コロナ禍において、私たちの購買行動は大きく変化しました。在宅時間の増加や感染症対策にともない、食料品・日用品の購入にはECやスマホアプリなど非対面・非接触のデジタルサービスを活用するなど、買い物のデジタル化は身をもって体験してきたところです。アフターコロナに向けて実店舗での購買活動や外食の機会が増えてきた今、ここ2、3年で購買活動を取り巻く環境がどのように変わり、今後はどう変わるのか、「データ活用」の意義を踏まえて考えてみます。

コロナ禍で進む食料・日用品の小売業DX

 
オンラインでの購買ニーズが上昇、大手企業との提携が活発に

コロナ禍の巣篭もり需要から、自宅にいながらWebサイトやアプリを通じて食料・日用品を購買するニーズが高まりました。2020年前後に、アマゾンジャパンはライフコーポレーションや成城石井と協業して食料品の配送サービス拡充を進めています。2022年頭には、楽天が「楽天西友ネットスーパー」で得た知見を元に立ち上げたスーパーマーケット事業者向けプラットフォーム「楽天全国スーパー」を開始するなど、大手インターネット企業との事業提携によって小売業のオンライン展開を拡大する動きが見られました。
 

新たなネットスーパーのカタチ「Qコマース」

ネットスーパーのジャンルにおいては、既存のスーパーマーケットのオンライン展開だけではなく、「Qコマース」と呼ばれる新たな形態のサービスが登場しました。「Onigo」や「QuickGet」など、ダークストアを配送拠点にすることで注文から10〜15分で食品・日用品の配達を可能にしたアプリサービスが次々に誕生しています。Qコマース界隈では、韓国発の「Coupang」や、ドイツ発の「foodpanda」事業を引き継いだ「AMo」など、国外サービスの参入・撤退の情勢も目を離せません。
 

店舗でのセルフレジ導入率の変化

一方で、店舗においてもデジタル化が進んだ側面があります。スーパーマーケットやコンビニエンスストアでは、セルフレジの導入がだんだんと定着してきました。来店客が商品バーコードの読み取りから精算までの全てを行うフルセルフレジや、店員がバーコードの読み取りをした上で来店客が備え付けの精算機で支払いをするセミセルフレジ、来店客自身がスマホアプリでバーコードをスキャンして支払いまで完結できるサービスなど、多様な形が生まれています。
 
特にセミセルフレジは、意識せずとも日頃から使っている方が多いのではないでしょうか。コンビニエンスストアのセブン-イレブンでは、多くのレジが「決済方法を店員に告げるのではなく、自分で選ぶ方式」に変わっています。ちょっとした違いですが、「店員に電子決済を告げて決済」だと単なる電子決済であっても、「自分で決済方法を選択して決済」となるとセミセルフレジに該当すると考えられます。
 
2020年の全国スーパーマーケット協会の調査では、フルセルフレジの設置率は15.8%、セミセルフレジの設置率は64.0%と年々増加していることもわかります。
参考:2020年スーパーマーケット年次統計調査報告書 (一般社団法人全国スーパーマーケット)
 

セルフオーダーから無人店舗に向かう

上述した宅配サービスの中には、「Uber Eats」のようにアプリから注文後に自ら商品をピックアップしに行くような、対人接触を最低限にした購買を可能にするものもあります。小売店や飲食店においても、タブレットを使ったセルフオーダーなどの非対面・非接触の注文・販売形態が広がりました。完全キャッシュレスのセルフレジを設置したホルモンショップ「naizoo」など、無人販売所とオンラインショッピングの両方で購入できるサービス形態も増えています。
 

ホルモン専門店 naizoo
(画像:東京・恵比寿「naizoo」無人販売所、2022年8月筆者撮影)

飲食店においても、2022年8月開業の「香味麺房」では調理、洗浄をロボットで自動化することを可能にしたり、「ガスト」や「しゃぶ葉」の店舗にネコ型配膳ロボットが導入されるなど、ロボットが接客や調理をするオペレーションもチェーン店を中心に普及し始めています。モバイルやタブレットを用いたセルフオーダーを皮切りに、コロナ対策だけでなく人手不足の解決策としても店舗は「無人化」していくでしょう。
 

しゃぶ葉やガストの配膳ロボット
(画像:Pudu Robotics社の2022年5月20日付プレスリリース)

今後の食品小売DX予測

店頭メディアとしてのデジタルサイネージ

上述したように、店舗のセルフレジ導入や接客の自動化などが進んではいるものの、テクノロジーによる顧客データの収集・活用はこれからだと考えます。たとえば、店舗でのサイネージ広告は2000年代からたびたび話題になりながら、スーパーマーケットやドラッグストアを中心にじわじわと広がり始めている最中です。
 
マルエツやマックスバリュ関東を傘下に持つU.S.M.Holdingsは、2020年からサイネージ事業「イグニカ(ignica)サイネージサービス」を展開し始めました。AIカメラが搭載されたデジタルサイネージを用いて、来店客に向けた商品・レシピ情報等をリアルタイムに配信しながら視聴効果の分析・可視化ができ、同社傘下のスーパーマーケット111店舗1,042画面に設置されるなど実用化が進んでいます(2021年8月時点)。
コンビニ業界でも、2022年6月にファミリーマートが3,000店でのデジタルサイネージ設置が進んだと発表し、地域別配信などマーケティングの可能性を広げています。データ活用として真っ先に浮かぶ「来店客のデータ」を元に、一人ひとりに合わせた訴求を行う広告配信の手法は今後も目が離せません。
 

ファミリーマートのデジタルサイネージ事業
(画像:ファミリーマート社の2022年6月27日付プレスリリース)

スーパーマーケットのダイナミックプライシング

店頭商品の価格をリアルタイムに切り替えていく「ダイナミックプライシング」にも注目です。これには電子棚札や電子タグといったハードの導入はもちろん、需給や在庫に関するデータの収集、分析、活用をする戦略やリテラシーも必要になります。ダイナミックプライシングは食品ロス対策としても世界的に注目されており、国内では経済産業省とイトーヨーカ堂が実証実験に取り組むなど、国を挙げて導入を一層進めていくものと予想されます。
 
参考:IoT技術を活用した食品ロス削減に関する実証実験を行います(経済産業省)
 

オフライン店舗のCRM

一方で、スーパーマーケットや飲食店等、店舗におけるリアルな顧客データ活用はそこまで進んできていない領域だと思います。たとえば、「飲食店の常連客」などは「店員が覚えている顧客」であって、そこには戦略性やデジタル活用はまだあまり介在していません。消費者の目線になっても、来店前後にポイント獲得や情報収集目的で店舗の公式LINEやスマホアプリに登録するものの、それを用いたコミュニケーションは店側からの一方通行であることが多いのが現実です。
 
日頃から店舗を利用している顧客のデータ収集・分析・活用や、ECサイトと実店舗のデータを連携させたハイブリッドでのコミュニケーション設計など、一人ひとりへの接客ができるように進化していくことで今後のロイヤルティをさらに高めていけると考えます。
 

一人ひとりに向けたデータ活用とコミュニケーション

データを活用して顧客へのアプローチを考えることは、一見すると無機質でドライな戦略にも思えます。しかし本来のデータ活用とは、一人ひとりのニーズを把握し、店舗ひいてはブランドと顧客との間に人ならではのコミュニケーションを作り出す可能性があるものです。コロナ禍における購買活動の変化も、デジタル活用でデータを収集できる機会と捉えることができます。アフターコロナに向けて実店舗への回帰が進む今こそ、一人ひとりに向けたコミュニケーションの準備を進める時ではないでしょうか。

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