今日のビジネス活動では、モバイル機器がごく当たり前のツールとして使われています。しかし、メールやチャットなどコミュニケーションツールとしての利用だけではなく、データを確認し、インサイトを得てアクションに繋げるためのツールとしての活用に課題を抱える方も多いのではないでしょうか。
2022年9月7日に開催された「Domopalooza Japan」では、アタラ合同会社CEO 杉原剛氏、KDDI株式会社シニアディレクター 西田圭一氏、アンダーワークス代表取締役社長 田島学がビジネスリーダーとして登壇し、モバイルツールでインサイト得てアクションをとる新しいビジネススタイルとそのメリット、データ活用の浸透に重要な過程とヒントなどを、各社の取り組みとともに議論しました。レポートでは、当日のパネルディスカッションの様子をお届けします。
Domoを活用した”スマホ経営”
アタラCEO 杉原氏(以下、杉原):はじめに、スマートフォンなどモバイルベースで仕事ができる環境を意味する「モバイルセントリック」のキーワードにそって、三社の取り組みを紹介します。まず、アタラではコロナ禍以前からリモートワーク体制を整えており、営業、マーケティング、労務など各部署で50種類以上ものSaaSツールを利用していました。これらをクラウド型BIプラットフォーム「Domo(ドーモ)」に連携させ、経営層が意思決定するためのデータを一元管理することで、スマホを活用した経営体制を築いています。
アンダーワークス代表 田島(以下、田島):アンダーワークスでは毎年「マーケティングテクノロジーカオスマップ」を発表しており、2021年版では1,317のツールを取り上げました。テクノロジーの選択肢は年々増えていますが、特にクラウドツールは大きなコストをかけずに初期導入できるため、トライアルも容易になったと感じています。導入しやすい一方で、私たち自身も社内で使うツールの数が増えてきたことから、あらゆるデータを集約する目的でDomoを使い始めたのがきっかけです。
営業やマーケティングに限らず、その数字が何を示し、数字から何を読み取れるかといった感覚の共有はなかなか難しいですが、Domoを利用することで社内で同じ前提に立って議論ができています。たとえば、クライアントワークにおける各プロジェクトの稼働率、進捗率、勤怠状況に基づく残業時間、採用の応募状況など、あらゆるデータをDomoに集約しています。社内イントラネットとして活用している「Notion」とも連携させて、全社的な状況をスマホですぐに確認できる状態なので、家でも外でも常にデータにアクセスできることが大きな安心感につながっています。
KDDI シニアディレクター 西田氏(以下、西田):KDDIでは4年ほど前に、社内にDomoの価値をどう伝えるかを悩んでいました。その中で、私なりに3つの価値を考えてみたんです。一つ目は、メイン機能である「ダッシュボード」。経営者やマネージャーが素早く経営に関わる意思決定をするための情報を見ることができたり、現場のメンバーのアクションにもつながることが最大のポイントだと考えます。次に、業務を可視化し、最適化できることです。一目で業務のムラがわかることは、結果的に「業務プロセス変革」の種になります。最後に「シンプルで強いプレゼンテーション」です。リアルタイムでデータの変化を見せるなど、さっと情報を伝えながらも視聴者の興味を引くことができます。この3つを訴求するとどれかしらが響くようになり、社内にDomo活用が浸透していきました。
杉原:Domoは機能が豊富だからこそ、どう使うか悩んでしまう企業も多いかもしれません。一方で、その山を越えれば社内での自走が始まるイメージがあります。
モバイルセントリックの魅力
杉原:次に、Domoの導入を検討している企業に対し、既に活用している企業として感じることやヒントをお伝えしていきましょう。
田島:まずは、ここ2年くらいでリモートワークが進んできた中での「在宅勤務でモバイルは必要か?」という疑問に答えたいと思います。私の場合、コロナ禍以前は移動のスキマ時間で確認業務などを進めていましたが、今は家にいるからこそスキマなく会議の予定を詰め込むようになりました。デスクワーク時間の確保が難しい在宅勤務だからこそ、休憩時に「モバイルで業務を確認する時間」が貴重になっているので、場所や移動時間の有無はモバイルセントリックの意義に大きく影響しないと感じています。
杉原:私自身、外出先や家の中でスマホを開くだけで最新データがみられることは非常に便利に感じていますね。アラートも設定しているので、何か変化が起きたらすぐに動けますし、能動的にアプリを開かなくてもアクションに繋げられています。
社内の変化としては、「まずはDomoを見ておいて」という会話が増えました。その中で、昔から使っていたデータやKPIを追い続けるのではなく、意思決定や何らかの改善につながるかを改めて考えるようになっています。最近ではDomoの新しいアプリを使って、現在契約している3つのサテライトオフィスのうち「利用可能な場所をモバイルで確認できるアプリ」を作るなどして、より柔軟かつモバイルセントリックな働き方を促進しています。
また、アタラが運営するメディア「Unyoo.jp」の中で、「Domo Everywhere」を活用して記事内に動的なグラフを置くなど、より魅力的な情報発信に対してもDomoの機能を役立てています。
西田:初めてDomoのデモを見たときは、私自身がそのサービスにとても感動しました。感動自体は導入のきっかけとして有効ですが、その後も自走し続けることこそが重要で、工夫も必要です。自走するためには、強制力のある指示を出すのではなく執事としてスタッフの力を引き出し、社内のコラボレーションを促進できる「サーバント・リーダーシップ」をとれるリーダーが必要だと考えています。
現在、私はKDDIグループのコーポレート機能をサービスとして提供する立場にいますが、「シェアード・リーダーシップ」にも注目しています。企業規模が大きくなるほど役職に紐づく縦ラインでの仕事が多いですが、最近は横型のプロジェクトも増えています。しかし、バイアスは縦ラインにかかってくるので、ミッションが明確な場合は縦ラインが機能しますが、「斜め」にプロジェクトがきた場合は責任の所在がわかりづらくなるんです。
そこで、リーダーを役職者に限定せずに、たとえばDomoの担当が若手であったらその人にリーダーシップを与えてスタッフを付ける。プレゼンが必要であればプレゼンが得意な人をリーダーにするなどの「シェアード・リーダーシップ」が活きます。適材適所でリーダーを任命する在り方はベンチャー企業などでは当然かもしれませんが、レガシーな大企業では上司の言葉がないと動けない局面は多くあります。その点、Domoを導入することで、それを実際に使う人がリーダーシップをとって「自走」をリードしていけるという面白さがあります。このようなリーダーシップを実現して、地道に種をまいていったことがKDDIでのDomo活用のスタートでした。
大企業でのツール導入は「種まき」を楽しむ
西田:実際にDomo導入から自走するまでの道のりですが、地道に各所に種をまきながらも、起爆剤になったのは経営トップに先ほどの「3つの価値」を直接プレゼンして、社長が知りたい数字をDomoで伝えたことでした。その後、エバンジェリスト的なポジションの人たちに使ってもらい、口コミで横に広まりましたが、情報セキュリティ部門との衝突もありました。
KDDIは個人情報を扱う通信事業者であるため、通常よりもかなり厳しいセキュリティ基準を設けています。危険視される可能性を全てつぶしていく中でオペレーションを中止せざるを得ない局面もあり、担当者が涙を流すなど山あり谷ありの道のりでした。このように、企業が自走状態に至るまでには極めて長い時間を要しますが、小さな取り組みを重ねた変化はやがて社内に伝わり、Domoを中心にデータを見る組織が実現しています。
Domoはある程度マニュアルがなくても使えるツールではありますが、各部門での自走を目指してガイドラインや動画マニュアル、FAQの情報発信と整備にも取り組んでいます。こうした一連の工夫は日々試行錯誤しているところですが、このプロセスで企業や個々の社員が成長していくこと自体が楽しいと感じています。
田島:動画マニュアルは作成にも労力が要りそうですが、主にコロナ禍で進められたんですか?
西田:まさに、コロナ禍において動画マニュアルの必要性と利用者が一気に増えました。最近はTeamsなどでも比較的簡単に制作できるんです。その他にも、月に2回ほど「Domoデー」を開いて、”出店”という形でDomoの方々などが来る相談窓口ブースを設置しています。温もりあるコミュニケーションが生まれていて、社内からも評判が良い施策です。
社内の「勘」と「経験」をデータで実証
西田:実際にモバイルセントリックを進める取り組みについてですが、これまで経営者に情報を上げるには、いろんな部署がデータを取りまとめ、さらにそれを管理部門が取りまとめて、と莫大な時間と工数がかかっていました。これをDomoに自動的に集約して、経営者が気になるデータを常に見られるように、まさに社内でカスタマイズしたところです。
日々変わるKPIの中でサービスブランドごとに日毎の情報を追えるようにしていますが、営業と技術の役員では見たいデータも異なります。一定の共通ボードは用意しつつも、必要な人に必要なデータをクイックに届けるために、シンプルかつパーソナライズした情報カスタマイズをデザインしているところです。
もう一つ変わった使い方ですが、KDDIが東西に持つ物流センターにおいて、在庫管理や梱包計画における現場のベテラン従業員の”勘”をDomoで実証するプロジェクトを始めています。今までベテランの経験値に頼っていた業務も、若手や新人が実行していけるようにする必要があります。はじめは、ベテラン従業員は自分たちの勘を数値化、データ化することに抵抗感を持っていましたが、Domoを見た瞬間に「自分たちの経験もあながち間違っていなかった」という気づきと自信を得られたようです。データを起点にした改善への意見なども挙げてくれるため、なるべくそのまま反映して、新たな活用方法を進めているところです。
杉原:Domoは物流業界での導入事例も多いですから、サプライチェーンのステークホルダー同士がDomoでつながることができれば、大きなインパクトが生まれそうですね。
ビジネス革命の先に行くために
杉原:短い時間の中で、Domoを通じたモバイルセントリックな経営に対する多くのヒントが得られたかと思います。最後になりますが、「ビジネス革命、その先へ」というテーマで、それぞれ一言お願いします。
田島:難しいお題で悩みましたが、ビジネス革命の先には「ルーティンワークからの開放」があると考えます。Domoが数字の可視化を自動化してくれることで、各領域のプロフェッショナルとして働く人々は課題発見や意思決定などのクリエイティブな仕事に時間を割くことができるようになります。本質的な仕事とは、正解のないことについて考えアクションすることだと考えます。私は「ルーティンワーク・ゼロ」で、本質的なビジネスに向き合える世界が間もなく実現すると感じています。
西田:誰かの課題を解決したり、ヒントを与えられるような仕事ができると面白いじゃないですか。Domoのようなノーコードのツールの登場は偶然ではなく必然と感じていますし、自ら課題を発見するために上手く使えるかどうかがポイントです。ビジネス革命の先に行くには、目的と手段をひっくり返してしまわないことが大切だと考えています。
手段に集中していると楽しくなって、目的を見失ってしまうことはよくあります。しかし、あくまで目的のためにその手段を選んだことを忘れず、そのプロセス自体も含めて楽しめるようになったらそんな良いことはないですよね。
杉原:ありがとうございます。今回登壇した三社は、いずれもスモールスタートの意識が根付いています。はじめから理想通りの「ビジネス革命」を全て実現することはできません。一方で、小さな取り組みが積み重なっていけば、どんな企業でもモバイルセントリックなビジネスやDXという、ビジネス革命を実現できます。それを信じて、小さな一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか。