2021年も残すところ1週間。昨年に引き続き、あらゆることが新型コロナウイルスの状況次第という状態が続いた1年でした。感染が拡大している地域には、年明けに2回目の緊急事態宣言が発令され、その後9月まで各地で断続的に緊急事態宣言が継続されました。緊急事態宣言下のオリンピック開催を経て、さらなる感染拡大を危惧する声も多くあったものの、秋以降は驚くような感染状況の落ち着きを見せ始めています。
そんな2021年のデジタルマーケティングはどのような年だったのか、そして2022年にはどういったトレンドが待っているのか。1年の振り返りとして、デジタルマーケティングのコンサルティングファームであるアンダーワークスの考えをまとめてみます。
2021年振り返り|個に向かう時代のデジタルマーケティング
ECの進化とD2C
外出が制限される中で、昨年に引き続きEC領域が大きく変化したのが2021年でした。旅行やイベントのチケット販売といった従来型のECが減少する中で、ECのバリエーションが増えて多様化したと考えます。
例えば、UberEatsを始めとしたアプリでのデリバリー注文が当たり前となり、フードデリバリー市場規模は過去2年で2倍になったと言われています。それに応じて、ギグワーカーと呼ばれる、単発の仕事(配達など)をアプリで請け負う労働者の数も、この2年で5倍になったという調査もあります。
また、ライブ配信を行う新しい形のインフルエンサー「ライバー」は2年で50倍以上に増えています。SNSと動画を組み合わせたECは「ライブコマース」という言葉とともに新しいECの形となりつつあります。国内ライブコマース市場は、2024年までに10兆円規模になるだろうとの予測もでています。
企画、製造から販売までを一気通貫で行う「D2C」というトレンドにも注目したいと思います。既存の流通網や大手モールを通じた販売から、直接顧客とつながり、コミュニケーションをとる販売をデジタル通じて行うブランドが増えてきた一年でした。
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SNSの多様化・進化と仮想空間
SNSの変化にも目を向けてみましょう。音声SNSのClubhouseが大きな注目を集めたことを筆頭に、SNSが多様化、進化する兆しが見えた1年だったと思います。2021年初頭には招待制であったClubhouseが口コミで広まり、会員登録ブームが起こりました。(現在は招待制から誰でも登録可能に)時を同じくして、Twitterにおいても音声で会話が可能となる機能「スペース」が開始します。
一方で、Facebook社は社名をMetaに変更し、メタバースと呼ばれる仮想空間プラットフォームに舵を切ろうとしています。12月になり、そのMeta社からVRアプリ「Horizon Worlds」が一般リリースされました。(10年ほど前にブームになったセカンドライフを覚えている方は懐かしさがあるかもしれません…。)
こういった流れを見ると、2021年は、テキストから画像、そして動画へと発展してきたSNSがコマースや音声などに多様化しながら、VR・仮想空間へと向かい始める転換点の年と言えるかもしれません。
個人情報とCookie規制
最後に個人情報とCookie規制のトピックスを取り上げます。個人情報保護法の改正と3rd Party Cookie(サードパーティクッキー)の終焉、Cookieに代替する手法の模索は、今年のデジタルマーケティング業界において大きな話題となりました。
昨年公布された改正個人情報保護法の施行が2022年4月に迫る中、個人情報保護委員会からガイドラインも公表され、多くの事業者がプライバシーに関しての取り組みを開始しました。Googleは、Chromeにおける3rd Party Cookieの廃止を2022年から2023年に延期したものの、Cookie廃止後の広告やユーザートラッキングのあり方については、さまざまな場所で議論された年となりました。
以上のトピックスからもわかるように、デジタルによって「個」の活動が一層加速したのが、2021年のマーケティングトレンドであったと考えます。
2022年のトレンド予測|アフターコロナは「ハイブリッド」に
それでは、2022年のデジタルマーケティングは何に注目が集まるでしょうか。いくつかのトピックスをあげて、2022年のトレンドを予測してみたいと思います。
アフターコロナとリテールDX
基本的な世の中の動向としては、今後もますますデジタル化が進み、ECの活用が一層増え、メタバースやNFTなどをはじめとしたデジタルでの活動や購買行動が増えていくはずです。一方、これは期待を込めてでもありますが、アフターコロナには「リアル回帰」も促進されるのではないでしょうか。
そう考えたときに注目したいのが「リテール」です。リテールDXや店舗DXといったキーワードは、昨年からよく耳にするようになりましたが、アフターコロナとともに一層注目を集めるのではないかと考えます。コロナ禍で人々がデジタルの利便性をより享受したとはいえ、店舗に訪れる、人に会うなど、「リアル」での体験価値がなくなったわけではありません。アフターコロナの時代には、オンラインとオフラインを組み合わせた(= ハイブリッド)それぞれの体験価値が高い購買体験が望まれるようになると考えます。
顧客体験を進化させる店舗DX
メーカーやブランドがD2Cというコンセプトのもとで直接顧客との接点を持ち始める中、元来顧客のニーズをより正確に掴み、良い顧客体験を提供することに長けてきたリテールビジネスが、今後はデジタル化を伴って注目されていくと思います。
例えば、ファミリーレストランなどでは、アプリから予約をして、店舗のタブレットで注文を行い、ロボットが配膳してくれて、電子マネーで決済を行うなど、対人的には完全非接触で食事をすることができる店舗が増えてきました。こうした飲食店のデジタル化は、安全性や労働環境といった側面から考えても、今後も促進されていくでしょう。
また、コンビニ各社が無人店舗を進める気配も強くあります。ファミリーマートは、2024年までに全国で1,000の無人店舗を設立する計画を立てています。スーパーでも、セルフレジやレジレスアプリなどが普及し始めており、近い将来は「レジに並ぶ」という当たり前の行動がなくなる可能性も高いのではないでしょうか。2022年はリアル店舗がデジタルによって変わっていく、いわゆる店舗DXがさらに加速する1年になると考えます。
リテールビジネスが広告業界に参入
もう一つ、リテールのビジネスモデルの変化にも注目してみましょう。米国のウォルマートは、今年の8月に「ウォルマートDSP」と呼ばれる広告配信プラットフォームを立ち上げました。自社がもつ顧客接点のデータを活かした広告ビジネスとして、新たな事業展開を模索しています。国内では、同時期にツルハドラッグが広告ビジネスへの展開を発表しており、すでに数億円の売上があるとも言われています。販売以外のビジネスモデルを模索するリテール業界の変化にも、引き続き目を向けていくべきでしょう。
5G普及とライブ配信、BtoBマーケティングの浸透、脱Cookie
リテール以外では、5Gの浸透・活用にも注目しています。遅れていると言われてきた5Gエリアの整備ですが、コロナ禍で巣ごもりが続く中でエリア拡大は着実に進んでいます。5G回線であれば、スマートフォンのモバイル通信だけでも1GBを超えるデータ通信が可能になることもあります。
こうしたインフラの普及により、ライブ配信、特に屋外での配信は大きく進むのではないでしょうか。スポーツやアウトドア、旅行といった分野のライバーが増え、ライバーを起点としたライブコマースなどが注目されるかもしれません。
マーケティングでいうと、BtoB分野に注目しています。ウェビナーやWeb会議システムを活用した営業手法はかなり浸透してきましたが、2022年はコンテンツやデータ活用がトレンドに加わってくるのではないかと感じます。キーワードとしては、「セールスイネーブルメント」や「ABM(アカウントベースドマーケティング)」です。
また、個人情報保護やCookieレス、脱Cookieといった領域は、来年も一層注目を集めると考えます。4月に施行される改正個人情報保護法への対応が進んでいない企業も多く存在する中で、3rd Party Cookie(サードパーティクッキー)の終焉、1st Party データ(ファーストパーティデータ)への回帰、0 Party データ(ゼロパーティデータ)への取り組みなどが注目されるのではないかと考えます。
以上、2021年と2022年のデジタルマーケティングトピックスを、それぞれ振り返りと予測として挙げてみました。
DMJ(デジタルマーケティングジャーナル)では、来年もトレンドやテクノロジーの解説などを独自の視点でお届けしていきます。2022年も一緒に、デジタルマーケティングを考えていきましょう。