベンチマークとなります。
自社のデジタルマーケティング取り組み成熟度の理解
ABM戦略というアプローチは、その性質上、非常に高度なデータの取り扱いを必要とします。そのため、導入の過程では、データ集約、クレンジング、統合、編集、システム間のデータ連携などを、データマネジメントを可能にするプラットフォーム構築に合わせて取り組むことが重要です。
>> レベル別ABM実践 #1|ABMのコンセプトを理解する
顧客データマネジメントの成熟度を軸にすると、以下のようなデジタルマーケティングの取り組み成熟度のレベル設定が可能になります。
この成熟度レベルを参考に、以下のような目安で考えると、ABM施策の取り組み始めや効果測定時の着地点がわかりやすいでしょう。
レベル1(初級):目安はA1〜A2
このレベルのイメージは、MAの導入に向けてマーケティングリードの定義を始めたばかりか、MAを導入してリードステータスの管理を行い始めたという状況です。初歩的な自社のリード管理状況、フォロー状況の評価ができている場合は、ABM的な視点でリードを分析するために、Webサイトへのアクセスをアカウント単位で把握することに着手すると良いでしょう。
このレベルでは、データの統合管理も道半ばというケースが多いと思われますので、まずはざっくりとしたアカウントのエンゲージメントの状況把握がゴールとなります。
レベル2(中級):目安はA3〜B2
このレベルのイメージは、MAの運用は定着しており、Web経由で集まったマーケティングリードに対してフォローをかけ、セグメントやスコアで振り分けるところまで達成できているという状況です。実は、このレベルが第1回で解説した”E-mailをキーにして「属性情報」や「行動情報」をスコア化するため、スコアは個人単位(ユーザー単位)になってしまう”というMAによるスコアベースのリード選定の課題が顕在化するタイミングです。
企業ターゲットに基づくマーケティングリードの選定をより可能にするために、マーケティング部門と営業部門で優先すべきアカウントを議論し、ターゲティング優先度の定義を行います。この優先度定義ができると、マーケティングと営業で同じアカウントを攻略するゴールを設定でき、広告によるWebサイトへのターゲットアカウント誘導や、MAでもターゲットアカウント企業に属するコンタクトを優先してフォローするといったABM的な動きに繋がっていきます。
レベル3(上級):B3〜C2
レベル3は、既にレベル1〜2のABM施策を運用しており、ABM戦略に基づきマーケティングと営業の連携が進み始めている段階です。ABM施策の精度をさらに高め、重要なアカウントを攻略するために、外部データの活用を考え始めるタイミングとも言えます。
外部データの活用には、MAやCRMにあるファーストパーティーデータとサードパーティーの外部データを結びつける”共通キーの設定”が必要不可欠です。MAやCRMのコンタクトデータに企業コードを付与し、アカウント軸でデータを引用できる状態にすると、分析、キャンペーン企画、コンテンツマーケティングにおいて、インテントデータなどのサードパーティーの外部データを活用できます。
レベル4(エキスパート):C3
レベル4は、ファーストパーティーデータ、サードパーティーデータ、社内のその他データの統合管理が実現しており、本記事の冒頭の図で示した「B2Bデジタルマーケティングの全体像」において組織、プロセス、テクノロジープラットフォームの各レイヤーの統合が実現している状態です。
マーケティングと営業の施策がデータに基づき連携されているので、「Demandbase」や「Terminus」のようなABM施策の統合プラットフォームの導入や、カスタマーサポート、カスタマーサクセス部隊のオペレーションとの接続など、さらに高度な施策を目指していけます。
ABM戦略の実現に向け、プロセス全体の精度を向上させる
ABMの本質は「顧客データを企業軸(アカウント)で紐付け、データに基づき様々な施策を一貫性を持って実施することで商談創出を目指すこと」ですが、そこに至る過程は、Webサイトへの集客とコンテンツマーケティング、資料ダウンロードフォームやお問い合わせフォームによるコンタクト情報(リード)獲得、マーケティングオートメーション(MA)によるE-mailキャンペーンとスコアリング、確度が高まったマーケティングリードに対するインサイドセールス、営業による対面アプローチといった、プロセス全体の精度向上に他なりません。
自社における取り組みの成熟度をしっかりと把握した上でABMを取り入れることで、デジタルマーケティングの取り組み全体の底上げが可能になるのです。
解説者
アンダーワークス株式会社
執行役員・営業統括・グローバルテクノロジーアライアンス統括
田口 裕(Yutaka Taguchi)
日系産業機器メーカーの駐在員としてアメリカで勤務後、ベンチャー企業にて、海外事業パートナー開拓、市場調査、現地法人の設立や新規事業企画・開発に従事。海外在住経験や海外の事業パートナーとのビジネスを通じて培ったグローバルビジネスや異文化コミュニケーションへの深い理解を活かし、グローバルエンタープライズのデジタルガバナンス戦略策定・実装、大規模Webサイト開発、コンテンツ運用基盤(CMS)導入、顧客データマネジメント戦略、国内外のプライバシー保護規制対策プロジェクトの支援を得意とする。