管理部門やバックオフィスとも呼ばれるコーポレート部門には、人事や労務、総務、庶務、経理・財務、経営企画、法務、情報システムなど、多岐にわたる業務領域があります。企業がDXを進めるにあたり、会社のインフラ機能を担うコーポレート部門のデジタルシフトも必要性が増す一方で、業務領域が多様であるからこそ、横串しでのDX実現に課題を抱える企業も少なくはありません。
今回は、Slackをはじめとするデジタルサービスを活用した業務変革によって、コーポレート業務に使っていた時間の70%を削減したという、アンダーワークス株式会社代表の田島氏とコーポレートサービスを担う五十島氏に、取り組みについて話を伺いました。
オペレーション業務の8割削減を目標にした「J1C」
アンダーワークスでコーポレートDXに取り組み始めたきっかけを教えてください。
田島:これまでアンダーワークスのコーポレート業務は、基本的に五十島が一人で担ってきました。当社では元々デジタルシフトが進んでいて、コーポレート関連のサービスもいくつか導入しており、オフィスに来なくてもパソコンがあればある程度のコーポレート業務は完了できる体制ではありました。
ただ、今後はIPOを目指すにあたって、五十島には”人間にしかできない仕事”により注力してもらいたいと考え、単なるDXを超えた「J1C」(No.1 Corporate Service in Japan)とプロジェクト名を名づけ、2022年春からコーポレート業務の改革に臨みました。今年度を通して、今まで一人で担っていたコーポレート業務の80%を削減するという目標を立てています。
これまで五十島さんが携わっていたコーポレート業務の中で、負荷に感じていた部分にはどのようなものがありますか?
五十島:私は社長室兼コーポレートサービス本部のメンバーとしてさまざまな業務に携わっています。具体的には、総務、労務、経理、IT・情報システムがメインですが、業務リソースを大きく占めていたのは経理と労務管理でした。
経理でいうと、記帳業務、支払い業務、領収証の分類・整理、請求書の管理、予算管理のための集計など、ルーチンワークながらも細かい確認事項が多く、月末月初は他の仕事に割ける時間がとれないことも多くありました。経費申請の締日も毎月社内にリマインドを送ったり、抜け漏れがないかは手作業で確認するなど、地味に時間を使う作業が多くありました。
労務管理は、社員が勤怠システムに入力した勤怠状況を毎月確認し、締日に入力が間に合っていない人には個別に連絡をしたり、こちらも手作業の確認とリマインド業務に時間を多く使っていました。また、全社でリモートワークを行う中でも、入退社の対応や郵送対応、捺印対応などで出社しなければいけない業務が多々ありました。
IPOに向けた新業務に取り組むにあたって、リソースの大半を占めていたこれらの業務を、アウトソーシングやデジタルサービスの活用と工夫で削減していこうとしたのが、プロジェクトの始まりです。
手作業での確認やリマインド業務など、表からは見えづらくても必要な業務ですよね。それらを削減することについて期待したことや、逆に仕事が失われるといった不安があれば教えてください。
五十島:実際、オペレーション業務に5割の工数を割いていたこともあり、それらを無くしてよりクリエイティブな仕事に集中できることは期待の一つでした。一方で入社してから7年ほどオペレーション業務を一人で担ってきたので、属人化していた反面、この会社での存在意義のようにも感じていたんです。それが消えることには不安もありました。
ですが、代表の田島はコーポレートの仕事も重要視してくれているからこそ、効率化したほうが良い部分を理解してくれているんです。なので、コア業務に集中できる環境にしていこうという方針・思想は素直に嬉しかったですし、必要なリソースを生むことで自分にとっても新しいチャレンジができる楽しみのほうが大きくありました。
Zappierを使ってSlackをポータルサイト的に活用
オペレーション業務の削減に向けた取り組みを教えてください。
五十島:経理業務はもともと「freee」をベースにシステム化していましたが、オペレーション業務を中長期的に持続させるため、思い切って委託会社へのアウトソーシングを開始しました。収益認識基準での仕訳登録や原価計算、予算別の実績集計など細かい作業にも対応いただき、大幅な工数削減に繋がっています。
主にデジタルシフトを試みたのは労務・総務関連の業務で、新たにツールやサービスを導入したものでいうと、新入社員に貸与するデバイスのキッティング(初期設定)の外部委託や、ツールアカウントやデバイス・備品などを管理できるツール「ジョーシス」の導入、会社に届いた郵便がデータ化されWebで管理できるサービス「atena」などです。これらの活用で個々のオペレーション業務は大幅に減りました。
単にツールを導入するだけではなく、アンダーワークスならではの使い方を模索したのは勤怠管理の部分です。勤怠管理はそれこそIPOに向けても必須ですが、勤怠管理システム「freee」への入力が社内で徹底されていないという課題がありました。
元々当社ではSlackで出勤連絡をするフローでしたが、給与計算の自動化や勤怠管理の可視化に向けてfreeeにも勤怠を入力するように変更しました。ですが、これまでの習慣からなかなかfreeeへの勤怠入力が進まず、多くの社員が月末にまとめて入力することで実働との乖離が出てしまい、代わりに私が手動で確認・入力するなどの業務が発生していました。
そこで、業務自動化ツールの「Zapier」を使ってfreeeとSlackを繋ぐワークフローを設定し、毎朝Slackのボットで個人に勤怠入力の通知を行い、Slack上のワンクリックだけで出勤連絡とfreeeへの打刻が同時にできる仕組みを作りました。退勤時にも、8時間の稼働を基準に通知メッセージが届くように設定し、残業する場合はURLをクリックすると退勤打刻がアップデートされるようにしています。
田島:Slackは全社員が毎日業務に使うコミュニケーションツールであるため、Slackをプラットフォームとすることで社員は負荷なく勤怠入力ができ、Slackのボット機能を活用することでコーポレートのリマインド業務も大幅に削減されると考え実行した施策です。
Slackをプラットフォームとしたことで、勤怠入力の状況に変化はありましたか?
五十島:実際に95%の社員が抜け漏れなく勤怠入力を行ってくれるようになり、実働時間と勤怠記録のズレもなくなりました。今まで毎月の締日には手作業で勤怠の抜け漏れチェックをしていましたが、Slack上で各個人に勤怠入力忘れの通知を自動化したことで、手作業でのチェックをなくすことができました。
毎日の勤怠だけでなく、有給休暇などの申請はGoogleカレンダー、Slack、freeeをAPI連携させて自動化しました。今までは社内告知用にSlackのワークフローでの申請とfreeeへの入力という二つの登録が必要でしたが、抜け漏れも多く私の方で突き合わせてチェックしていたんです。今は社員が自分のGoogleカレンダーに「有給」の予定を入れるだけで、自動的にSlackに通知が飛び、freeeにも入力される仕組みになっています。
田島:Slackの中では、ボット機能から誕生したバーチャル社員の「やまと・ひみこ」がお知らせやリマインドを担うようにしています。締日にはその月の労働時間などの通知がいく他、勤怠の抜け漏れがあれば各個人にひみこさんからメッセージが飛ぶようになっているので、社員も業務の合間に入力をしてくれるようになりました。これらは全てZapierを使ってノーコードで設定しています。
Slackのバーチャル社員が「やまとひみこ」さんになった理由は…?
五十島:今まで私が担っていたリマインド業務をボットに担ってもらおうという中で、無機質なボットから通知が来るよりも、人間味のあるコミュニケーションのほうが社員も反応してくれるのではと考え、バーチャル社員が誕生しました。ひみこさんになった理由は、田島の娘さんが卑弥呼の勉強をしているのを見たのがきっかけだそうです(笑)
田島:今は社内の反応の有無をみたり、実験的にバーチャル社員を開始した段階です。現状はただのbot機能なのでお知らせも一方通行ですが、次の段階ではチャットボットのようなアプリの活用で双方向のコミュニケーションを実現していくことを検討しています。
コーポレートDXの展望
J1Cの取り組みを通じた変化や成果と、今後の目標を教えてください。
五十島:成果でいうと、現時点でオペレーション業務の7割を削減できており、私自身の働き方が変わったことです。作業的な工数もですが、一人一人にリマインドするためにタスク管理をしていたことも地味に手間になっていたので、それを無くして他の業務に充てる時間を創出できたことが大きな変化です。社内でも期日までに勤怠入力をしてくれる人が大幅に増えました。
今後はオフィスに出勤してやらないといけない業務を、デジタルサービスなどを使ってどんどん減らしていきたいと思っています。たとえば契約書への捺印業務は、社内ではデジタル化していても相手によって紙の捺印が必要になることも多く、いまだにオフラインでの作業が出てきます。他にも郵送業務や宅急便の受け取りなどを、自動化やアウトソースすることで、IPO準備に使うリソースを確保していきたいです。
田島:管理部門はルーチンワークも少なくはないことから淡々とオペレーションをやっていると思われがちですが、五十島を見ていると全くそんなことはありません。世の中のコーポレート部門も、人にしかできないクリエイティブな仕事にもっと集中できる環境を作ることが必要と考えています。
アンダーワークスのビジョンでもある「想像を超えた未来」を目指し、正解がない問いに対して判断しポジションをとっていくことにチャレンジしていくことは、ビジネス部門もコーポレート部門も変わらない姿勢であってほしいと思います。それに挑戦するメンバーの可能性を、今後もどんどん伸ばしていきたいですね。
話者
(代表取締役社長 田島学氏)
(社長室兼コーポレートサービス本部 五十島正恵氏)